第15話 黒い髪の男を捜してた女の子のお話(中)



「お腹空いた…」


 あれからどれくらい歩いたのだろう。

 道のりの果樹が少なくて、お腹いっぱいになれないし、喉も乾いた。

 平原を歩いて、いくつかの丘も越えて、足が痛くなってきた。

 森の中なら全然大丈夫だったのに、行ったことのない道を歩くのが、

 こんなに疲れるのか。


 最初に怖くて眠れなかった夜も、今はなんとか眠れるようになった。

 地面で寝るのはきけんだけど、木の上ならすこしだけ安心に眠れる。

 お母さんが作ってくれた服も汚れてて、川があれば洗いたいな…

 また昼になり日差しが強くなって、私は服についてるフードを被った。


「あっ…」


 また一つの丘を登って、目の前に広がる風景におどろいた。

 見たことのない、石で作った長くて高い壁。


「ついた…」


 ここが人間の町なのか…


 おそろおそろに近づくと、更にその石壁の裏にある光景に驚かせた。

 その向こう側にいっぱいいっぱい、いーっぱいな建物がある。

 私が住んでた森の十倍、いや百倍も家が建っている。

 

 すごい…

 吸い込まれるように中に入ると、どこにも人、人、人、人が!

 まるで蜂の巣みたいに、どこにも人が歩いてる。

 足の違和感に感じて下に向いていると、地面は土ではなく、石で出来ている!


「嬢ちゃんそこあぶないよ」

「っきゃ!」


 急に声掛けられて肩が跳ねた。

 振り向いていると、そこにはでっかい男がいた。


「きゃああ!」


 びっくりして後ろに一歩とんでいると、

 体が大きい男は何事もないように荷車を引いて歩いだした。

 見つめるのもつかぬ間、また別の人が横切る。


「わわっ」


 ちょっとごめんよー

 おっと、気を付けてな

 なんだ貴さま!なんだガキか

 行き来する人が多すぎて、もみくちゃにされた。


「っぷわ」


 なんとか人かすくなめな一角にたどり着いてっほと一息をついた。

 びっくりしたー

 高い建物、大量な人に圧倒されそうになる。

 周りを見ると、歩き回ってる人々だけではなく、

 地面に引いた敷物のうえに座って、その周りには水瓶や皿とか、

 服とか、キラキラで色んな色の輪っか。


 その横には布で出来た簡易の屋根と台座、台の上に綺麗な模様の布が置いてる。

 ほかに服とか、装飾品なのか、よく分からない道具が並んでいる。

 花束、革で出来た靴、よく分からない筒、様々なものが置いている。


 ここはどこなんだろ…

 まったく見たことないものに囲まれて、

 驚きの連続が過ぎてあたまがちょっとぼーとして歩いてた。


 またすこし歩いていると、ある果物を置いた台座に目を奪われた。

 丸くて赤い実をした果物を見て、ぐーとお腹が鳴いた。


「うぅ…」


 手をお腹に当てる、お腹空いた…

 うぅ…食べたいな、この実、こんなにも大きく丸くて、

 きっと果汁は多くて甘いだろうな…

 果物の中身を想像して、いつの間にかそれを掴んでしまったらしい。


「すみません、これ三つください」

「へい、まいど」


 目を上げると、大人の人間が、丸くて薄い灰色の金属を台座の逆側の人に渡して、 

 その人は果物を紙の袋に入れて交換するように渡した。

 なにをしてるのか分からないけど、もしかしてこの果物が欲しいのなら、

 なにかを交換しないといけないのかな。


 そう思って何か渡せるものないかと探そうとしたが、

 私なにも持ってないんだった。

 慌ててると視線を迷わせると


「…ッ!」


 驚きすぎて声もでなかった、なんと黒い髪の人が目の前にいた!

 見つけた…?いやでも…え?

 黒髪の人、黒髪の人が!

