第12話 しあわせのおすそ分け(上)



 町から出て街道沿えに少し歩いていくと、あたりに家がなく、

 緑地に囲まれて建っている家の庭から楽しそうに笑う子供たちの声が聞こえる。


 聖母様の願いを受け、目的地にたどり着く。

 前庭に着くと、一人の男の子が走ってきた。


「兄ちゃん、だれ?」


 男の子の声に気付き、他の子供たちの視線が集まってくる。


「こんにちは、私はタロート、家は道具屋やってるんだ」

「何の用だよ」


 子供の少年は威嚇するように声をあげる。

 知らない人には警戒心を持っている、

 なるほど、そこはちゃんと出来ているね。


「食べ物を持ってきたんだ、大人の人を呼んでくれる?」


 たべものぉ!子供たちの目色が瞬く変える。


「はい、キミたちの分ね」


 準備していた豆菓子の袋を取り出して、子供たちに配る。


「一人二つずつね」


 甘いものに目を輝かせて寄ってきた。


「おかあさんよんでくる!」


 お菓子に簡単に釣られた子供たちを見て、帰ったらロロアには知らない人から物を貰っちゃいけないとちゃんと言い聞かせなきゃと思った。



「はーい、ちゃんと並んでね」

「ありがとう…お兄ちゃん」


 やや列の後ろにいる、大人しそうな淡い紫色の髪をしたの女の子は、

 ちゃんとお礼を言ってくれた。

 うん、えらいぞ!


 セミロングな淡紫色の髪、ぱっちりした目に長いまつげ。

 うちのレイナほどではないが、この子もかなりの美少女でした。



 子供たちが着てる服は質素で、縫い直すところはありましたが、

 清潔を保ってる分、ぼろってほどではない。

 

