出会い
「やぁ、始めまして。見たところ君は異世界人かな?」
「あっはい、そうです」
「そんなに緊張しなくていいよ、何も怖いことなんてしないから」
彼女は微笑みながらそう言った。
急に女の人に話しかけられたので変に緊張してしまった。
大学生にもなって一人も彼女を作らなかったことをこれほどまで後悔したのは初めてである。
「相席してもいいかな?」
「え、ええ!どうぞどうぞ」
俺が手に持っている本を慌ただしく閉じながらそう言うと、彼女は席に座ってテーブルの上に気で出来た蓋のついた容器を置く。
「よかったらこれを飲むといいよ、緊張が取れて話しやすくなるはずだ」
「ありがとうございます」
俺はそう言って容器のふたを開けて中に入っていた液体を飲み干した。
「なんかこれジュースみたいな味がしますね」
「気に入ってもらえたようで何よりだよ」
さっきの液体を飲んだ影響なのか、いつの間にかうるさかった心臓の鼓動はおさまっていた。
しかも、さっきまでロクな会話をしていなかったのに思ったことをそのまま口にしているんじゃないかと思うぐらいよくしゃべれるようになっている
「すげぇ……俺今すっごくファンタジーな現象にあってる!!」
「うんうん、効き目はいい感じだね」
彼女はそう言って俺のことをじーっと観察するように見つめていた。
「そう言えば自己紹介まだだったね、僕の名前はリリア」
「俺の名前はケイだ、よろしく」
「よろしくね、ケイ。この世界に来た感想はどう?」
「そうだな……正直なことを言ってしまうと思ってたより夢がないっていう感じかな。能力が微妙ならせめてかわいいヒロインが欲しかった」
「ふーんなるほどね」
あれ?
俺とんでもないこと口走ってない???
しかも初対面の女の人の前で。
「ちなみにさ、ケイはハーレムみたいなのが好き?それともすっごく一途なタイプ?」
「一人のヒロインと一途に添い遂げたいかなぁ」
俺はそこまで言った後、パッと自分の口を手で覆う。
添い遂げたいかなぁじゃねーよバカ!!
何変なこと口走っちゃってるの。
「フムフム、性格面もいい感じだねぇ。やっぱりこの薬は役に立つ」
彼女はまるで小悪魔のように笑いながら俺が飲み干した液体の入った容器を見つめている。
何か嫌な予感を抱いた俺は恐る恐る口を開く。
「それは……一体どんな薬なんだ」
「ああ、これかい?数秒の間、思ってることが口に出てしまう薬さ」
「なにぃ?!なんてものを飲ませたんだよ」
「でもこれで緊張が取れて話しやすくなったでしょ」
彼女はそう言うと、ポケットから一枚の紙をとりだす。
その紙には俺の顔を精密に移した絵と、何かの文字がびっしりと書かれていた。
異世界転生の特典見たいなものなのか知らないが、俺はその見覚えのない文字の内容が自然と頭の中に入ってくる。
それは俺の身長や体重、能力などの素性が書かれたものだった。
「この紙を見た時から君のことが気になってたんだ、どんな性格か知りたかったからちょっと強引な方法に出てしまった」
彼女はそう言いながら照れくさそうに舌をだす。
その仕草はかわいいので反則である。
俺がそんなことを思っていると彼女は突如席を立ちあがり俺に向けて手を差しだした。
「ねぇケイ!よかったら僕を君の物語のヒロインにしてみないかい?」
彼女のその行動に俺は少し驚いて固まってしまう。
しかし、異世界にきてやっと夢みたいなイベントが始まったことに心が躍っている自分もいて……
気が付けば俺はリリアのその手を握っていた。
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