裏路地で(後半)
「さぁケイ、僕を手に取って」
「おう、分かった!」
俺は日本刀に変形したリリアを手に取る。
目と鼻の先には今にも剣を振り落とそうとしている男の姿があり、俺はとっさに見よう見まねで居合切りの構えをとる。
「俺、日本刀とか使ったことないんだけど本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫、君の描いたイメージを再現するように僕がサポートする」
リリアのその言葉を聞いた俺は、勢いに任せて刀を抜刀した。
刃と刃が衝突し、耳をつんざくような金属音が裏路地にこだまする。
俺が抜刀した刀は自分でも驚くほど恐ろしい速さで空を割き、男の持っていた剣は裏路地の端に弾き飛ばされていた。
「す、すごい……これがリリアの力」
「お前、剣を振り落としたぐらいで調子乗ってんじゃねぇ」
「え?」
俺がそんな素っ頓狂な声を上げて男を見ると、男は体中から黒色のオーラを放ち、ものすごい速で拳を繰り出す。
俺は何とかその拳を避けることが出来たが、その代わりに裏路地の壁は彼の拳によって出来たひびが入っていた。
「ヒィィ……」
「ちょこまかと避けてんじゃねぇ」
男はそう言いながらこちらに振りかぶる。
この日本刀であの男の腕を……無理無理、そんなことできない!!
グロテスクだし、人を斬るとかそもそも嫌だし。
何か盾みたいな身を守るものさえあれば。
「なるほど盾だね、戦術打撃!」
日本刀になったリリアからそんな声が聞えると、彼女の身体が黄色く光る。
すると先ほどまで俺が刀を握っていた手は刀の代わりに盾を握っていて、俺はとっさにその盾で男の拳から身を守る。
衝撃が体に重くのしかかる中、盾に変化したリリアは俺に語りかける。
「いいかいケイ、これから僕と一緒に戦う時は自分がしたい戦い方を常にイメージすること、そしてそのイメージを君の能力【シンクロ】で僕と共有すること、この二つを心掛けるんだよ」
「戦い方をイメージ……こんな感じか?」
俺は自分の右手の甲にある五芒星の印を見て集中する。
昔ハリウッド映画で見た盾を使って戦うヒーローのことを頭に浮かべ、リリアにそのイメージを使えることを意識しながら一歩前に踏み出す。
勢いをつけて右へ左へ、男が放つ拳に応戦するように盾を突き出し打撃を与える。
まるでアクション映画のワンシーンのような激しい打ち合いを俺は男とくり広げていた。
「これ……武器に変形してるリリアが俺に合わせて動いてくれてるのか」
「せいかーい!ケイがイメージ道理に動けるように僕が動いてサポートしてるのさ」
すこし動きになれてきた俺は男の拳をかがむようにして避けて、隙が出来た男の身体にめがけて盾で思いきり殴りつける。
「こいつで終わりだ!」
俺とリリアは声をそろえてそう叫びながら渾身の一撃を繰り出す。
攻撃をもろに食らった男の身体は大きく吹き飛び、気絶した。
リリアは盾の姿から人間の姿に戻り、神妙な顔で気絶している男のことを見ていた。
「またあの黒いオーラ……今週に入ってもう二十件目なんだけど」
「うん?なんか言ったか」
「なんでもないよ、ただの独り言」
そんな会話をした後、俺達はあの男に捕まっていた小さな女の子の方を向く。
「君、大丈夫だった?」
「ありがとうございます……お二人の戦っている姿、かっこよかったです」
「そっか、それは良かった!あっと怪我はないか?」
「はい、大丈夫です」
彼女はそう言うと、大通りの方を見て大きな声を出す。
「あ、お母さんだ!!」
「え、ちょっと」
俺のそんな声を無視して女の子は走ってゆく。
裏路地をでる直前ぐらいのところで彼女はチラっと振り返って俺のことをじっと見つめていた。
その表情は、まるで仕掛けたいたずらにハマった大人を見て無邪気に笑っている子供の様に見えた気がした。
「ねぇお兄さん、すごく呼吸が乱れてるけど大丈夫?」
「え?」
俺はそんな声を出した後、自分の心臓の鼓動が異常に早くなっていることに気づく。
体中汗まみれで、呼吸はものすごく乱れている。
さっきまで興奮状態になっていたからまったく気が付かなかった。
そう言えば、転生する前はろくに運動してなかったしな……
急にあんな激しい動きをしたらなのか段々眠たく……
「ちょっとケイ、大丈夫?!」
そんなリリアの声を聞きながら俺はあの裏路地で眠ってしまった。
◆◆◆お礼!!◆◆◆
最序盤の山場である7話「裏路地で(後半)」まで本作を読んでいただきありがとうございます!
フォローや増えていくPV数など、励みになっております。
これからもこのペースを頑張って保ちながら更新していきますので、よかったら末永くこの作品をよろしくお願いいたします。
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