第21話 鳴海朋香の初デート(中編)
時刻はお昼時だ。
俺達は近くのフードコート前を通った。
「圭ちゃん、私お腹空いちゃったよ」
「そうだな。ここで食べれるとすればファミレスかハンバーガーショップかラーメン屋、トンカツ屋だけど、朋香はどこが良い?」
「ハンバーガーも食べたいけど、ここのラーメン屋も中々の絶品だったはず。いや、ヒレカツという選択肢も無きにしも非ず…… 」
朋花はぶつぶつと独り言を呟く。
そういえば、昔来た時もお昼何食べるかで揉めたんだっけな。
あの時は確かファミレスだった気がするな。
「よし!決めた!ファミレスにする!」
「じゃあ、そうしようか」
「うん!」
結局は今も昔も朋香の思考は変わらないようだ。
俺の読みが正しければ注文する物も昔と変わらないはずだろう。
こうして俺達はファミレスへと向かった。
「いらっしゃいませ!二名様ですね?奥のテーブル席へどうぞ!」
入店して女性の店員さんに案内された俺達は一番奥の席へと座る。
「……おい」
「どうしたの、圭ちゃん?」
「お前はなんで俺の隣にいるんだ」
何を思ったのか、朋花はどういうことか俺の隣に座ってきたのだ。
「え?隣に座りたいからだけど?」
朋香はそれが当然かのように答える。
「普通は向かい合って座るだろ。お互いの顔が正面から見えた方が絶対に良い」
「隣の方が良く見えると思うけど?」
「それは確かにそうだが隣に座ったら狭くて食べにくいだろ?」
「私はそんなことないよ?」
「……そ、そうか?そう言うなら俺はこれ以上は何も言わないからな」
俺がテーブルに肘をつきため息をつくと、店員さんがメニュー表を持って来た。
「こちらがメニューになります。今日肉の日なのでのおすすめはステーキやハンバーグになります。是非ご参考にして下さい」
店員さんはご丁寧に説明をしてくれた。
一応それがここの接客の一部なのだ。
他にも魚の日や麺の日もある。
「朋香、ステーキだとよ」
「圭ちゃん一体何を言っているのさ。私は昔からハンバーグ派だよ?」
朋香はハンバーグが大好物なのだ。この前、俺の家に来た時もたらふく食べいった。
「失礼ですが、つかぬ事をお伺いします。もしかしてお二人はカップルですか?」
「はい!そうです!」
店員さんの質問に食いつき気味に朋香は答えた。
隣に女子が座っていればそう聞くのも当然のことかもしれない。
「ほんとですか!?それなら実は本日はカップルデイというのがありまして……」
そう言って店員さんは胸ポケットに入れていた一枚の紙を取り出す。
「えー!なにこれ!すごーい!」
「本日限定でラブラブドリンクという物がございまして!是非飲んで下さい!」
俺はそれを見て驚愕した。
そのラブラブドリンクという物にはひとつのグラスにストローが二つ刺さっている。
そこまではまだ良い。しかし、そのストローが曲線を描いてハート型になっているのだ。
「圭ちゃん!これ飲もう!」
「嫌に決まってんだろ!!こんなの恥ずかしすぎる!」
目をキラキラさせて飲みたいアピールをする朋香に対して俺は全力で拒否をする。
「彼氏さん!そんなこと言わないで下さい!彼女さんのためにも!そして私の売上のためにもよろしくお願いします!」
店員さんにそんなこと言われる筋合いは微塵もない。
ていうか、今絶対に私の売上のためにとか言ったよな。俺は聞き逃さなかったからな。
「俺は絶対に飲まんからな!」
「ねぇ〜ねぇ〜、圭ちゃん飲もうよ〜!」
「飲まねぇよ!」
「圭ちゃんさ〜ん!飲んで下さいよ〜」
「だからさっきからあんたまで何誘導してんだよ!気安く圭ちゃんって呼ぶな!」
「「圭ちゃん(さん)〜飲んでよ〜」」
「ダブルで言うな!うるせぇよ!」
「……飲まなかったら、おっぱい触らせない」
「飲みます」
俺はまんまと朋香の罠に引っかかった。
この脅しは卑怯過ぎるだろ。
「圭ちゃんさんっておっぱい好きなんですね。ちょっと引きました……」
「出会ったらばかりのあんたにそんなこと言われたくないわ!」
「失礼致しました。それでご注文の方は?」
「ハンバーグ定食とステーキ定食、それとこのラブラブドリンクで」
「かしこまりました!変態!」
「誰が変態だ!店長に訴えるぞ!」
「残念ながら私がここの店長です!」
そう言ってネームプレートを見せてきた。
