第17話 鳴海朋香は車内で会話を楽しむ
「朋香、乗ってから言うのもあれなんだが……この車ってベンツだよな?」
「そうだね。これはパパの愛車のひとつなの」
「そんなのに乗って大丈夫なのか……?」
「大丈夫だよ?私のお金で買った車だし、圭ちゃんのお迎えには丁度良かったでしょ?」
「……」
何が丁度良かったのか全く理解出来ずに俺は黙り込む。
ベンツといえばよくテレビのCMで見る超高級車。軽く一千万円を超える車に乗っていると考えただけで鳥肌が立ってきた。
「……そ、そういえば、愛車のひとつって言ったけど他にもまだあるのか?」
「んーとね、確か車庫には後三台くらいあったかな?私は車に興味ないからパパがどんなの買ったかは分かんない。でも多分だけど全部ベンツだとは思うよ」
車庫に残り三台あって、今乗ってるのも合わせた金額は約四千万円。
なんかあまりにも住んでいる世界が違いすぎませんか。
車だけで父さんの年収の約六倍だぞ。
ここまで来ると、朋香が一体この三年間でいくら稼いだのかだけがもの凄く気になる。
それを聞くのはマナー違反だろうか。でも聞くタイミングとしては今がベストだろう。
「……朋香、お前っていくら稼いだの?」
残念ながら興味の方が勝ってしまった。
仕方ないんだろ、気になるんだもん。
「百五十億円だよ?」
朋香はあっさりと答えてしまった。
「……え?もう一回お願い」
「だから百五十億円だってば」
「なんかやばいこと……した?」
「違う!私が稼いだのよ!百五十億円!」
「……まじですか?」
俺の聞き間違いじゃないんだよな。朋香のやつ、百五十億円って言ったか。
百五十億円ってあれだよね、一億円束が百五十個ってことだよな。
なんか俺当たり前のこと言ってるようだけど、なんか日本語おかしくないか。
とりあえず、俺パニックってます。
「ねぇ、圭ちゃん?私がただ三年間遊んでたとでも言いたいわけ?」
「いや……そういうわけじゃ……」
「じゃあ何なの?圭ちゃんが聞いてきたんだよ?もっと驚いたりしたらどうなの?」
「百五十億円って言われて驚けという方が無理じゃねぇか?」
「私クラスのアイドルならそれくらい稼いで当然でしょ!CD、Blu-ray、ライブにその他諸々のグッズ、数々の記録を塗り替えて来たんだから!」
朋香は誇らしげに語った。確かにそう言われれば納得だ。
俺の部屋の朋香グッズの総額はもしかすると三桁は行くかもしれない。
そんなガチ恋勢が全国各地にいるんだ。ぼろ儲けに決まっている。
「俺は驚きよりもすげぇなと思い始めてきたわ。俺だけの朋香だったのに、アイドルデビューしてここまで人気になって百五十億円も稼ぐなんて想像もしていなかったよ。本当に頑張ったんだな。お前は俺の自慢の幼なじみで彼女だよ」
「……なんか今褒められても……全然嬉しくないんですけど……!」
朋香は頬を赤らめると窓の外に顔を向けてしまった。
一瞬だが目がうるっとしていたが気のせいだろうか。
もう少し早くに褒めてやるべきだったかな。
「って、朋香!?今お前の家過ぎたぞ!?」
不意に窓の外を眺めた俺の目によく遊んでいた朋香の家が目に映った。
俺の脳裏に昔遊んだ懐かしい記憶が蘇る。
「もしかして前の家のこと?それならもう住んでないよ」
朋香はチラッと俺の方の窓を見ると直ぐに視線を戻した。
「住んでないってどういうことだよ?」
「アイドルって色々面倒でね。家バレしちゃったら週刊誌とかテレビ局ぞろぞろ来ちゃってさ。しょうがないから引っ越したの」
「……びっくりした。ストーカーにでも付けられていたのかと思ったぞ」
「あっ、勿論だけどストーカーもいたよ?ボッコボコのギタギタにしてやった♡」
朋香のストーカーを誤ってしてしまった皆さん、ご愁傷さまでした。
「そもそも、ストーカーに付けられるってお前は顔バレしないように何か工夫しなかったのか?」
