第7話 鳴海朋香は面倒だが単純な人間
放送を終えて教室に戻ると、朋香は俺の隣の席に座る女子に声をかけた。
「そこ、邪魔よ?圭ちゃんの隣の席は私なんだから。早く退いて」
「……え?」
いきなりの邪魔発言にその子は困惑した。
「聞こえなかったの?退けと言ったの」
「……でも、そうしたら私は何処に座れば……」
威圧的な態度で脅し続ける朋香に対してその子は勇気を出して訊ねた。
「そんなこと知らないわよ。床で正座でもしていればいいんじゃない?」
「ゆ、床……」
いくら何でもそれは残虐過ぎるだろ。
このままでは本当に正座コースになってしまいそうだったので俺は助け舟を出した。
「朋香、お前が違う席に座ればいいだろ。お前一人が座れるスペースくらいまだ残ってるよ」
「い・や・だ!圭ちゃんの隣は私って生まれた時から決まっているんだから!」
「だからって床は論外だ!ちゃんと席を用意するのが普通だろうが!」
「け、圭ちゃん、もしかしてこの子のことが好きなの!?」
「どうしてそうなるんだ!可哀想だから助けてあげているだけだ!」
「つまりは好きってことでしょ!?」
「違うっつってんだろうが!」
「うわーん、圭ちゃんに浮気されたー、もう生きていけないよー」
状況は悪化するばかりだった。
「とりあえず、朋香落ち着け。俺はお前以外を好きになったりはしない。この子が三年間を共に過ごすクラスメイトだから助けてあげただけであってそれ以外の感情は持ち合わせてはいないから大丈夫だ」
「本当に?」
「ああ、本当だ。信じてくれ」
「分かった、信じる」
相変わらず俺の言うことは聞いてくれるみたいなので助かった。
でも俺の言ってることも酷いよな。俺は少し自分自身に嫌悪感を抱いた。
「これで一安心だな……って、おい!」
俺が横に目をやると隣に座るその子は頬を赤く染めていた。
「え?どうしたの?」
「いやいや!「どうしたの?」じゃねぇよ!なんで頬赤くしてんだよ!」
「圭太くん、ちょっとカッコイイなと思って惚れちゃったかも……」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
これはちょっとマズイかもしれない。
てか、こいつ惚れるタイミングがおかしすぎるだろ。
俺は恐る恐る朋香の方へと視線を向ける。
「うふふっ……あなた今なんて言ったのかなー?もっと、ハッキリ、私に、聞こえるように言ってくれるかな?……うふふっ」
軽く微笑みながら睨みつける朋香のその表情にはとても恐怖心を感じた。
「……カッコイイなって、思っただけだよ?」
どうしてお前はこの朋香を見て同じことが言えるんだ。逆に凄いよ。
もしかして歴戦の勇者の末裔とかなのか。
「あなた、圭ちゃんのことが好きなの?」
「好きかどうかは分からないけど、少しだけ惚れたかも」
「そうなの……あなたを危険分子として認定し、今から拘束します。入って来なさい!」
朋香がそう言うと、窓から黒ずくめの男達が突入してきた。
そして俺の隣に座る子を拘束した。
なんか俺が想像していた高校生活と全く違うだけど。
一体何なのこれ、『生き残れ!』がキャッチコピーの新たなサバイバルゲームなの。
「……あの私はこれからどうなるんでしょうか?」
「その制服をひん剥いてからロープで縛って天井から吊し上げるだけよ♡」
「ど、どうしてそんなことを……」
「あなたがいけないのよ?圭ちゃんに惚れたりするから。圭ちゃんに近づく私以外の女は全員敵よ。ふふふっ……あなたはその制服を脱いだ時、どんな声で泣き叫んでくれるのかしら。楽しみで今からヨダレが止まらないわ……ぐへへっ」
朋香がどこからどう見ても悪役にしか見えなかった。
それになんかもう色々とダメな気がしてきた。
言っていることは変態丸出しで、顔に関してはご想像にお任せします。
荒い息立てながらR18指定な顔してます。
「そ、そんなの私嫌だよ!」
「心配しなくても大丈夫よ。あなたが私に忠誠を誓えるくらいまでに反省出来たら下ろしてあげるから。私に歯向かったことを十分に後悔してね♡」
「心配要素しかねぇよ!バカか!」
俺は思わず朋香の頭を叩いてしまった。
「いったーい!ちょっと圭ちゃん何するのさ!」
「お前がバカなことしようとしているから止めるだけだろうが!何考えてんだ!」
「私はただ邪魔者を消し去るだけよ!」
「言ってることがさっきから極悪過ぎるなんだよ!お前本当にアイドルやってたのかよ!?裏でマフィアの
「ちゃんとアイドルやってましたよーだ!だからこうやって黒ずくめの男達を呼べるんじゃーん!」
アイドルやってると黒ずくめの男と繋がれるの。そんなの初耳なんだけど。
どういう経緯で繋がれるんだよ。
住む世界が真逆だろ。白か黒かハッキリ分かるじゃん。
「と、とりあえず!その子は何も悪いことしてないんだから離してやれよ!」
「絶対に無理!制服ひん剥いてやるって決めた以上はやってやるんだから!」
「それをやってお前に何の得があるんだ!」
「えー、だって邪魔者が一人消えて、この子の明るい未来が消えるんだよ?得しかなくない?」
「…………」
朋香の考えが下衆過ぎて何も言えない。
どうして俺はこんな奴と幼なじみなんだろうか。
アイドルをやって丸くなって帰ってきたかと思ったが、やはり朋香は朋香だった。
「じゃあ、そろそろ刑を実行しちゃいますか〜。黒ずくめの皆さーんお願いしまーす!」
朋香の指示に従い、黒ずくめの男達は無言で動き出した。
「いやぁぁぁぁぁ!やめてぇぇぇぇぇ!」
「そうそう!その声が聞きたかったんだよ……もっと聞かせてちょうだい……!」
さすがに俺もこれ以上は見ていられなかった。
ここは奥の手を使うしかないか。
「あー、朋香がこんなことをするなんて俺はガッカリだ。泣いちゃうな」
「……え?圭ちゃん……泣いちゃうの?」
「そりゃ泣きたくなるよ。あんなに優しい朋香がこんな残虐な行為をするんだもん。幼なじみとして、彼氏として悲しいよ」
「そ、そ、そ、そんな。私は圭ちゃんのことを思ってやっているだけだよ?」
「俺が一度でもそうしてくれって頼んだか?」
「……頼んでないです」
「じゃあ、どうすればいいか。賢い朋香ならもう分かるよな?」
「……はい」
朋香は黒ずくめの男達を撤収させて、その子に頭を下げた。
「良く出来たな、朋香。えらいえらい」
「……うん」
俺はご褒美に朋香の頭を優しく撫でてあげる。
少しだけ照れる朋香は可愛かった。
「さて、授業始まるし席だけ移動しちゃうか」
結果として俺の隣に朋香が座り、もう一つの席に隣に座っていた子が移動する形となった。
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