第3話 平和な城下町とオシャレな喫茶店

 カラーン


「いらっしゃいませ!あ、タロー君!」

「こんにちは、ラクスさん」


 元気いっぱいな声で挨拶してきたウエイトレスは、

 こっちの顔を見て手を振ってきた。


「今日はどうしなの?」

「はい、ちょっとおやつを」

「あそぉーだ!ネフィー呼んでくるね!」


 身を翻しにつれ、青いメッシュが入ったブロンズの長い髪が靡く


「え、あ、いや」


 底抜け元気な声に、私の言葉は押し流される


「ちょっとおやつを貰いに来ただけです」

「ネフィー、ネーフィー!」


 また話の腰を折られた


「はーい!」


 あぁ遅かった。

 カウンターの裏からブロンズ髪のツインテールの女の子が出て来た。

 こちらの顔を見るや否や。


「げっ」


 ショック!ちょっと、人の顔を見てげっとはなんだ!

 ラクスと比べて二回りほどサイズは小さいが、

 ネフィーという少女もウエイトレスの衣装を着せている。

 なぜか不機嫌な表情で手を組む。


「こんにちは、ネフィー」

「ふん、なんのよおー?」


 更に不機嫌そうに鼻を鳴らした。なにもしてないのに拗ねられた。


「そうだな…ネフィーの輝かしい働き姿を見に来た」


 ここはひとつ、機嫌を直すように頑張ってみよう


「んなっ!」


 突然の言葉に対して、少女は目を見開いて固まる。

 数秒が経ち、反応してきたのか、頬が赤く染まり、

 ツインテールまでぷるぷると震えて来た。


「な、なに変なこと言うのよ!」


 ドスッ、肩からの衝撃が伝わる。


「え、何で殴る、ぐっ」


 ドス。


「なんなの、なにそのぎざーなセリフ!」


 ドスッ、ドスッ。

 青いメッシュに彩るツインテールは踊るように揺れる


「ちょ、ちょっとやめ」


 かなり力を込めたのようで、結構痛い!


「んもー、喧嘩しない!」


 ラクスがようやく助舟を出してきた。


「他のお客様が見てるんだよ?」


 ラクスの言葉通り、店内の客が微笑ましいものを見るよう、

 こちらに視線を集中してる。


「う、うぅ…」


 ネフィーは顔を赤くして俯く、

 からかいすぎて逆効果になったらしい。

 恥ずかしがるネフィーの姿は可愛いけど、

 そろそろこちら居たたまれなくなってきた。


「ネフィー、クッキーとシュークリームを頼める?」

「うぅ…わかったわよ」


 書留をカウンターにいる店主に渡して、

 ツインテールの少女は逃げるようにキッチンに姿を消した。


 それを見送る客と店主たちに向けて


「騒がしくしてすみませんでした」


 私は頭を下げた。


「いいのいいの」

「気にすることはないよ」


 手を軽く振り、何事ないように笑うラクスと店主。


「どうしてタロー君に対してこーなのかなー、昔はあんなに」

「わー!わー!」


 キッチンからラクスの言葉をかき消すように少女の声高な声が響く、

 それが面白おかしくてみんながつられて笑い声こぼした。


「タロー君、お母さんとロアは元気かい?」


 店主はカウンターを仕切る片手間で世間話を掛けて来た。


「はい、おかげさまで」

「ネフィーもタロー君の顔を見ていつもより3倍くらい元気になってるな」

「はは…そうかな」


 応酬しながら棚を観察する


「ところで最近新しいデザインの食器が入りましたけど、よかったら見てみます?」

「ほう?どんなのかね?」


 鞄から用意した食器を取り出してカウンターに並べる


「ふむ…悪くないな」

「お気に召したかな?」

「くっ、はは!ったく、商魂逞しいな!」

「お爺さまの教育の賜物です」


 またキザな大手商人の真似をしてみたり。


「しっかし…本当によくできてる子だな、あいつの息子とは思えんくらい…おっと」


 店主は口を塞いで顔を上げる。

 視線を追って見ると、ラクスは給仕中で聞こえなかったようだ。


「聞かれたら今度はそっちが不機嫌になるかね」


 店主は苦笑交じりながら言う。

 もちろん、とは私の母のことを指しているわけじゃないのは、

 分かっている。


 またこの喫茶店の店主にとってネフィーは養女なのか、義理の娘なのか。

 関係はかなり曖昧である。

 の私が詮索することではない、けど、まあ。


「ありがとうございましたーまたきてね~!」


 ラクスさんは手を振っていつものように元気な声で私を送り出す。


「べー」


 その隣のツインテール少女は舌をだして悪態を晒す…のつもりのようだが、

 私の目にはお茶目で可愛い女の子にしか映らなかった。


 また手を振って、喫茶店を後にした。



 身軽になった私は、元の道を辿ってまた市場にやってきた。

 朝に比べ、更に人が増えている、雑踏をすり抜けながら進む。

 御大層なものではなく、ここに頼まれてたのは肉や野菜、

 果物などの買い出しだけである。


 いつもの屋台のおっちゃんと駄弁りを切り上げ、帰路につくところ。

 ふと視線に気付くと、意識して周りに注意を払い、そして、目が合った。

 一瞬、それがフードを深く被り、影のように人ごみの中に消えた。

 声を掛けるどころが、意識が戻る前に、それが消えた。


「なんなんだ?」


 不思議な気持ちを持ちながら。

 まあ、そんなことより妹が待ってるので、早く戻ろう。

 鞄を背負いなおし、今度こそ帰路に就く。



「おにいちゃーん!」


 宿屋の近くまで着くと、二人の妹が手を振ってきた。


「レイナ、ロア、ただいま」

「お帰りーなーさーい」


 ロアは私の手を取り振りはじめた。


「お帰りお兄ちゃん」

「うん、ただいま」


 レイナに向って笑みを零す。


「そうだ、これあげる」


 鞄の隙間から小さな包みを取り出す。


「これは?」

「ラクスさんのところのクッキー」

「えぇ?わるいよー」

「いいって」


 若干強引にレイナに小袋渡す


「わたしいっつも貰ってばっかり…」

「気にするな」


 ちょっとは恰好を付ける


「私はお兄ちゃんだからな」


 ぎざなセリフを受けて


「…うん」


 レイナはいつものように頬を若干染めて可愛く微笑む。


「クッキー!ロアもほしい!」


 小さい妹は両手を掴んで大きく振ってきた。


「ああ、もちろんロアと、皆の分もあるよ」


 丸い頭の妹を宥めながら


「帰ってからの楽しみだ」

「うん!たのしみー!」


 きらっきらの笑顔を見せてくれる。


「それじゃ帰るね」

「うん、またね」

「また明日」


 クッキー♪ クッキー♪

 妹の自作の歌を歌いながら

 手を振り回されながら

 妹と我が家へ戻ってきた。

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