第2話 出発
起点は、利根川サイクリングロードの再開地点。
再開地点というのは、千葉側の利根川サイクリングロードは、野田市スポーツ公園のあたりから寸断されており、利根運河付近からまた再開されているという意味だ。ここから5kmほどひたすら走る。
走り出して、いきなりイタチに遭遇した。
図鑑と見比べたわけではないので正確ではないかもしれないが、多分イタチだ。なぜなら、『魔法少女リリカルなのは』に出てくるユーノくんそっくりだからだ。あれはフェレットだったか。
利根川サイクリングロードには、特に野生動物に遭遇することが多い。野ネズミ、キジ。私は見たことがないが、ホンドギヅネや狸を見かけることもあるらしい。自然が残っていることは、嬉しいことだと思う。
その後、常磐自動車道、つくばエクスプレスの高架の下をくぐり、土手の上のサイクリングロードを駆け抜ける。
気持ちいい。空は澄み切っており、サイクリングロードも、たまに謎の動物の糞(馬糞に似ている)が落ちている以外、快適だった。
何より、追い風なのが助かる。ほとんどペダルを踏んでいないのに、時速30kmは楽に出ている。
厳密にいうと、パワーメーターの数値は100w出ていないのに、時速30km出ているので、このまま体力を温存しながら行くことにする。何しろ、100km超の長旅だ。
子供が生まれる前は、津田沼に住んでいて、江戸川の関宿まで往復120km走ったり、もう少し先の渡良瀬遊水地まで往復150km走ったりしたこともあったが、子供が生まれてからは、子供達を置いて休日に遊びに行くことができるはずもなく、レースの時以外は、基本的には朝5時起きで子供たちが起きる7時までに帰ってくるという、短時間練習か、ローラー台でZwiftという仮想空間を走れるアプリでトレーニングを行ったりしていた。
つまり、かなり久々の長距離ライドになるのだ。
それが結果的に、大きな判断を狂わせる結果となってしまった。
先にオチから言うと、とてつもなくお尻が痛くなることになった。
ロードバイクのサドルは、硬い。そのために、ロードバイク用のズボンであるレーサーパンツは、お尻にクッションが入っている。ただ、それでも硬い。普通にママチャリ感覚で乗っていたら、お尻がもげそうなほど痛くなる。
ロードバイクに乗るときは、お尻を乗せるサドルの他に、ハンドルを持つ両手、更にはペダルを踏む両足と、3点で体を支える必要がある。
ペダルは、漕いでいる間は常に回っているので、どうやって体を支えるんだ、と思われるかもしれない。そこは、常に一定の強さでペダルを踏み続ける、と言うことになる。
右のペダルが沈んだら、左のペダルを踏む。左のペダルが沈んだら、右のペダルを踏むと言うように、常に一定の力でペダルを踏み続けることで、両手、お尻と共に体を支え続けなければならなかった。
しかし、愚かにも私は、体力のことばかり心配し、このことをすっかり失念していた。ペダルを踏まなくても前には進むが、ペダルを踏むことをサボると、両手、お尻に負荷がかかり、次第に痛みが出てくることになる。
体力は、水を飲んだり、食事を摂ったり、休憩することで割と短時間で回復できるが、お尻の痛みは、下手すると数日は治らない。
私が自分の過ちに気づくのは、もはや退っ引きならないほど、お尻が痛くなった後になる。
序盤、順調に走り出した私は、利根川サイクリングロードの千葉側を5kmほど走り、新大利根橋までやってきた。
ゴールデンウイークの中盤の初日、茨城へ渡る車で、橋は渋滞している。
新大利根橋から先は、千葉側はサイクリングロードが繋がっておらず、一般道を走ることになる。それを嫌った私は、もう一方の茨城側のサイクリングロードを走るべく、この新大利根橋を渡ることにしていた。
しかし、実はこの判断も誤っていたと、私は激しく後悔することになるのだった。
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