第20話 鳴海朋香の初デート(前編)

「今日はどこに行く予定なんだ?」


「言ったらつまらないから秘密だよ♡」


「いきなりラブホとかだったら帰るからな」


「それは無い。朝っぱらからラブホとか欲求不満過ぎるでしょ。あはははっ!」


 腹を抱えて朋香は大笑いする。

 朋香家を車で出てから二十分程で俺達は近くの大型ショッピングモールに着いた。


「ここって、もしかして……」


「そうだよ。ここは圭ちゃん達とよく来ていたショッピングモール。まずはここで私の買い物に付き合ってね」


「こんなこと聞くのも変かもしれんが、古臭いところでいいのか?」


「良いんだよ。私は一般人に戻りたいの。だから最初は昔行ったお店に行きたいの」


「一般人に戻りたいなら、まずはあの家から出ることをおすすめするけどな……」


「……確かにそうだ!あんなとこに住んでたら戻るのなんて無理だ……!」


 俺の正論を聞いた朋香は頭を抱えてその場に座り込む。


「べ、別に無理して出ることはないんだぞ?あそこに住んでいてもお前はもうアイドルじゃない時点で普通の女子なんだからな?」


「でも、普通の女子ってあんなところに住んでるかな?」


「……住んでないな」


「やっぱり私あの家出るぅぅぅぅぅ!」


 朋香はカバンからスマホを取り出しどこかに電話をかけようとした。


「待て待て!誰にかける気だよ!」


「お父さん。売り払って貰おうと思って」


「やめろやめろ!朋香早まるな!」


 俺は朋香の手からスマホを奪い取る。


「なんで?あそこに住んでいたら私は一般人に戻れない……」


「一旦落ち着け。よく考えてみろよ。あの家はお前が稼いだお金で建てた家だろ?言わば努力の結晶だ。俺はそんな簡単に手放しして欲しくない」


「でも、前みたいな生活を送るには前と同じくらいの家に住まないとダメって圭ちゃん言ったじゃん」


「ダメとまでは言ってない。おすすめすると言ったんだ。無理してまで引っ越す必要もないし、あの家が気に入っているなら住み続ければいいさ」


「……圭ちゃんの言う通りだね。無理して出なくてもいいよね。私はあの家、気に入ってるし」


 そう言って朋香は最終的に納得をした。

 全く、こんな話デートの最中にする内容じゃないだろ。

 まだ駐車場から一歩も動いてないんだからな。


「よし、じゃあそろそろ行かねぇか?」


「だね!じゃあ中入ろっか!……えいっ!」


 そう言って朋香は再び俺の腕に抱き着く。


「朋香、さすがにくっつきすぎじゃないか?俺歩きづらいんだけど……」


「圭ちゃんとの初めてのデートなんだから、これくらいは当然じゃん?」


 朋香はニコニコしながら俺の肩にもたれ掛かる。

 やっぱりこの服反則だろ。俺の角度からだと胸が、谷間が、丸見えだ。

 そんなことを考え、俺は頬を赤らめて歩みを進めた。


「……まずはどこから見るんだ?」


「そうだね、とりあえずこのまま進もう。その先に行きたいお店あるから」


「ん、ああ、分かった」


 俺は朋香の言う通りに歩く。

 朋香が店名を言わない時点で俺は少し疑問を抱くべきだったと後々後悔することになる。


「あー、圭ちゃんここだよ」


「……げっ!ここって……」


 俺の顔から血の気が引く。

 朋香が指を指したお店それは、


「ランジェリーショップだよ!」


「嫌だ。俺は入らん」


 俺は即答する。


「どうして!?」


「どうしてって当たり前だろ!俺が入るべき場所ではないからだ!」


「別に圭ちゃんが付けるわけじゃないじゃん!それとも圭ちゃん付ける気なの!?それならまじキモイよ!?」


「誰もそんなこと言ってないだろ!俺が付けてどうするんだよ!」


「いや、そういう趣味があるんだなって、ただ私にドン引きされるだけ」


「断じて無い!」


 俺はハッキリと答えて真顔で朋香の顔を見つめる。


「……それならいいけど。まあ、どっちにしても中には入って貰うよ?」


「お前だけ入れば良いだろ……俺ここで待ってるから」


