第5話 養殖業者

私の中でファンサ≒残チェキ数字増やしになった。


目の前のオタクは、あと何枚チェキ取ってくれるのだろうか。

地下アイドルなら知りたいことが私には視える。



特定の推しを作らないDDとは逆に変に一途な性質のオタクもいて、同じグループのメンバーを応援していても

推し以外とはチェキを撮らないオタクもいる。



「ワズカちゃん、今日もライブ楽しかったよー」


ライブ後、物販スペースに向かう途中、無銭で話しかけてくる高ファン(高速ファンージュの略)オタ。

顔や名前は現場に半年も通っていれば嫌でも覚えているがアイツには、別に推しがいて

私とは一切チェキをとらない。


いかに同じ空間にいて、ライブを楽しみ、サイリウムを振り、コールをし、ツーステをうまく踏んでも私とチェキを撮らない以上は、そいつらは天使だ。


私にとっては、無関係な異世界の住人。


私にとってイケメンの天使よりも数字の浮かんだ説教おっさんの方が大切だった。



残チェキ数がみえるようになってから当然といえば当然だが私のオタクは嬉しいことに増えだした。


チェキ物販なんかの接触で

ファンを多く獲得するアイドルを釣り師という。


私は最初、目の力を利用し、釣り師を目指した。



そんなとき私は気付いた。

いや、気付いていた事を実行した。

魚を何回も釣るより

釣った魚を養殖するほうが効率がいい。


 そもそも残チェキ数が見えているオタクは、既に釣った後の状態だった。

現時点で確定している釣果が残チェキ数なんだ。



うん、私は養殖業者になる。


釣った魚に、餌を与え、大きく育てよう。


私は、そう心に決めた。


ただオタクはバカだが、そこまでバカじゃない。

上手にかまってあげなくては。


オタクからの要求が、エスカレートしすぎないように注意した。

初めは残チェキ数1桁の稚魚でも3桁をこえる大物にだってなりうるのだ。


養殖を実行すると、私の評価がオタクの中でどんどん上がっていった。

誰もが見返りを求めている。


私は、見返りが確定している努力はできた。


ワズカちゃんは、本当にファン想いだよねー。


今日もライブ中レスたくさんありがとー。


ワズカちゃんは、いつも神対応だねー。


オタクは基本的に異性からの好意に飢えている。

私の物販には、水面でエサをもらう鯉の様にオタクが群がった。

異口同音にパクパクと私を褒めてくれる。


難しい言葉も思わせぶりな態度も必要なかった。

ゴメン、かなりチョロい。

逆に今まで何もしていなかった自分に気付いた。


オタクの求めるヤル気とは、

歌やダンスの練習ではなく、

自分の行動に対するリアクションの速さだったからだ。


リプ返やイイネ、貰ったものへの感想etc


もちろん内容も重要だったが

何よりもまずは速さだった。


兵は拙速を尊ぶだ。

その求めに対して全力で応える。


ただ、オタクはワガママなイキモノで手に入れるまでは速さが至上命題なのに手に入れた、途端に求める至上命題が内容≒質に切り替わった。


 そこで、私は2段階レス方式をとった。

ツイッター上でのリプ返を例に説明すると


①まずは、お礼を速攻で返す。

これは内容は薄くていい、速さ第一だ。

そうすると大概のオタクは返信をしてくる。

②そのリプに内容を充実させる。ここでは、そのオタクのパーソナルな部分だったり、こだわり、オリジナリティを感じさせるコメントを返した。


オタクは他人が特別扱いされるのは、死ぬほど許せないが、自分がされる時は、天にも登るほど嬉しがった。

見事なまでのダブルスタンダーだ。

①の速攻返信に食いついてこないオタクは、どんなことをしても現場には来ない。

レスだけ欲しがるネット上の天使なので②のコメントをしない目安にもなった。


飛天御〇流ばりの2段構えをした。


善悪は自分にとって

都合が善いいor悪いの略語だった。

私は、相手にとって非常に都合が善い言葉を返した。


天使以外は、少なくとも私に好意があってチェキをとってくれる。

この確定情報が心強かった。

レスにかかる時間も気にならなかった。

私は、見返りが確定した努力はできたのだ。



逆にオタクは、よく見返りが確定していないのに応援ができるな。


自分の時間やお金を惜しげもなく注ぎ込んでくれる。


実は、特殊能力を持っていて、チェキを累計1万枚とるとアイドルと結婚できるシステムなのだろうか。


もしくは遊園地のオープン5万人記念とかみたいに、キリ番のチェキとったオタクがアイドルと付き合えるシステムなんだろうか。


もしかしたら私の頭の上には、結婚キリ番のカウントダウンが、表示されてるのかもしれない。


そうなったらラス1のカギ閉め争いが激化しそうだw


オタクは、なんで見返りがあるともわからないことに

ここまで必死になれるのだろうか。


私は、オタクがわからなかった。


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