異世界に転生する、需要がないと言われて落ちこむ

 異世界転生と聞いて何を思い浮かべるだろうか?


 すっごいチート能力を貰って大活躍!

 元の世界にはなかったモテ期が到来してカワイイヒロインと一緒に暮らす!


 きっとそんな夢たっぷりのお話を思い浮かべるだろう。

 俺も自分が異世界に転生したと知った時にはそんな夢のような生活が待っていると思っていたのだが……


 「なんか……思ってたのと違う……」


 待っていたのはそんな俺の夢を粉々に砕く現実だった。


 「俺の能力……たしか【シンクロ】って名前だったか。契約した人間と脳内イメージの共有が出来るって結構使えそうな能力だと思うんだけどなぁ」


 俺は冒険者ギルドと呼ばれる建物の中にある食事用の席にため息をつきながら腰かけた。


 時間にして約2時間前、俺は元居た世界で死んでこのユガルタという名前の異世界に転生した。

 転生して一番最初に見た光景は、怪しい儀式をしてそうな石造りの部屋だった。


 そこには鎧を着た人や、大きな武器を担いでいる人、ゲームやアニメなんかで見たことのある恰好をしている魔法使いや鍛冶師など、たくさんの人が居て、部屋の中央に居る俺を見ていた。


 なんでもこの部屋は、日本で死んだ人間をこの世界に転生させることが出来る部屋らしい。

 そしてお約束通りというかなんというか、転生した人間は希少な能力を持っているんだとか。


 だから俺みたいな異世界人がここに召喚されたときには優秀な冒険者たちや人気店を営んでいる人たちがその希少な能力を求めて異世界人をスカウトしに来るのだが……


 「転生者は希少な能力を持つなんて言われたときはワクワクしたのにさぁ……あの場にいた全員に俺の能力に需要がないとか言われたらさすがにへこむ」


 自分の能力を知った俺は遠くの仲間との連絡手段に使えるスキルとして自分を売り込んだが、どうも魔術で出来た携帯電話のようなものがこの世界にあるらしく俺の需要は一気にゼロになった。


 今度は鍛冶師の人たちに俺の頭にある武器のイメージを設計図として使わないかと売り込んでみたのだが……「自分の設計図を形にするのが好きだから鍛冶師をやっている」と言われて断られた。


 結局、俺は誰からもスカウトされず、一人でこの見知らぬ土地を漂っている。


 今俺が持っているのは部屋にいた親切な人からもらった少しのお金と、何故か一緒にこの異世界に転生してきた俺の愛読書『読んだだけで幸福になれる本』だけだった。


 「てかなんで日本人限定でこの世界に転生してくるんだよ!どういう仕組みだよまったく」


 自分の中のフラストレーションをそんなことに擦り付けながら俺は『読んだだけで幸福になれる本』の表紙を睨む。


 「こういう自信が最高になくなった時は122ページぃ」


 俺は壊れたロボットのように言いながら持っている本のページをパラパラめくる。

 内容を完全に覚えてしまうぐらい見直したそのページをボーっと見ていると、不意に後ろから声をかけられる。


 「やぁ、始めまして。見たところ君は異世界人かな?」


 俺が後ろを振り向くとそこには高身長黒髪ロングの女性が立っていた。

 

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