 ほどなくして、建物からさっきの男の子と、

 後ろに一人の簡素な恰好をしてる女性が出て来た。


「あなたは…」


 さっきの女の子と同じ淡紫色髪をした女性は私の顔と髪を見て驚く表情をする。


「初めまして、タロートと申します」


 見慣れた反応だ。


 ここは郊外にあるレンディア孤児院。

 石造りの壁に、木造のドアは、修繕は完全とは言えないが、

 清潔感から掃除はちゃんとしているのは分かる。


 建物の中に案内されたのは客間らしいく、ちの店とそう変わらない広さだった。

 素朴な机にいくつかの小物作りの手作業道具、

 さっきの子供たちも普段はここで生活しているのかな。


「お茶、どうぞ」


 椅子に座る途端、裏からさっきの淡紫色髪の少女は、二つのコップを持って来た。


「ありがとう」


 コップを机に置いたら、少女はすぐ身を翻した。

 女の子が外に出ていくのを見送りして、案内してくれた大人の女性と残された。


「本日はどのようなご用件でしょうか」


 言葉に促されて、私は荷物を机に置いて解いてく。


「これらをどうぞ」


 幾つの果物にパン、昨日食べきれなかったパイなどを机の上に置く。


「あの、これは…?」

「ただの差し入れです」

「でも、こんなに…」

「遠慮しないでください、是非子供たちにっと」


 聖母様からもお駄賃出ているから(強引にこちらの鞄に突っ込んだ形だが)、

 これくらいは全然懐に響かない。


「本当に、感謝します」


 飾りのない微笑み、目元から優しさが染み出る。

 外見は母さんより若干上で、さほど年の差はないように見える。

 よく見ると、掌と指にタコができている、母さんと同じ苦労してきたのは分かる。

 素朴な服を着ていても、細い皺が出来ていても、

 彼女の美しさは損なわっていない。


「うん?」


 窓の方を見ると、

 さっきまで覗いてた子供たちは急いで頭を下げて隠れようとする。


「あの、さっきの子は"おかあさん"って…」

「え?あぁ、いえ。あの子たちがそう呼んでいるだけで」


 困っているように眉を顰める。


「慕われていますね」


 が、表情からして、実はいやではないのは分かる、むしろ嬉しいそうだった。


「あっ!ごめんなさい、私、名前も告げずに」


 佇まいを正して、彼女は言う。


「私はカーラと申します、レンディア孤児院の代理院長を務めています」

「代理院長?」

「はい、本来の院長先生は他の事で忙しいので、基本は私と子供たちしかいません」

「なるほど。みんな、楽しそうにしてますね」

「はい、皆、本当にいい子で、すごく助かります」


 カーラさんはそう言って微笑む、まるで本当の母のように優しそうに微笑んだ。

 クリスタ様にこの孤児院にいる友人の様子を見て来てほしいと頼まれて、

 何かあるのか思っていたが、どうやら考えすぎたようだ。


「これ、奥に運ぶよ」


 持ってきた差し入れを指して、席を立てる。


「どこに運べばいい?台所?」

「いえそんな、そこまで手を煩わせるわけには…みんな、手伝ってー」

「はーい」


 彼女の呼びかけに応じて、さっきの子供たちがぞろぞろと客間に入ってきた。


「台所にお願いね、今日の夜はご馳走よ」

「わーい!」

「やった!」


 歓声と共に、子供たちは嬉々として運び始めた。


「ここにいる子供は何人いますか?」

「今は全部で6人」


 さっき見た子供たちで全員か。


「子供6人もいるのに、一人で面倒を見るのは大変じゃないですか?」

「ううん、皆ちゃんと話を聞くいい子よ。上の男の子はすこしやんちゃだけど」


 言ってふふっと軽く笑う。


「おかあさん、はこび終わった」


 ドアから一人男の子が小走りしてきた、最初庭で声掛けて来たの子だ。

 中で一番背が高い子だし、子供たちのリーダーでしょう。


「ありがとう、助かるわ。ほら、お兄さんにもありがとうってお礼を言ってね」

「お兄さん(ちゃん)ありがとう!」

「いえいえ、いっぱい食べてね」


 言うて一番上の子は私と2、3歳しか差がないだろう、ちょっとこそばゆい。


「みんなありがとうね、もう遊びに行っていいわよ」

「はーい」


 クリスタ様は何か懸念でもあったのかは分からないけど、

 子供たちの活発さから見て、それほど苦しい生活ではないようだ。


「カーラさんは何時からここで務めてますか?」

「そうですね…」


 手を擦り、カーラは思い出すように言う。


「もう10年もここで過ごしてきたかな」

「10年も…!」


 ここまでの人生はまだ13年の私にとって、それはとても長く感じる。


「ふふっ、大人にとって10年は一瞬…ってほどじゃないけど、そんなに長く感じることはないよ」


 私の考えることを見透したように笑う。


「そんなものですか…でもやっぱり長く感じます」


 生暖かい視線を受け、ちょっと恥ずかしい気持ちになる。


「そいえばタロート…君?はおいくつ?」

「13です、丁度昨日、13歳になりました」

「あらまあ!おめでとうございます!」

「ありがとうございます」


 人に祝う時の常套句でも、この人の言葉にこもる真摯な祝福を感じさせる。


 手を合わせ、カーラさんは祈り始める。


「私はあなたを祝福するために主に祈ります。知恵、忠誠心、寛大さをもって…」


 その佇まい、その仕草、その言葉と声の荘重さ。

 一字一句丁寧に祈祷の詞を紡ぐ。

 その姿は、聖母様であるクリスタ様と重なる。


 祈りの句を終わっても、敬虔に祈るの姿勢は解かずにいる。


「カーラさんはその…信仰心の深いな方ですね」

「…いえ」


 彼女は目を薄く開き、憂いな表情を見せる。


「私は…そんな立派な者ではありません」

「えっ…」


 謙虚ではなく自分自身を卑下する言葉に、反応できずにいた。





―――――――――


主人公の"姉妹"は沢山登場するのに、

主人公の"兄弟"がないの理由については、

いずれ説明します。

おそらく理由です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る