第2話 妖しく和やかなアパレルショップ
「今日もロアをお願いね」
「うん、まかせて」
「じゃあ行くね」
「いってらっしゃーい」
今日は中央区にお使いに頼まれたため、
妹のロアのお世話をレイナんちに預けて来た。
二人に手を振って荷物を背負い、後にした。
朝の大市場は元気に溢れている。
地元贔屓かもしれないが、このアンギラ大陸において、
一番人が密集しているんじゃないかなと思ってしまうほどに。
実際のところはたぶん、
大陸中央あたりの商業都市が一番人が多いと客の旅人から聞いたことはある。
私も行ったことないのでなんとも。
「よっと」
私は荷物を背負いなおし、人ごみを避けて市場の外側に沿って歩き出した。
荷物が多くて邪魔になるため、ここでの用事は後回しにする。
市場を越えてほどなくして、東区の手前にある一軒家の前までやってきた。
隣と何の変哲もない造りの民家だが、一階は店舗になっている。
店前だけでも、高貴とミステリアスな雰囲気を出している。
午前は開店前だが、私はドアを押して中に入りました。
「ごめんくださーい」
店に入ると、華麗な装飾と香水に囲まれる。
壁側にいくつかのマネキンは一目で上品な材質と、
作りだとわかる高級な服装を纏ってる。
「あら、坊」
裏から声の主が姿を見せる。
「今日はお一人?」
長い足と凹凸の激しいその躰に、腰まで靡く金髪、
顔の両サイドの縦ロールは豊満な胸の上に垂らしている、
妖艶という言葉にはよく似合う。
怪しげな雰囲気に高貴なお召し物を纏った彼女は、
そこらへんのマネキンよりも遥かにその役割を果たしている。
ここは城下町の数ある高級の仕立て屋の一つ、ドレスなど女性の服装を扱ってる。
「はい、いつもお世話になってます!」
一礼をして、背中の荷物を降ろす。
「シルクにつむぎ針、絹針、あと…」
商品と紙束を取り出し、逐一にチェック入れる。
ふと女主人と違う方向からの視線を感じて顔を上げると。
ひぅ、という声をとともにちっこい頭が裏の方に隠れる。
私の視線を追って女主人も顔を上げる。
「あら」
楽しげに微笑んで、穏やかな声を掛けた
「リア、こっちにいらっしゃい」
その声を聴いて、先ほど裏のドアに隠れたちっこい頭が、ゆっくりと顔を出した。
「オーレリア、こんにちは」
その顔を視認して、私も微笑んで声を掛ける。
とことこと歩いて、また女主人の後ろに隠れた。
そーと体の半分をスカートの影から出てこっちを見る。
「お、おにぃちゃま」
細い声で、私を呼んだ。
「うん、遊びに来たよ」
ゆっくりと手を可愛い妹の頭に乗せる。
「うにゅ」
気持ちよさそうに、オーレリアは撫でられながら目を細める。
この可愛い生き物の侵入のせいで、
店のミステリアスな雰囲気が台無しになってしまった。
「きょう、いっしょにあそぶの?」
破顔したオーレリアは、袖をつかんで問いてきた。
「うん、いいよ」
「いいの?」
女主人カチューシャは少し心配そうに言う
「はい、今日は昼までは大丈夫です」
「悪いわね」
「いいえ」
私も可愛いオーレリアと一緒にいるのは嬉しいですから。
持ってきた商品を裏の作業場まで運び、開店までオーレリアの相手をした。
「いつもありがとうね」
「いえ、こちらこそ」
店に出て、また一礼をして挨拶を交わす。
「あのねあのね、おかあさまとね、お裁縫のれんしゅしてたの」
さっきまでの気弱さは何なのかと問いたいほどに、興奮した様子のオーレリア。
「ほうほう、どんなものをつくるのかい?」
目線を合わせて少ししゃがむ。
「あのね、今はまだれんしゅうだけど、うさぎさんのもよう?のハンカチをつくるの!」
「おお!それはすごいね!」
少し大袈裟に微笑みを掛け、また頭を撫でる。
ふわさらの金髪は触り心地がいい。
「そしたらね、おにぃちゃまにプレゼントにするの!」
「ありがとう、すごく楽しみだ」
「んふふ~」
とろけるように笑う妹を見て、こっちも嬉しくなってくる。
「では、私はこれで」
「また頼むわね」
鞄を背負いなおし、再度に挨拶を交わした。
「おにぃちゃま~」
後ろに向いて手を振り、後にした。
週に一回顔出しているのだが、オーレリアの人見知りは激しいままのようだ。
最初に会った時からそうだったかな、仲良くなれたと思いきや、
次会う時また柱やカチューシャさんの後ろに隠れる。
またすぐには仲良くなれるけど。
そのギャップの温度差は本当に激しいかった、まあ、そこも可愛いのだがな。
にしても最近はどうしたか、女の子の間に縫物ブームでも起こしたのかな?
そんな風に考えながら、ある喫茶店の前にたどり着いた。
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