第19話 ちいさな天使たち
カーラさんに言って、孤児院の台所を借りようとした。
「そろそろ夕飯の準備をしますので、一緒にやりましょう。タロート君も是非、一緒に食べましょう」
とのこと、ここはカーラさんのご厚意に甘えよう。
エルフの子を他の子供に任せて、
逃げないように客間で一緒に遊んであげようと頼んだ。
一番上の男の子とフローラは一緒に手伝うって言ったけど、
今日は私が持って来たすぐにも食べられる物もあって、
そんなに掛からないよっと、カーラさんは柔らくお断りした。
私としても、あの子と一緒にいてくれると助かる。
「お母さん、お風呂使いたい、だめですか?」
淡紫色の少女は同じ髪色の女性に声を掛けて来た。
「ええ、いいよ。服の用意はできる?」
「うん、大丈夫!ありがとうお母さん!」
走って行ったフローラを見て、カーラは微笑んで見送った。
お風呂に入ることは、昔贅沢な行為だったみたいだけど、
例のところからの新しいせっけんが一般の家庭に浸透して以来、
国中の家の中にお風呂があるということは普及してきた。
さすがに毎日は贅沢だけど。
ほどなくして、
「や、いや!」
台所の後ろにある裏庭から悲鳴が聞こえる。
「こらあばれないで、服がよけいに汚れちゃうでしょ」
窓を見ると、裏庭にある小屋の前に、
フローラと耳が長い女の子がなにやらもめているようだ。
二人の少女を見て、カーラさんはふふっと笑った。
なるほど、さっきフローラとカーラさんのやり取りは、
言及してなかったけどエルフの子を風呂に入れるためだったのか。
「ごはんを美味しく食べるのだから、体もきれいにしないと」
「う、うぅ…」
「お兄さんにもくさいって思われるよ」
そんな指摘に、エルフの子はピタっと止まった。
やはり女の子だからか、身だしなみは気になるようだ。
小屋に入る二人を見て、カーラさんと一緒に微笑んで見守った。
野菜やほかの具材を洗い、カーラさんに渡す。
「スープの材料はこれでいいのか」
「ええ、ありがとうね」
火を起こしながら、カーラさんは返事をする。
「あの子、知り合い?」
「…ええ、まあ」
そんな普通の会話に、私は私らしくない言い淀む。
なんて言えばいいだろう、あのエルフの子との関係は。
別にあの子のこと知ってるってわけじゃない。
何回か会ったことあるけど、話を交わしたわけじゃない。
市場で出会って、その後暗い路地裏で会うのも偶然で、
それにあの子は…泥棒なのだろうか?
まだフローラについての事を聞きたいけど、なかなか切り口が見いだせない。
原因の半分は、突然に騒ぎの中心になったエルフの子である。
あの子さっきカーラさんのことをお母さんって呼んだのを見て、
それが本当の母親だという認識なのか、それとも他の子供と同じ、
世話をしてくれる優しい大人の女性を母親として慕っているだけなのか。
私がカーラさんにフローラの事口に出せば、
カーラさんもまたビビアナの事聞くのではないのか、
会話の流れを予想すると、普通はそうなる。
だけどカーラさんは母親の笑みを浮かんでばっかりで、
彼女らの事何も言わずに黙々と料理の準備をした。
もう先月の事か、市場で割符が盗られたこと、
そしてそのあと路地裏でパンで交換したこと。
盗みを働いたのは、事実だ。
でもなんだかあの子は放っておけない。
それにちゃんと割符と首飾りを返してくれたし、
悪い子じゃないはず、
こんな小さい子があんなことをするのは、
きっとなにか深い理由があるはずだ。
それきりで、夕飯の料理の準備が終わるまで、
カーラさんとは会話はなかった。
「みんな、運ぶの手伝ってー」
「はーい」
子供たちは元気が有り余るように料理を運んだ、
ごはんの時間だからテンションも上がっているな。
そんな子供たちの手伝いもあって、
あっという間に客間の机の上には料理と食器が並べた。
別の部屋からフローラは椅子を持って来た、
なるほど、私たち客がいるから、
座る椅子が足りないのを察知して先に運びに行ったのか。
カーラさんの言う通り、優しくていい子たちだ。
フローラの後ろについてドアをくぐったエルフの女の子は、
