第19話 鳴海朋香はデートの服を選ぶ

 朋香に連れられて、衣装部屋に来た俺はその衣装の多さに驚愕した。


「なんだよ、この部屋……」


 ガラスケースに飾られた衣装、ハンガーに掛けられて部屋の奥までずらっと並ぶ服。

 まさかここまであるとは思いもしなかった。


「ここにあるやつ、全部が私の服だよ。ライブで着た衣装からテレビ出演した時に着た衣装、後は普通に私服かな」


 この中から今日デートするための服を選ぶとか無茶だろ。一日は掛かるんじゃないか。

 とてもこの量を俺だけでは決められない。

 朋香にもある程度、どんなの服が着たいか聞くことにしよう。


「朋香、少しだけでも要望ないか?ここから一つずつ選び始めたら今日終わっちまうよ」


「んー、全くしょうがないな。今は五月の中旬でしょ。今日は少し暑くなる予報だから涼しめな格好が良いかな」


 嫌な表情もしながらも朋香は渋々教えてくれた。これで多少は選ぶのが楽なはずだ。


「この時期に着るような服ってどの辺にあるんだ?」


「一応は季節ごとに分かれてるんだけど、確かこの時期のはもっと奥かな」


「わかった。探してみるよ」


 俺はそう言って部屋の奥へと進んでいく。

 いくら歩いても視界に映るのは服だけだ。変わらない景色ばかりを見て段々と目が疲れてきてしまう。

 そんな中で遂にお目当ての服を発見した。


「朋香あったぞ〜!」


「おっけー!今そっちに行くから!」


 朋香の声が随分と遠くから聞こえた。俺はかなり部屋の奥の方まで来ているみたいだ。

 俺は一着ずつ服を確認していく。早速、目に止まる


「これは良いかもしれないな」


 俺が手に取ったのは青のワンピース。生地も薄いし、通気性があって良さそうだ。

 それに青は朋香のアイドル時のカラーでもある。


「あー!そのワンピース懐かしい!確か初めてのお渡し回の時に着たやつなんだよね。飾ろうと思ったら行方不明になっちゃってさ」


 言われてみれば、初めてのお渡し回は青のワンピースだったかもしれない。

 勿論だが、当時の俺もそのお渡し回に参加しているのだ。


「そんな重要なやつ、ここに置いとくなよ。早く別のところに飾っておけ」


「はーい」


 朋香がワンピースを置きに行っている間に俺は服選びを続ける。


「初めてのデートだし、シンプルにこれが良いかもしれないな」


 戻ってきた朋香に俺は服を見せた。


「なるほど、オフショルね。圭ちゃんは肩出しが好きなの?」


「別にそういうわけじゃねぇよ。涼しいっていう理由が一番だ」


「うっそだぁ!どうせ隣で私の鎖骨チラチラ見るつもりなんでしょ?えっち♡」


「鎖骨見るなら俺は首筋を見るんだよ!」


「いや、今見るって言っちゃったじゃん!圭ちゃん墓穴を掘ったね!あはははははっ!」


 朋香は腹を抱えて大声で笑う。

 俺は奥歯を噛み締めて怒りを抑え込む。


「見たくて何が悪いんだ!」


「いや、全然悪くないんだけどさ。これよりもっと良い服あるよ?」


「ほんとか?」


「この辺にあったはず……あっ、これだ!」


 朋香は手際よく服を見ていく。さすがここに住んでいるだけのことはある。

 そして取り出したのは今の物よりも倍以上、生地の面積が少なくなったニットだった。


「……お前、こんなの着るの?」


「持ってるんだから着るに決まってるじゃん。これ結構涼しくていいんだよ」


「そりゃ、そうだろ……」


 肩出しはさっきの物と変わらないが、今度はお腹が丸見えになってしまう。

 さすがにこれを外で着るのには色々と問題があるのではないだろうか。


「初デートなんだしさ。シンプルよりも大胆に攻めた方が良くない?これにスカート合わせると最高だよ?」


「言ってることは分からなくもないが……」


「もしかして、これで隣歩かれるの恥ずかしいの?」


「恥ずかしいってわけじゃないが……逆に目立ってバレたりしないかだけが心配なんだ」


 一応はそういうことも頭に入れた上で俺も服選びはしていた。

 街中で騒ぎになったら大変だからな。


「それはこのサングラスで万事解決」


「ついでに帽子も被れよ?」


「帽子はこれで良いでしょ」


 朋香は以前と似た感じのスポーツタイプのキャップを選んだ。


「ああ、それなら問題ないな」


「さすがにこのニットだけじゃ心配だし、薄いパーカー系も着るよ」


「それが一番良いと思う」


 俺達は意見を出し合いながらコーデーを着実に決めていくのであった。

 結局のところ、俺だけの意見ではどうにもならなかっただろう。


「じゃあ服も決まったし、着替えますか!」


「おい!だからなんでここで脱ぐんだよ!」


 朋香はまたしても俺の前で服を脱いだ。

 再三注意してこれでは本当に困る。


「今更、裸なんて見られたって私別に恥ずかしくも何ともないもん。それに早く着替えてデートに行きたいの!」


「……分かった。俺ももう何も言わん」


 俺も呆れ返ってしまい、とうとう諦めた。


「あっ、ブラ持ってくるの忘れちゃった。圭ちゃんブラ持ってきてよ」


「……なんで俺が」


「私が今動けないから」


「動けるようになったら自分で取りに行けば良いだろ。俺は持ってきたくない」


「ねぇ!はーやーくー!お願いだからブラ持ってきてよぉぉぉぉぉ!」


「……分かったから!そうやって身体を動かすのやめろ!」


 朋香が動く度に胸が上下に揺れる。

 俺は目のやり場に困ったため、すぐに取りに行った。

 それに取りに行かなかったらいつまでも朋香が騒いでうるさいしな。


「よーし!着替え完了!」


「……やっと終わったか」


「うん!お待たせしました!」


 俺は着替え終わった朋香を隅々まで確認する。


「そんなジロジロ見てどうしたの?悪いけど着替えたばっかりだからセックスはしないよ?キスくらいならしてあげるけど♡」


「なら俺がしてやるよ」


「えっ――」


 目を閉じて唇を突き出していた朋香に俺はキスをする。

 唇から離れると、瞬きをして状況を理解出来ずに驚く朋香の姿があった。


「はい、じゃあデート行くぞ」


「いやいや!そんな今の流れですんなりデートに行けると思った!?」


 扉の方へと向かおうとした俺の腕を朋香が咄嗟に掴んだ。


「なんだよ、キスしてやったんだから感謝くらいしろよ」


「そうじゃないよ!なんでしたの!キス!」


「朋香が可愛いからに決まってんだろ。それ以外に理由があるわけねぇ」


「……圭ちゃん……大好き♡」


 俺の言葉に心を打たれた朋香に俺の腕にくっ付いて離れようとしなかった。

 車に乗ってから全く離れようとはせず、密着度は増すばかり。


「……朋香、いい加減離れようか?」


「嫌だもん。圭ちゃん大好き、愛してる♡」


 どうやら、しばらくは無理そうだ。


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 ようやく服選びが終わりました。

 皆さんはどんな服を着て欲しいですか?

 今後の作品にも役立てていきたいのでコメントして頂けたら嬉しいです。

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