第7話 たのしいたのしい私の誕生日(上)


「「お誕生日おめでとーぅ!!」」


「みんな、ありがとう!」


 年に一度主役になれる日がやってきました。

 若干狭く感じる我が家の食卓には、ケーキやチキンを始め、

 様々の料理と菓子が置かれている。


「タロート、おめでとうー!」

「タロー君、おめでとうー!」

「お兄ちゃん、おめでとうー」

「とー」


 母さんとレイナたちは、吝嗇りんしょくせずに祝いの言葉を掛けてくる。

 ロアは尻声をあわせて、手を挙げて跳んだ。


「うぅ…なんであたしが」


 横に座るネフィーはそわそわと身をよじる。


「うん?どうした」

「あ、あんたには関係ないわよ」


 少女はぷいっと顔を逸らす、肩を並べて座ってたのでツインテールが鼻先よぎる。


「あーら、良いのそんなこと言っちゃってー」


 いたずらな表情したラクスさん、口元を隠して向こう側から


「な、なんのこと?」

「そぉーなの?去年の時は、『お兄ちゃんの隣がいい』って言ってなかったっけ?」

「そ、そんなこと、い…言った覚えはない!」


 喧喧囂囂けんけんごうごう


 そんなふたりは今日は見慣れたウェイトレス姿ではなく、ドレスを着用している。

 ネフィーは相変わらずお気に入りのツインテールのまま。

 最近は私に対して強く当たるふしはあるが、

 昔贈っていた髪飾りも着けたままだし、そんなに嫌われてないなはず。


 と、思いたい。



「お兄ちゃん、はい」


 ツインテールの少女と対になって私を挟んでいるレイナは、

 コップを持って私の方に寄せてきた。


「ああ」


 レイナのコップに、私のコップを合わせて、こっと小気味がいい音をだした。


「お誕生日おめでとう」

「ありがとう」


 妹兼幼馴染の少女はあどけない笑顔を放つ、威力は凄まじいが、

 冷やした蜂蜜水を飲んで堪える。

 レイナの母であるリタさんは今日は来ていない、

 さすがに宿のことがあるから手が離せないので仕方ない。

 代わりにレイナが半日の休みを得てきた。


「うふふ、坊は実によく若い女に好かれるなぁ」


 カチューシャさんはオーレリアを膝に座らせ、こちらの様子を眺める。

 お母さんモードだからか、いつもの妖艶さは控えめに感じる。


「当然でしょう、私の子供だもの」

「タロー君、両手の花でうらやましいね~うりうり」

「え、あっ…あはは…」


 母さんたちに揶揄されて、誤魔化すように頬を掻く。別に嫌な気分じゃないが。

 私にとって、妹に好かれるのは嬉しい、兄冥利に尽きる。


 妹たち以外同年代の友達あんまりいないのは些か欠点になるかもしれないが、

 私は全然平気です。


「ふん!この女たらし!」


 最近よく突っかかる方の妹が急に悪態を吐く。

 心外だな!のような女たらしになるつもりはさらさらない。

 妹たらしなら甘んじて引き受けよう。


「たらしーたらしー♪たらこー♪」


 母さんの横に座るロアはよく分からないことをリズムに乗せる。


 先週連日の雨のせいでい、別の町に商談行った祖父と祖母はまだ帰ってこない。

 人に言わないが、二人からの誕生日プレゼント期待していた。

 爺さんたちが不在で、男女比がすごいことに。

 そして女性陣が多いためか、すっごいからかってくる。


「わ、わたしは、その」


 レイナは赤くなった頬を両手で覆う。


「おにっ、こ、こいつの事なんか!あ、あたしは別に…」


 いや女たらしとか言い出したのお前だろー!

 自爆だけでは足らず周囲を巻き込むツインテール少女にツッコミを入れたいが、

 もう既にややこしい状況に下手に言葉だせない。


「あ、あはは…」


 もう誤魔化すように笑うしかない。


 喧喧囂囂。

 おふざけを投げずつ、実に楽しそうに笑う大人たち。



 突然ドアがばーんと開く


「ごめーん、遅くなった!」

「ナターリア!」

「ナターリアさん」

「あーれー、もう始まってるー?」


 底抜けに明るい太陽のような声の主は、こちらに近づいて後ろから抱き着く。


「やっほータロー、元気にしてた?」

「んぐ、ナターリアさん」

「ふふ、おめでとーね」

「ありがとう」


 されるがまま、私はちょっと恥ずかしそうに笑う。


「こんにちは、叔母様方」


 ナターリアさんの後ろから、穏やかな声が響く。


「リディアちゃん!」

「お姉ちゃん!」

「ねーね!」


 走って抱き着くロアとオーレリア。


「ふふ、こんにちはロア、リア」


 妹に抱き着かれた少女は、ほんの少し幼さを残しずつも穏やかな笑顔を見せる。

 母さんたちや妹たちと挨拶を交わして、まだナターリアさんに抱き着かれた私に


「タロー君、お誕生日おめでとう」

「うん、ありがとう」


 幼さを残る綺麗な少女に、花のような笑顔のまま直視されて、

 思わずちょっと固い返事になってしまった。


「なぁんだ?よそよそしい」

「え、いや…」

「ふふ、なぁにー?照れてるー?」

「いや、別にそういうわけでは…」


 背中に柔らかい感触を感じながら、頭がわしゃわしゃされる。


「お母様、タロー君が困ってるから」

「ほら、座ってください、コップ持ってきますから」


 フォローが貰えて、ようやく解放された。


「あはは、ごめんね?久しぶりにタロー見てたらかっこいい男になちゃったのでつい」


 反応に困る言動を次々と投げてくるナターリアさんには本当にどう対応したらいいのか分からない、一応思春期の男の子なんだけど私だって。


 台風の中心のように登場し、

 やすやすと人の懐と心の距離を詰めるナターリアさんは、

 昔冒険者が集う酒場では一世を風靡した踊り子だったという。

 豊満な胸にくびれた腰、引き締まる弾力のいい長い脚、

 健康な小麦色の肌に対照する銀色の髪。


 今日はさすがに普通のドレスを着ているが、

 それでも肩やへそを自信の表れのように出している。

 十数年経った今も、その魅力は減ってないように見えた。


「リディアちゃん!また綺麗になったね」


 その後ろに立っていて、ロアとオーレリアにスカート摑まえられたままの少女は、

 そのまま、母さんに抱きしめられる。


「メリル叔母様、お久しぶりです」


 同じく銀髪をしていた少女は、

 浅緑色で清楚を感じるノースリーブなワンピースを纏い、

 穏やかな雰囲気を持ちずつも、ナターリアさんに負けないくらい、

 その魅力は見え隠れている。


 ちなみにメリルは、私の母さんの名前です。


「リディお姉ちゃん!」

「レイナちゃん、ネフィーちゃんもこんにちは」


 手を振ってる妹たちと挨拶を交わし、皆に愛されるリディアという少女は、

 で、

 私の唯一の姉である。一年しか差がないが。

 二年前まで文字通り私より"頭一つ抜けている"、

 最近になってようやく追いつきそうだが。


 不意ににこっとして見せる笑顔のせいで、なぜか視線が逸れてしまう。

 体つきはますますナターリアさんに近づいてきて、

 尚更どう接すればいいのか、距離感がつかめない。


 新たに追加してきたメンバーと共に、

 私の誕生日パーティーは始まった。

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