「ぜーんぜん!めーんどくさいじゃーん!」
「昨日サングラスかけてただろ?それは?」
「ママに引退したばかりなんだからせめてサングラスだけはかけておきなさいって言われて仕方なく」
「お前、昨日そんな言い方しなかったよな?自分で考えてかけた雰囲気出てたよな?」
「そ、そうだったかな……?あはははっ!」
相変わらず誤魔化すのが下手くそ過ぎる。
なるほど、家バレしたのも全部朋香自身のせいなんだな。なんか逆に安心した。
「じゃあ今は全く別のところに住んでいるのな?」
「そうだよ。もうすぐ着くはずだけど……そうだよね、SP
SPIIってなんだ。初めて聞いたぞ。
「朋香お嬢様、もうすぐなんてもんじゃありませんよ。後三十分は掛かりますよ?」
「あれ?そうだっけ?私全然分かんなくてさ、あははっ!」
「一般人に戻るおつもりならせめて道くらい覚えて下さい。私達もいつまでもお世話出来るわけではないんですから」
「はーい。分かりまーしたよー」
このやり取りは何なんだ、今の一瞬で俺の知らない朋香が紛れ込んだぞ。
朋香お嬢様って一体誰のことだよ。
「……ちょっと朋香待て、SPって何だ?」
「SPはSPだよ?」
「あのSPなのか?本物のSPなのか?」
「そうだってば。運転しているのは家で雇っている二番目のSPさんだよ。だからSPII」
俺は席を立ち慌てて運転席を確認すると、
「あっ、どうも。圭太さん、いつも朋香お嬢様がお世話になってます」
「いえ、こちらこそ……そうじゃなくて!なんで朋香の家でSP雇ってるんだよ!」
運転しているのはムキムキの男だった。
黒いサングラスに黒のスーツ、ガチSPだ。
てか、俺気付くの遅すぎるだろ。
「実は引っ越したついでにさ、どうせなら護衛付けた方が良くないって話になって八人雇っちゃったんだよね♡」
「そんなに欲しいのか?一人や二人いれば十分だろ?」
「結構欲しいもんだよ?運転手にライブの時の護衛役、家の門番役と大活躍!圭ちゃんにも是非おすすめだよ!」
「すすめなくていい。俺には必要ない」
「そう?私の代わりにストーカーをボコボコにしてくれたり、週刊誌とかテレビ局のカメラぶっ壊してくれたりと色々と物理攻撃には特化しているんだよ?SPは本当に楽だよ〜?」
SPを手持ちモンスターみたいな扱いするんじゃねぇよ。ちゃんと人として扱えよ。
「朋香お嬢様、お話の途中ですが間もなく到着です」
「はーい。圭ちゃんの反応が楽しみだな〜」
朋香は両足をバタバタとさせながらニコニコして笑っていた。
車が止まってSPが先に降りると朋香側のドアが開いた。そして朋香が降りる。
「圭太さんもこちらからお降り下さい」
「は、はい。ありがとうございます」
こういうのには慣れていないからなんだがむず痒いな。
「圭ちゃん見てぇぇぇぇぇ!これが私の新しいお家だよぉぉぉぉぉ!」
朋香は両手を大きく広げて盛大にアピールをした。
「……嘘だろ?」
車から降りた俺の目の前に広がるのは膨大な土地に建つ洋風の御屋敷だった。
高いフェンス、手入れの行き届いた庭、門の前で警備するSPが二人。
まさにこれは大富豪の家だ。
「どう!?びっくりした!?したでしょ!」
「……これはあれだな。うん。あれだ」
あまりの大きさに動揺して言葉が出てこない。これは何をどう褒めればいいんだ。
「別に感想なんていらないよ!驚いてくれれば良いだけ!じゃあ、家の中を案内するから着いてきて!」
「え、ちょ!待てって!心の準備が――」
腕を掴まれて俺は朋香に無理やり家の中へと連行された。
幼なじみの元アイドルは大富豪になっていたという事実。校長を買収したという時点で、俺はもっと早くに気付くべきだった。
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