第22話 鳴海朋香の初デート(後編)
ファミレスを出てからは何をするわけでもなく、ただショッピングモールの中を歩くだけになっていた。
このままではデートにならないと思った俺はひとまず朋香を見る。
そして、俺はあることに気付く。
「なあ、朋香?」
「なになに、圭ちゃん?セックスしたくなってきたの?それならトイレにでも……」
「違ぇよ……お前って帽子はそういうキャップ系しか持っていないのか?」
「ああ、そういえばそうかも。なんかあんまり帽子って顔バレのために被っていたような物だし、実際何でも良かったんだよね」
俺にとってはふとした疑問だった。
服はお洒落なものが沢山揃っているのに帽子だけがスポーツキャップばかり。
現に朋香を見ると帽子だけが少し浮いて見えてしまう。
「よし、じゃあ今から帽子買いに行くか」
「これじゃダメなの?」
「どうせならもっとお洒落なやつを被れよ。その方が服とも合うだろ?」
「圭ちゃんが選んでくれるの?」
「当たり前だろ。他に誰が選ぶんだよ」
とカッコよく言ってみたものの、正直朋香に似合う帽子を選べる自信は無い。
「それなら期待しちゃおうかな♡」
朋香はニコッと笑って答える。
この笑顔を裏切らないような帽子を選ばなくてはいけないと思うと緊張するな。
言わなければ良かったのではないかと俺に少し後悔の気持ちが生まれた。
「ちなみにどこか良い店あるか?」
「女性用のアパレル店なら確か二階にあったはずだよ。他は三階かな」
「おっけー。とりあえず二階に行くか」
こうして俺達は朋香の新しい帽子を探すべく二階へと向かうことになった。
「圭ちゃん、ここだよ」
「ここか……入るぞ」
「はーい」
朋香は平常運転だったが、俺は緊張気味で入店する。
思わず大きく深呼吸までしてしまった。
それほどまでに俺は帽子を選ぶことに責任を感じているのだ。
「んーと、帽子は……どこだ?」
「圭ちゃん、こっちだよ〜」
「ん、ああ、分かったよ……って、お前見つけるの早いな」
「いや、だって圭ちゃんがせっかく選んでくれるんだもん。楽しみで楽しみで♡」
朋香は赤く染めた頬に両手を当てて喜びを表現する。
そう言われると余計にプレッシャーになるからやめて欲しいのだが。
「……まあ、絶対に似合うやつ選んでやるから期待しててくれ」
「うん!」
俺は嘘でもこう言うしかなかったのだった。結果としては自分の首を絞めることになってしまうのだが仕方のないことだ。
そして、何よりも笑顔で頷く朋香の顔が更に俺を苦しめる。
「……どれが良いんだろうか」
帽子コーナーに着いて早速だが、俺は頭を悩ませる。
さっぱり分からん。どれが似合うのか。
ニット帽にフレンチハット、バケットハットなど種類が豊富過ぎて中々絞り切れない。
「圭ちゃん、かなり悩んでるね〜」
「そりゃ、お前が被るやつだからな。変なやつは絶対に選びたくない」
「そこまで真剣に選んでくれてるんだ。なんか意外だね。もっと大雑把かと思ったよ」
俺は一度、選ぶ手を止めて朋香の方を見る。
「……どうしてだ?」
「だって、下着選ぶ時は最初はあんまり乗り気じゃなかったからさ」
「下着と帽子じゃ全然違うだろ。まず帽子は俺が提案したものだからな。提案した俺が真剣に選ばなかったらダメだろ?」
「……いやいや、彼女の下着を選ぶこともかなりの重要案件だと思うんだけど。というかさ、下着の方が真剣に選んで欲しいよ?」
「さ、最後はちゃんと選んでやったんだから別に良いだろ……」
苦笑いの朋香に対して俺は苦し紛れの言葉を並べた。
「またそうやって自分に都合良いように言い換えちゃってさ」
「うるせぇ!ちゃんと選んだから良いんだ!」
「はいはい、分かりましたよ」