 森から出てずっと、ずっと探していた人を見ていた。

 その人はこちらを見ているの気付くのは、そのあとのすぐだった。

 混乱して頭が真っ白になって、わっとなって走り出した。


「おい、あぶね!」

「ちょっと押すなって!」


 何人かにぶつかって怒られて、また怖くなって走って逃げた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 いきなり起こることが連続で、あたまもこころも落ち着かない。

 とにかく走った。



 しばらくたくさんの人から逃げるように走ったら、周りが静かになった。


「はぁー、はぁー」


 肩でいきをして、頭をまわって周囲を見る。

 ここはどこだろう?

 夢中に走ってたら、いつの間にか建物の間の暗くて狭い道に入っちゃった。


「はぁ…はぁ…」


 心臓がぱくぱくして、足もちょっとぷるぷるしてる。


「すー…はー…」


 袖で額の汗を拭いて、一度深呼吸。

 なにをしてるのだろ私。

 せっかく会ったのに、どうして逃げちゃったのだろ私。

 いまさらちょっとだけ冷静になった。


 しょうがないでしょ!

 だって私はただ、黒髪の男を探すために来ただけなんだから!

 探して、見つけて会って、それから…

 ……それからは、なにも考えてなかった。


 なにをしたかったのだろう、お母さんがちょうろさまたちから庇った人、

 あの黒髪の男、私の…お父さんかも知れない人に…会ってなにをしたいんだろ…?


 まさかこんなに早く見つかるとは思わなかった。

 でもあの人は…森で見た人とはたぶん違う、私よりはちょっと背が高いけど、

 森で見た黒髪の男はもっと高かった、お母さんより高いんだもの。


「あっ…」


 気が付くと、手には赤い果物を掴んでいる。

 両手を持って、またさっきの人の顔を思い出す。

 勇者以外の他に黒髪の人がいる事なんてしらなかった。

 いいひと?わるい人?

 わからない。

 分からないけど、お腹が空いたから、とりあえず手に持ってる果物を齧った。

 ~~ッ!

 あまーい!

 口の中で噛むとシャリシャリして、甘い水が中から染み出てくる。

 一口、また一口。

 いつの間にか、もう黒くて硬い種しか残らなかった。

 はぁ…美味しかった。

 初めて食べた果物だけど、森で取ったものみたいに甘くて美味しい!

 もっと食べたいな…


 あっという間に赤くて丸い果物がなくなった、

 残された黒い種を指で掴んで転がしてみる。


 これは、すごくわるいことだろう。

 だけど、私は他にどうすればいいのか分からない。

 なにより、あの人を探したい、見つかるまで、

 お腹空いたせいでここで倒れるわけにはいかない。


 多分私が捜してた人とは違うけど。

 あの人なら、もしかしてなにか知ってるんじゃないかって思った。

 また、あの人に会いたい。



 それから、あの"いちば"っていうところに食べ物を盗んでいた。

 夜は布とか藁を捜し集めて、人気のない倉庫の陰で寝ている。

 寒いけど、なんとか朝まで耐えられる。

 そうしているうちに、背が私と同じくらいの子供に出会った。

 この人たちは、他の人の物を勝手にとったり、金になるもの盗んだり。

 私と同じ。


 森の広場で見たあの黒髪の男は勇者なのでしょうけど、

 いちばで見たあの黒髪の男の子は?いったいだれなんだろう?

 黒髪の男の事を聞いても、勇者であること以外知らないらしい。

 それ以外にもこの町のこととか色々教えられた。

 わるいことしてるから人の事言えないけど、

 私はこの子たちを信用していないしできない、

 森に居た時も人間は怖い人が多いって聞かされたし、

 盗みの時以外距離を取っている。


 私は、また黒い髪の男を会うまで、なんとかして生きるためだから、

 そう自分に言い聞かせながら、食べ物を盗んで食べている。

 そう、生きるため。


 私の…お父さんかも知れない人と、

 もう一人黒髪の男の子のことを考えながら、

 藁の詰まった袋の中に眠りについた。


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