第8話 たのしいたのしい私の誕生日(中)
「「お誕生日おめでとー!」」
本日二回目のコール。
「さあさあ、宴の続きの始まりだー!」
ナターリアはいつの間にか葡萄酒の瓶を開けてはしゃいでる、
なんだこのおばさん。
今日はなぜかフィリスさんが来ていない、
二年前まではよく遊びに来てくれてるけど、誕生日なのに来てないのは初めてだ。
去年はお腹膨らんだままでも来てくれたがな。
まあ、経験上、探しに行かない方がいいがな。
勇者とエンカウントしてしまうかもしれないから。
料理を頬張るロロアの口元を拭く母さんたちを見ながら、しばし思いを巡らせる。
私の特殊性のために集まる人間が居なくなったのは、正直すごく助かる。
勇者の力何一つ受け継いでいないのを広く知らされた以来、
私の誕生日を祝ってくれるのは、親しい人間だけになった。
私が生まれた時からロロアの大きさくらいなるまで、
毎年の誕生日はそれはもうたくさんの人が集まってくるらしい。
貴族やお零れの甘い汁を吸う人たちは私を、
黒髪の男の子として生まれてきた私を、次の勇者だの祭り上げようとする。
だが残念なことに、私にはなんの特別な力も持ち合わせていません。
ただの道具屋さんの長男です。
今になって私の誕生日でこうして人がたくさん集まってくれるのは、
その時の名残でしょう。
その点においては、感謝の気持ちはあります。
「これでタロー君も13か…成人まであと二年だっけかー」
ラスクさんはしみじみとわざとらしく言う。
「はい!」
「タロー君はやっぱりこの店を継ぐの?」
「そうですね、お爺さんや母さんの力になれるよう、早く一人前の商人になりたいです!」
「ふふ、タロートは優秀だから、将来店を任せても安心だもんね」
母さんたちの力になりたい、これは紛れもなく本心だ。
小さい頃から、いろいろ苦労してきた母さんや、
母さんを支えた祖父たちの事を見て来た。
本当に、いろいろ見て来た。
まだ成人してなくても、少しずつ力がついてきた。
店の事、母さんの事、ロロアの事を、長男である私が頑張って守らなきゃ。
「でも逆に真面目しすぎてー、心配っていうかー」
ナターリアさんの一言で、皆の視線が集まる。
「心配?どうして?」
「タロー君はしっかりしてるよ?」
よく私をからかうラクスがフォローしてくれる。
「いやーちゃうちゃう、ただー」
「ただ?」
「成人になるってことは、そろそろタローの結婚相手探さなきゃいけないね」
んん?
「ブッフ」
急に爆弾が投下されました。
「ぎゃー」
「ちょっとネフィー?」
「ねえちゃんきたなーい」
不意打ちを受けたようにネフィーが噴き出し、その周りの被害を広がった。
「な、なにをいきなり!?」
「け、けけっけっこん!?」
動揺がまったく隠せない両側の妹が各々赤面になる。
「ほら、タローってさ、身近にネフィーやレイナたち以外の女の影いないじゃん?」
「言われてみれば…」
母さんは頭を少し傾いて言う
「それは…そうですけど」
「あとー、女の子と仲良くなったり、遊びに行ったりというも聞いたことないし」
「ぐっ、そ、それは…仕事が忙しいから」
「働き詰めでぇ、彼女も作ってないでしょ?」
確かに私は恋人作ったこともまだありません、
そもそも同年代の妹以外の付き合いは少ない。
別に、それで落ち込んではいない。
ほんのすこし、憧れる気持ちはありますが、
今は商人としての未来を掴むのが優先です。
そもそも結婚できると結婚するとは全然違う話で、
私たちにとってまだ遠い話だと、ずっとそう感じたのであった。
それにラクスさんたちも全然本気ではなくおふざけで言ってるだけだから、
まあ、いつもの軽い冗談。
「まさかこの子たちと結婚でもするのかなー?」
二枚目の爆弾が投下されました。
「ええええええ!!?」
「なっ…なっ…なっ」
もう酔ってるのか、それとも雰囲気に酔ったのか。
けらけらと実に面白そうに悪乗りしてるな!
「なにを言ってるの!?」
リディア姐さんも珍しく頬赤くして
「うーん、可愛いし仲がいいんだけどねぇ」
母さんは頬杖して悩んでる風な表情作って言う。
「あ、あたしは別にな、仲がいいなんて…」
「わたしは…その、えっと…」
からかわれてあたふたして落ち着かないネフィーとレイナ。
それは、私たちは父親がいない子供とされているから、
戸籍上問題ないだろうけど。
それでも実の兄妹は結婚の相手として選らばないだろ。
「もう、ラクスさんもお母さんたちからかいすぎ」
可愛い妹たちと仲がいいのはもちろん嬉しいことだけど、
母さんたちにからかわれるのは流石に恥ずかしい。
「まあ、レイナやネフィーたちみたいな可愛い女の子となら嬉しいかな」
話を流そうとしたその時。
「なんならうちのリディはどう?」
爆弾の余波がまだ収まっていないのに、ナターリアさんによって、
三枚目の爆弾が投下されました。
「見てよこの生意気なおっぱい」
いつの間にかリディアの後ろに潜り込んで、服の隙間から胸をワシ掴んだ。
「ひゃっ、うっ、きゃっあ」
うをおおおいこの酔っ払い!!
「うぅ、お、お母様、や、やめてください!」
子供の前でなにやってるのこのおばさんは!!?
「どうよこの町中の男を悩殺する兵器は」
「ロアたちの前でそういう生々しい話はやめてください!」
流石に耐えられずに立ち上がって身を乗り出した。
「あはははは」
ああ、もう収拾がつかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます