第9話 たのしいたのしい私の誕生日(下)


 ケーキを分けたの後、母さんたちは庭で小さなお茶会を開いた。

 、積もる話もあるだろう。


 かれこれ6年くらい勇者を見ていない。いや、正確に言うと、

 後ろ姿は何回か見たことあるけど。


 聞いた話、勇者は毎年には二、三カ月はベルリャに滞在するが、

 ”多忙”なためうちには顔見せに来ていない。

 その都度月に何回か姿を見るが、

 毎回を連れてレイナのうちの宿に泊まる。

 宿屋の"すぐそこにある道具屋"には足を運ばない。


 最後に正面から勇者の顔を見たのはロアの1歳の誕生日の時だった。

 その事実に、実は心の中でほっとしてる。


 ――もう二度と、母親の欲情に狂った淫らな声を聞きたくない。


「お兄ちゃん!」


 沈思に落ちた私を呼び戻したのは、ロロアの声でした。


「うん…?あぁ、ごめん、どうした?」

「あのね、れいなお姉ちゃんと一緒につくったの!」


 ロアが両手で差し出したのは、小さな人形のぬいぐるみだった。


「これを…私に?」

「うん!誕生日プレゼントだよ!」


 誕生日プレゼント。


 横にいるレイナを見てたら、小さく頷いてくれた。

 少しかがんで、もう一度人形をよく見る。


 手足と胴体が短く、目の部分はボタンで出来ていて、

 若干ファンシーなぬいぐるみ。

 髪の部分は黒だった。


「もしかして…私の?」


 私の姿を模した人形なのか。


「うん!お兄ちゃんだよ!」


 ぺかーと言う音でも出そうなほどな笑顔を見せる妹。


「…ありがとう」


 いや…他になんと言っていいか、口が回らない。

 嬉しいな、これ…すごく。

 思わず目の前のロアに抱きしめる。


「ありがとう、ロア」

「えへへ」


 額に口付けして、ロアの笑顔を享受する。


「うれしい?」

「ああ、すっごく嬉しいぞ、大事にする」

「お姉ちゃんにもおれいゆって!」

「あぁ…」


 そうだ、これぬいぐるみはロロアとレイナの合作だった。

 立ち上がって、レイナの顔に向ける。


「レイナも、ありがとう」

「うん、どういたしまして」

「いつもロアを見てくれることも含めて、何かお礼をしたい」

「い、いいよそんなの」


 少女は手を振って困る様子で言う。


「それに、わたしこそ、いっつもお兄ちゃんに貰ってばっかりだったし…」


 頬を染めた彼女をみて、こっちもつられてちょっとドギマギする。

 ついさっき叔母さんたちのおふざけのせいで、なんだか変な気まずい空気に。


「お姉ちゃんにぎゅーはないの?」


 隣に居たロアがとどめを刺してきた。


「あ、いや、えっと…」


 ロアの無邪気な言葉を受け、

 一時どう反応すればいいのか分からなくなってレイナの顔を伺う。

 顔が茹でるように赤くなったレイナは、こちらの視線を交わして、

 また下に逸らした。


「しないの?」

「流石に、ねぇ?」


 そりゃ、可愛い妹には抱きしめたいけど、他の皆もいるし、

 そんな大胆の行動はできない。


「ロア、お兄ちゃんとお姉ちゃんは困ってるの、許してあげてね」


 皆のお姉ちゃんであるリディアは助けの手を差し伸べてくれた。


「むー」


 ロアは納得いかなそうに唇を尖らすが、それ以上は言わないでくれた。

 ほっと一息して、レイナを見て、彼女もまたほっとしてるようだ。

 助かったが、若干もったいない気もする。


「私からはこれね、はい」


 姉から差し出されたのは、五寸ほど長さの長方形の箱。


「わぁ、なになに、なにこれ?」


 妹たちも好奇心いっぱいに目をキラキラさせる。


「開けていいか?」

「うん、もちろん」


 フタを開けると、中は細い楕円の形をした黒い筆でした。


「わぁ…」


 誰かが感嘆の声をあげる。

 昔からはずっと羽ペン使っていたが、カタル領から流行りだした新しいこの筆は商人や貴族の間の主流になりずつである。


「これからも頑張ってね!」


 商人を目指してる私にとって、最高の励ましのプレゼントだ。


「ありがとう…姉さん」


 自分自身も忙しいのに気を掛けてくれる姉には、

 感謝しきれない気持ちがいっぱいになる。


「おにぃちゃま!はいこれ!」

「これは…」


 模様が縫いてある白いハンカチだった。


 一対長いの耳をしたウサギに見えなくはない、

 カチューシャさんの手伝いもあったであろうけど、

 この年で刺繍を始めるのはすごくえらい。


「ありがとう、リア」


 丸い頭に手を乗せる


「ふにゅ」


 頭撫でられて気持ちよくてとろけそうな顔をするオーレリア。


「リアすごーい!」

「すごいすごい!」

「えへー」


 姉妹たちに揉みくちゃされ、嬉しそうなリア。

 見てるこっちも幸せな気持ちになる。


「…はい」


 いつの間にか横に来ていたツインテールの少女は、

 放りだすように無造作になにかを渡してきた。


「うん?あぁ、ありがとう」


 それ受けると、ネフィーはまた腕を組んで顔を別の方向に向く。

 強引に渡されたのは、素朴な作りの革の手袋でした。


「高いでしょ、これ」

「別に?お小遣いとお店の給料あるし」


 そうかな、確かにあの喫茶店は人気があって、収入はいいはずだが、

 お小遣いはもっと自分のために使って欲しい。


「でも…」

「なによ!あたしからのプレゼントいるの?いらないの?」

「…いる」


 めっちゃ要る。

 可愛い妹からの誕生日プレゼント貰えるは、すごく嬉しい。


「ありがとう」

「…ふん」


 小さく鼻を鳴らした妹だが、そんなに不機嫌そうには見えない。


「お兄ちゃん!一緒に遊ぼー」


 妹呼ばれて返事する


「ああ、遊ぼう」


 私にとって妹たちと一緒にいられる時間は貴重で、大切な一時だ。


「今日は部屋の中で遊んでね」

「はーい」

「なにして遊ぶー?」

「おままごと!」

「この人数のおままごとはちょっと…」

「かけっこ!」

「それ外での遊びだからね」

「えっとえっと…」


 喧々囂々


 こうして祝ってくれる姉と妹たちに囲まれて、

 私はなんという果報者なのでしょう。


 慌ただしくて騒がしい一日だったが、楽しくて嬉しくて、

 幸せさえも感じる一日でもありました。


 幸せに浸していた私は、窓の外にフードを深く被っている影を、

 気付かずにいるであった。

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