まじでこの人が店長だったのだ。
「もういい!早く調理して持って来て!」
怒りが爆発した俺は勢いで店長を追い払った。
この店ってこんな感じだっただろうか。今更だが雰囲気がかなり変わった気がする。
「面白い店長さんだったね」
「……あんな人、昔いたか?」
「分かんない。私もしばらく来てなかったし」
そして注文して十五分程で料理が届いた。
無駄話のせいでお腹もペコペコだ。
「お待たせしました。こちらが彼女さんのハンバーグ定食ですね。そしてステーキ定食がおっぱい変態野郎さんになります」
「おい、さっきよりも俺の名前が酷くなってる気がするんだが?」
「気のせいですよ。ドリンクはもう少ししたらお持ちします。ごゆっくりどうぞ」
「おっぱい変態野郎だってさ……」
朋香は口元を手で押さえて笑いを必死に堪えていた。
全く知らない人にここまで言われるのはあまりにも屈辱的だ。
「笑うな。冷めないうち早く食べるぞ」
「はーい」
「「いただきます」」
俺達は昔よく食べていた定食なだけに懐かしさを感じながらゆっくり堪能して食べる。
このジューシーな肉汁何年ぶりだろうか。
「ねぇねぇ、圭ちゃん」
「なんだ?」
「はい、あーん♡」
「や、やめろよ。恥ずかしい……」
朋香はフォークに刺したハンバーグを俺の口に近づけた。
俺は頬を赤らめて顔を背ける。
「た・べ・て♡」
「わ、分かったよ……」
俺は口を開けてハンバーグを食べる。
「どう?美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「それなら良かった♡」
朋香は口元を緩めて軽く微笑みを見せる。
少しずつフォークが俺の顔に近づいてくるので俺は食べざるを得なかった。
食べなかったら間違いなく頬にダイレクトにハンバーグが当たっていただろう。
「お待たせしました!こちらがラブラブドリンクになります!」
「え……?」
登場したドリンクは俺が想像していたドリンクの倍の大きさがあった。
明らかに罰ゲーム級の量だ。
「何か問題でも?」
「さすがにこれは量多すぎません?」
「サービスですよ!サービス!変態さんには特別にね」
「変態は全く関係無いですよね!?」
「ごちゃごちゃ言ってないで早くちゅっちゅして飲んで下さい下さいよ。ラブラブなところ写真に撮ってあげますから」
「写真撮ってくれるんですか!?私のスマホで是非撮って貰いたいです!」
朋香は店長にスマホを渡す。
そして俺と朋香はお互いにストローに口を付ける。
朋香の顔が俺のすぐ前にあって正直緊張している。
朋香も少し目を泳がせて緊張している感じだった。
「じゃあ撮りますよ〜」
店長は数枚写真を撮ってくれた。
向かい合ってジュースを飲む、こんな写真は中々撮ることは出来ないな。
まず第一に飲みたいと思わない。
「ありがとうございます!」
「じゃあ引き続きごゆっくり〜」
そう言って店長はお辞儀をしてから厨房へと戻っていった。
「このジュース意外と美味しいね」
「そうだな」
トロピカルジュースにオレンジやパイナップルなどの果物がトッピングされている。
味だけではなく映えも十分にあるだろう。
「圭ちゃんとこうやって同じジュースを向かい合って飲んでいるのもなんだか不思議な感じ」
「いや、これはそういう飲み物だろ」
「なんか顔近くてキスしたくなっちゃうな♡」
「店の中だからさすがにやめてくれ……」
俺達は味を楽しみながらお互いの顔を見つめ合いながら飲み進めていく。
「……ねぇ、圭ちゃん。ひとつだけいい?」
苦しそうな顔をして朋香が訊ねてきた。
「なんだよ」
「圭ちゃん、これ全部飲める……?」
「無理だろ」
「だよね……」
せっかくのラブラブドリンクも罰ゲーム級の量でラブラブ要素が薄れてしまった。
俺達は半分以上を残して店を後にする。
また飲むかは別として店長には「今度は普通の量で」とお願いしておいた。
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カップルストローって実際どうなんだろう。
自分はアリかナシでいえば……ナシで(笑)
三次元ではきついっすよ。
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