「言わないと分かんないかなぁ!圭ちゃんに選んで欲しいから入ろうって言ってるんだよ?それにここで待ってたら逆に変態だと思われて通報されるよ」


「ぐっ……!それは……」


「ほら!ここまで来たんだし入るよ!」


「ちょ、まだ心の準備が――!」


 俺は朋香に腕を引っ張られてランジェリーショップに足を踏み入れてしまう。

 誰も知り合いがいないことを俺は願った。


「んー、さて、どれが良いかな」


「……早く選んで買ってくれ。頼む」


「圭ちゃんはこの二つならどっちが良い?」


 朋香が俺に見せてきた下着は花柄でスカイブルーのデザインとエメラルドグリーンで少し透けて見えるエロいデザインだ。


「……俺はそっちのスカイブルーが良い」


「グリーンの方じゃなくて良いの?こっちの方がエロいよ?」


「花柄の方が可愛いから良いんだよ」


「そう?それならこっちにしよっと!」


 そう言って朋香がカゴに入れたのはグリーンの方だった。


「なあ、俺の意見は……?」


「圭ちゃんの意見?ちゃんと聞いてあげたじゃん」


「それなのにカゴに入っているのは俺が選んだ物とは逆なんだが?」


「エロい方が圭ちゃんは好きでしょ?」


「……いや、それは」


「す・き・な・ん・だ・よ・ね?」


「……はい」


 朋香の威圧的な態度に俺は心を折られた。

 というか、こんな聞き方は普通無いだろ。


「最初からそう言えば良いのにさ。見るのは圭ちゃんだけなんだから正直に好きなの選んでよ」


「……それなら、あれはどうなんだ?」


 俺が指を差した下着を見て朋香は思わず苦笑いをする。


「圭ちゃん、正直にとは言ったけど随分と思い切ったことするのね……」


「だって朋香が身に付けているところ見てみたいし」


「とりあえず、これだけ言わせてね?」


「なんだ?」


「圭ちゃんのえっち」


 朋香は頬を膨らませて俺が指さした方へと歩いていく。

 ちなみにその先にあるのはガーターベルトのコーナー。

 朋香にえっちと言われて当然だろうな。

 しかし、仕返しで言ってみたんだが朋香が本当に行くとは思わなかった。

 俺は朋香の後ろを付いていく。


「これはどうだ?」


「圭ちゃんが良いなら私は良いよ?」


 俺が選んだのは黒のリボンにフリルが付いたデザイン。

 漫画やアニメで見た時があったのだが、これが一番好きだ。


「じゃあこれに決まりで」


「どうする?試着してみる?」


「試着は大丈夫。今度ゆっくり見させて欲しいから」


「今度ってセックスする時?圭ちゃん本当に性欲の塊になっちゃったね♡」


「……うるせぇ」


「今夜、私の部屋でヤっちゃう?」


「…………」

 

 俺は顔を背けて黙り込む。

 試着で見るよりもヤる時に見た方がじっくり見れるし楽しめる。

 今すぐ見たい気持ちとヤる時に見たい気持ちのどちらを選択するかで俺の心は揺らいでいた。

 俺の考えもかなり変態になってきたな。前なら絶対に無かったぞ。


「そんなに考えこんじゃってさ。ヤりたいんでしょ?セックスしようよ♡」


「やめろやめろ!そうやって誘惑するな!」


「別にそんなつもりはないよ。圭ちゃんが勝手にそう思っているだけ。私は夜は暇だから全然オッケーだから、今日のデートが終わるまでに考えておいてね♡」


 朋香はそう言ってレジへと向かった。

 俺はため息をついて先に店を出ようとした時、


「……あっ!待て、朋香!支払いは俺がするから!」

 

「ほんとに!ありがとね、圭ちゃん♡」


 俺は危うくデートの基本である支払いをせずに店を出てしまうところだった。

 一応は俺が選んだ物だし、お金を出すのは当然だ。


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最新話お待たせしました。

2日も更新空いてしまいました🙇‍♂️

とりあえず、デート開始です。

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