第18話 鳴海朋香の新居
「圭ちゃん、家の中も凄いでしょ!?」
「……うん、これは……凄いわ」
入ってすぐの広々とした玄関ホールは天井が一階から二階まで吹き抜けになっており、両脇に二階へと上がる階段がある。
そして、数え切れないほどの扉やドア、奥まで伸びた長い通路も確認出来た。
こんな作りの家は一般人の俺ではまず見たことがない。
「とりあえず、私の部屋に行こっか!」
唖然とする俺に対して容赦することなく、朋香は自分のペースで話を進めていく。
「ちょっと待てよ。お前の両親どこにいるんだ?久々に来たんだし挨拶くらいさせろよ」
「残念だけど、今はいないよ〜」
「二人揃って仕事にでも行ってるのか?」
「違う違う、二人仲良く海外旅行に行ってる最中なの」
朋香の両親も相変わらず仲が良いみたいで安心だ。
昔から二人だけで旅行に行くことが好きで、朋香が家に泊まりに来ることが多々あった。
「それで今回は何の旅行に行ったんだ?」
「私のアイドル引退記念旅行だよ」
「いや、それって普通はお前が主役で行くもんなんじゃないのか?」
平然と答える朋香に俺は訊ねた。
主役のいない記念旅行は記念旅行とは言わないだろ。いちごの乗っていないショートケーキと同等かそれ以上のレベルの案件だぞ。
「引退してすぐ圭ちゃんに会いたいから断っちゃった♡」
「お前ってやつは……ほんとに……」
照れながら答える朋香に俺は呆れて頭を抱えることしか出来なかった。
「ちなみに帰ってくるのは一ヶ月後だよ」
「一ヶ月!?どこまで行ったんだよ!」
「シンガポールだっけ……?いや、グアムだったかな……?どこに行ったのか忘れちゃったよ。あはははっ!」
笑いごとじゃねぇよ。
シンガポールとグアムじゃ全然違うだろ。
親がどこに行ったかくらい覚えておけよ。
「……ってことはお前、今一人なのか?」
「そういうことになるね。でも心配要らないよ!頼りになるSPがいるからね!」
「ああ、そうか。SPがいたのか、忘れてた」
SPが付いていなければ、こんな危ないやつを一人で野放しに出来るわけがない。
俺がもし朋香の親だったら絶対に一人に出来ないわ。帰ってきたら絶対に家吹き飛んで無くなってそうだもん。
「圭ちゃん、そろそろ私の部屋行くよ!デートよりも着替える時間の方が長くなったら困るよ〜?」
「分かった分かった。行くから」
俺は朋香の隣を歩いて二階へと向かう。
新しい部屋ってどんな感じなのだろうか。
「ここが私の部屋だよ」
「……お、おう」
朋香の部屋に着いた途端、急に鼓動が早くなった。少しだけ額にも汗が浮かぶ。
「何緊張しちゃってるのさ。私の部屋なんて慣れてるでしょ?」
「それは昔の話だろ。さすがに、この歳で女子の部屋に入るとなると緊張するんだよ」
「別にパンツやらブラを盗むわけじゃないんだよ?もっと落ち着いてくれないと私まで緊張しちゃうじゃん」
「誰も盗んだりなんかしねぇわ!」
「盗まなくても欲しいって言ってくれればプレゼントするよ?」
「そういう話でもねぇ!」
「じゃあ何?圭ちゃんは私のパンツもブラもいらないってこと?」
「もういいよ!やめてくれ!部屋の前でどうしてこんな話をしなくちゃいけないんだ!」
「圭ちゃんがパンツ被りたそうな顔してたから」
「どこをどう見て判断したんだ!?それに俺はそこまで変態じゃねぇよ!」
「はい、じゃあ部屋に入りますよー」
朋香は俺の話を無視する形で言う。
「急にあっさりした態度取るなよ!」
「圭ちゃん、そろそろうるさいよ?黙らないとその口に私の脱ぎたてのパンツ突っ込むよ?」
どうやら自分から話を振ったくせに、オチの付け方が分からなくなったみたいだ。
完全に逆ギレしてやがるよ。
「……なんで俺が悪いことになってんの」
あまりの理不尽さに俺は涙が溢れた。
俺が落ち込んでいる間に朋香は部屋の扉を開ける。
「ほーら、圭ちゃん早く入って」
「……おう」
俺はようやく新居の朋香の部屋に足を踏み入れる。
ドキドキで心臓がはち切れそうだ。
部屋に入ってすぐに目を疑うような光景が広がっていた。
なんと壁中に額縁が大量に飾られていたのだ。
恐る恐る、俺が近寄って確認をすると、それは全て俺と朋香の写真だった。
「……朋香、これって――」
「圭ちゃんとのツーショット!私の命の次に大切な物よ!」
朋香は目をギラギラとさせて食い気味に答えた。
「……懐かしい写真ばっかりだな」
「でしょ!?圭ちゃん小さくて可愛い♡」
幼稚園の入学式から小学校の卒業式までの全ての写真が飾られていた。
俺も朋香との写真は全てアルバムに入れて保存しているが、ここまではしていない。
一番のお気に入りの写真だけは飾ってはいるが、それは秘密にしておこう。
「でもさ、前はこんなことやってなかったよな?いつから飾り始めたんだ?」
「引っ越しをしてすぐかな?偶然、圭ちゃんの写真見つけてさ。飾っちゃえと思って飾り始めたら止まらなくなって、現状がこれ」
朋香の部屋で違和感があったのは額縁くらいでそれ以外は至って普通だ。
でも俺が使っている物よりはるかに高級感が漂っていた。
「写真、恥ずかしいから他の人には絶対見せるなよ……」
「はーい。あっ、パパとママだけは知ってるけど問題ないよね?」
「……別に良いよ」
実際のところ全く良くはない。
見られてしまったから許したのだ。
「まあ、時間も無くなってきたし。そろそろ私の服を選んで貰いますか」
「ここまで本当に長かったな……」
俺は思わずため息をつく。
「よし、じゃあ衣装部屋行くよ」
「ここじゃないのか?」
「いっぱい服あるって言ったじゃん!当然、衣装部屋くらいあるよ!」
「まじかよ……」
「隣の部屋だからすぐだって。ほら行くよ」
俺は再び腕を掴まれて連行されていく。
デートの前に俺の体力が尽きそうだ。
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はあ……デートしたいな……。
金髪ツインテールか黒髪ロングの美少女が良いです。この二択しか考えられないです。
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