さきほどと見間違えたように、埃のついてた髪は、
いまはより一層神々しい輝きを放った。
風呂に入って上気になった肌も、その眸と長い睫毛も、
透き通るような薄いピンク色する小さな唇も、
まるで完成された芸術品のようだった。
なるほど、エルフは神や天使の遣いという伝説も、
あながちおとぎ噺ではないかもしれない。
そう思われるほど、あんまりにも彼女は綺麗であった。
身についてるのはあのフードではなく、素朴な服になっている。
同じくらいの背高のフローラのを借りてるのかな。
「兄ちゃん、はい」
「ありがとう」
子供たちは甲斐甲斐しく皿やお椀、
そして料理を取り分けて渡してくれた。
ファーストコンタクトが上々のお陰で、
子供たちからにはかなりの善意を感じ取れる。
豆菓子様々である。
「はい」
明確に言ってないが、一応私が招いた客ということで、
あのエルフの子は私の隣に座っている。
皿を受け取った勢いで、彼女に渡す。
「あっ…」
やや強引だったが、ついさっき子供たちから受け取ったこともあって、
違和感を感じさせずに彼女の手に渡せた。
机を囲んで全員が座ると、
カーラさんと子供たちは手を合わせて、
祈りの句を唱え始めた。
「神よ、我らの主よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事を頂きます。ここに用意されたものを祝福し、私たちの心と体を支える糧とし…」
うちには特にその習慣ないけど、
他の皆に合わせて手を合わせて、頭を下げた。
一つの目を開けて横を見ると、案の定エルフの子はおろおろしていた。
微笑みをかけてウィンク一つ、そして頷いて促すと、
彼女も真似して手を合わせ、頭を下げた。
「ビビアナちゃん、はい」
食事前の祈りが終わり、
エルフの子の隣に淡紫色の髪をしたフローラことフローラルは、
スープをよそい、彼女に手渡した。
「あ、ありがとう…」
やや遠慮にだが、声をだして貰えた。
この子の言葉を聞けたのはこれで初めてだ。
この感じだと、私とカーラさんが料理している短い間で、
ちゃんと仲良くなってるみたいだ。
優しくて心遣いができるフローラならと、
狙い通りになれてよかった。
私とフローラはビビアナを挟んだ形で座っていたので、
二人のやり取りはよく見れる。
ビビアナ。
それはこのエルフの子の名前なのか。
ぎこちない手付きで、スープの入ったお椀を持ち上げる。
「熱いからゆっくり飲んで」
「う、うん」
一口を入れて、不安だった表情が一気にパァーという音を上げて変わった。
一口、また一口、あっという間にお椀が空になった。
ほぁーの声をだして幸せそうな顔をする。
「おかわり、いる?」
「うん、ありがとう」
フローラに笑顔で答える様を見て、
二人は本当に仲良くなってるみたいだな。
「こっちのパイも美味しいよ」
「う、うん」
あれ、なんか壁みたいなのを感じる。
そこは仕方ないか、私はこの子と実は知り合ってはいないし、
ちゃんとした会話もまだ一度もない。
比べて短い間だがちゃんとお話ししてたフローラの方が、
自然体で接することができるのだろう。
今日初めて出会って、話も殆ど交わしてないが、
フローラルは人に優しく接せる良い子なのは分かった。
見る見るに平らげるビビアナの皿を見て、
私はフローラと目を合わせ、微笑み合った。
「ごちそうさまでした」
食事後の祈りが終わり、子供たちは食器を下げた。
手伝うつもりでしたが、
おれたちにまかせて!
と一番上の男の子は私とカーラさんとビビアナを残して、
他の子を連れて台所に入った。
気を遣わせちゃったか、まだ小さいのに立派である。
私もまだ13歳になりたてた子供だが、まあ、そこは年上だから。
食事が終わり、それなりに元気になったビビアナだったが、
この状況だからか、やっぱり不安そうに裾を握っている。
この中で多分一番仲が良くなったフローラ居た方が、
ビビアナを安心させることができたかもしれないけど、
これからの会話は、まだ子供たちには聞かれない方がいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます