第10話 鳴海朋香の性欲は止まらない

「それで部活を作るって何なんだ……?」


「圭ちゃんと私だけの部活作りたいなと思ってさ!どうせ、圭ちゃん暇なんでしょ?」


「まあ、暇は暇だけど……」


 暇なのは確かだが、俺には帰ったらゲームするか、寝るか、朋香のライブを見るかの三つの選択肢がある。

 そして俺は友達も少ないので、放課後に誰かと遊ぶことなんて無い。


「じゃあ決まりだね!作ろう!」


「なんて部活作るつもりなんだ?」


「SEX部!」


 朋香が言い放ったその言葉は教室中に響き渡り、一瞬にして静まり返った。

 元アイドルが「SEX」と言ったんだ。そうなるに決まっている。

 教室に残ったいた生徒はチラチラとこちらを見ているだけで、朋香の朝の放送の影響なのか誰も口を開こうとはしなかった。


「却下」


「どうして!?」


「そんな部活が受理されるわけないだろ!バカなのか!」


「圭ちゃんこそバカなの?今の私はその受理する権利すらも手にしているんだよ?」


「……あっ、そういえばそうだったな」


 朋香は校長を買収している。

 つまり今この学校のトップは朋香ということになっているのだ。

 そして、部活の申請をして受理されるためには生徒指導の先生から一名、教頭、校長と三人の承認が必要なのだが、朋香が校長である以上はそんなことは関係ない。


「そういうこと!残念だったね!あははっ……!」


「そうだな。何が残念なのかはさっぱり分からんが、受理おめでとう。俺は入らないから一人で楽しめよ。また明日な」


「だ・か・ら!どうして圭ちゃんはすぐ帰ろうとするぅぅぅぅぅ!?」


「顔怖い!顔怖い!お前、元アイドルがしちゃいけない顔してるぞ!」


 俺の腕にしがみつく朋香の顔は鬼の形相をしていた。

 とてもじゃないが、ファンには見せられない。


「誰のせいだと思っているのさ!」


「十中八九、お前が悪いんだろ!俺は何もしていない!」


「圭ちゃんが素直に私と一緒にSEX部に入ってくれれば良い話じゃん!」


「なんだよ!SEX部って!何すんだよ!」


「決まってるじゃん!セックスするんだよ!」


 朋香は何の恥じらいもなく、堂々と口に出した。


「ぜってぇぇぇぇぇ!入らねぇぇぇぇぇぇ!」


「どうして!私とセックスしたくないの!?校内セックスとかめっちゃ憧れなんだけど!」


「お前の憧れなんぞ、どうでもいいわ!」


 言いたくはないが、俺はそういうのは動画類で間に合っている。

 朋香とやるなら普通に家かホテルでやりたい。


「図書室とか保健室、体育館の裏で誰かにバレないか、あのドキドキの中でしちゃうんだよ!?めっちゃ興奮するじゃん♡」


「お前はどこでそんなこと覚えてきたんだよ……」


「スマホで『エ〇動画』とか『エ〇アニメ』って検索したらいっぱい出てきたよ?」


「やめろやめろ!生々しい!」


 まさか朋香もそういうのを見ていたとは、意外だった。

 いや、そうでもないか。ここまで変態ならエ〇動画の一本や二本は見ているか。


「ちなみに圭ちゃんは正常位と騎乗位ならどっちが好き?私はしたことないから分からないけど、最初は圭ちゃんが好きな体位で挿れて欲しいな♡」


「俺だってしたことねぇから分かんねぇよ!」


「そうなの?ちなみに立ちバックも?対面座位は?」


「セックス自体したことねぇよ!てか、お前めちゃくちゃ体位詳しいな!」


「だってさ〜、セックスするなら圭ちゃんに気持ち良くやって欲しいし、私も気持ち良くイキたいから♡」

 

 朋香は赤らめた頬に両手を当てて身体を揺らしながら恥じらうように言う。

 

「……その気持ちだけは受け取っておくわ。とりあえずお前は一旦口を閉じろ」


「どして?」


「この教室の惨状を見たら分かるだろ……」


 朋香が下ネタを言い過ぎたせいで残っていたクラスメイト全員の朋香に対する視線は想像以上に冷たく変わっていた。

 それは幼馴染の俺も例外ではなかった。


「ちょっと何見てるのよ!これから私と圭ちゃんはセックスするんだからさっさと帰ってよ!帰らないなら全員退学にするよ!?」


 朋香の一言で残っていたクラスメイト全員がそそくさと帰っていく。

 そして教室は俺と朋香の二人だけとなった。

 校長の権限強すぎるだろ。


「……よし!邪魔者も消えたし始めよっか♡」


「始めるって何を?」


「もちろん、セックスだよ♡」


「嫌だ」


「なーんで?」


「まだその時じゃないから」


「その時っていつ来るの?」


「俺がお前との子供が欲しいと思った時だ」


「じゃあ卒業してから?」


「……多分な」


「もーう、しょうがないな~。それならのところはここまでにしといてあげる」


 そう言うと朋香はバッグを持ち、帰る準備をする。

 今日のところはというワードが引っ掛かるが、明日もこんな話をされるのだろうか。

 

「お、おい、朋香。今日はやけに素直じゃないか?」


「んー?圭ちゃんが言うんだもん、私は圭ちゃんの意見を尊重するよ?」


「じゃあ、今までのやり取りは一体なんだったんだよ……」


「暇つぶしだよ?家に帰っても暇なんだもん~」


「それなら別に一緒に帰って遊べば良かったんじゃないのか?」


「あ~、確かにそうだね!私ってば、すっかり学校でセックスすることばかり考えてて忘れてたよ。えへへっ☆」


「部活作るっていう話も暇つぶしか?」


「そだよ?部なんて作らなくても圭ちゃんの同意さえあればいつでも出来るもんね♡」


 朋香は「当たり前だよね」みたいな感じで微笑んできた。

 しかし、俺にはそんなつもりは一切ないので「ふざけんなよ」という感じで微笑み返す。


「とりあえず……帰るか」


「だね~」


 俺と朋香は夕日が差し込む教室を後にする。

 こうして騒がしかった朋香の転校初日が終了した。

 

      *      *


 帰宅後、俺は母さんに朋香の引退を前々から知っていたのかどうか洗いざらい吐いて貰った。

 その結果はクロだった。全て朋香の母さんから聞いていたらしい。

 しかし、俺はそれ以上は問い詰めることはしなかった。

 過ぎたことをいつまでも引きずっているのもカッコ悪いし、それに母さんにも何か考えがあったんだろう。


「……明日も朋香に会えるのか、それはそれで嬉しいかもな」


 深夜一二時。俺はベッドに横になって呟く。

 まさか朋香とまた一緒に学校生活を送れる日が来るとは思いもしなかった。

 朋香がアイドルになった日から二度と対等な存在で話すことは出来ないんだと考えた時は凄く寂しかった。

 しかし、今は朋香が戻って来てくれてずっと俺の隣にいてくれる。こんな幸せなことはない。

 そんなことを考えていると、俺のスマホの着信音が鳴った。出ると、


『あ、もしもし?圭ちゃん?もうすぐ着くから部屋の窓開けといて~』


『部屋の窓?お前どこにいんだよ?』


『空だよ~!あ、見えた~!圭ちゃん行くよ~!』


『空!?それに行くよってお前――』

 

 俺が部屋の窓を開けると何者かが俺に飛び込んで来た。

 その衝撃で俺達は部屋の奥へと吹き飛んだ。


「いや~!着いたぁぁぁぁぁ!圭ちゃんの家だぁぁぁぁぁ!」


「朋香!お前どんな登場の仕方してんだ!あぶねぇだろ!」


「びっくりした!?スカイダイビング風で登場してみたよ!」

 

 朋香は暗闇でも分かるくらいの白い歯をキラキラとさせながらピースサインをする。

 

「確かに驚いたけどさ……お前はこの時間に一体何しに来たんだよ!」


「え~?夜這い?」


「帰れ!」


「やだよーだ。夜はまだまだこれからだよ、圭ちゃん♡」


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10話まで読んで頂きありがとうございます。

次回からエロ要素が跳ね上がります。

 

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