最後は呆れた様子で朋香は言った。
俺は再び帽子選びに戻る。
「朋香これはどうだ?」
「どれどれ?」
俺は選んだ帽子を朋香に被せてみた。
朋香は急いで鏡の前に向かう。
「ど、どうだ?」
「普通に良いんじゃないかな。色もデザインも悪くないし。私ネイビーって好きなんだよね」
「ほんとか!?」
俺が選んだのはフレンチハット。
つばが大きくて顔も隠せるし、深く被れて紫外線対策にもバッチリだ。
この帽子に付いているワンポイントの大きなリボンも魅力的だと俺は思った。
「今の服装と合わせても違和感ないし、これは決まりで良いかな」
「よしっ!」
俺は拳を握り大きくガッツポーズをする。
それくらい嬉しかった。
「ついでだからさ、そのもうひとつ選んでたやつも被らせてくれない?」
「これか?良いぞ?」
俺がもうひとつ選んでいたのはストローハット。春と夏で使えるので便利かなと思って選んでみたのだ。
朋香は俺から帽子を受け取って被ってみる。
「これも良いね。涼しくて快適」
「そう思って選んでみたんだ」
「夏はこれで海とか良いかもね」
「それは大ありだな」
「もう、これは悩む必要無しだね!このふたつで決まり!」
帽子選びはフレンチハットとストローハットのふたつを購入して無事に終了した。
勿論だが、これも俺からのプレゼントだ。
「圭ちゃんって中々センスあるじゃん。今度からは毎回私の買い物に付き合ってね♡」
「精神的にやられそうだな……はは……」
「こんな短時間で選べるんだから大したものだよ。私なんていつも迷っちゃうからさ」
「たまたまだよ。目に止まったやつが朋香に似合うやつだった。それだけの話だって」
「それを見つけるのが大変なんだってば。そういうのがセンスって言うんだよ。もっと誇っていいことだと私は思うな〜」
「そ、そうか?」
朋香の言葉で俺は心做しか少し自信が付いた。
大好きな彼女にそう言われたんだから当たり前か。
「そろそろ時間も良いし、買い物も終わりにして一旦帰ろっか」
「そうだな」
スマホを見ると時刻は五時前。
家に帰る頃にはきっと真っ暗だろう。
俺達は待たせていた車に乗り込んだ。
「ところで圭ちゃん、どうするか決めた?」
「え?何が?」
「何とぼけているのよ。帰ったら私の家でセックスするかって話したでしょ」
「ん、あ、そうだっけか」
決して忘れているわけではない。どうにか逃れられる方法はないかと模索中なのだ。
「残念だけど、答えを出すまでは家には帰らさないからね。まあ、断った時点でも帰らすつもりは毛頭ないけど」
「なんでだよ!素直に帰らせろよ!」
「嫌に決まってるでしょ。そんな簡単に帰らせちゃったらつまらないじゃない。断ったらそれ相応の罰を受けて貰わないとね♡」
どっちにしろ、最初から俺に拒否権などは存在していなかったようだ。
さようなら、俺。元気でな、俺。
「車はお前の家に向かってるんだろ?」
「当たり前でしょ」
「なら、それまでに答えを出す」
「だからさ、答えを出しても出さなくても何も変わんないだってば」
「いや、断ったら罰を受けるんだろ?」
「そうだけどさ……まあ、いっか。家に着いてからでも。その方が楽しいしね……ふふっ」
不敵な笑みを浮かべる朋香に俺は恐怖を感じた。
またきっとよからぬ事を考えているに違いない。
そんな恐怖に耐えながら朋香の家へと向かうのであった。
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一応これでデートは終了です。
次回は朋香の家でどうなるかご期待下さい。
多分、エロ要素多めです。
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