第3話 幼なじみの元アイドルは変態です

「なあ、朋香?」


「なーに?圭ちゃん?私の太ももに欲情してセックスしたくなったの?」


 俺がソファに座っている横で朋香は後ろを見せる形で床に寝転がっていた。


「至って平常運転だ。欲情なんかしてねぇよ」


「私がこんなにも無防備な姿を晒しているのに欲情しないなんて……圭ちゃんの性事情が心配だよ……」


「俺はお前のその残念な脳みその方が心配だわ」


 ただ声を掛けただけなのにどうしてすぐにエロい話をしたがるのか俺には到底理解できない。


「それでなーに?太ももが嫌ならおっぱいが良いの?しょうがないな、ばぶばぶな圭ちゃんのためにここは一肌脱いでやりますか」


 朋香は嬉しそうに着ているシャツの胸元のボタンを外そうとする。


「やめろやめろ!揉みたくないから脱ぐな!」


「……それは私のおっぱいに価値がないって言いたいの?」


「誰もそんなこと思ってねぇよ。お前は十分に立派な武器むねを持ってるだろ」


「やっぱり〜?実は中学の頃に一気に膨らみ始めてね、今はなんとDカップあるんだよ!」


 朋香は胸を持ち上げて自慢げに言う。

 そんな堂々と胸の大きさを言われてもな。

 俺は触ったことも見たこともないから想像がつかないのだ。

 ちなみにスマホで検索してみたらDカップはグレープフルーツ二個分らしいです。


「胸の大きさはわかったから。そろそろ真面目に俺の話を聞いてくれないか?」


「もう少しだけ圭ちゃんとエロい話したいな……ぐへへっ」


 口からヨダレを垂らしてニヤニヤする朋香はどこからどう見てても変態おじさんだった。

 アイドルの面影などほぼ残ってはいない。

 これが本当の鳴海朋香という人間である。


「話さねぇよ。お前一体いつまで家にいるつもりしてんだよ」


「圭ちゃんがこの婚姻届にサインしてくれるまで」


「なに勝手に持ち込んでんだよ!てか、さっきも言ったけど結婚出来ねぇだろ!」


「いやいや、もう今の時点でサインして既成事実だけでも作って置こうと思ってさ!こんなこと思いついちゃうなんて私って天才じゃない!?」


「天才じゃねぇよ!お前は大バカだよ!」


 朋香が俺に差し出した婚姻届には既に朋香の欄は書いてあり、後は俺が書けば成立する状態になっていた。

 本当にこいつはどこまで用意周到なんだよ。


「またそうやって私のことをバカとか言って!圭ちゃん知らないの!?バカと天才は紙一重なんだよ!?」


「だからバカだって言ってんだろ!バカ!」


「違うし!私は百歩譲っても天才でしょ!」


「譲るな!お前が天才になれることなんて天地がひっくり返っても有り得ないからな!」


「じゃあ頑張って天地ひっくり返してみせるよ!」


「だからそういうところがバカだって言ってんだよ!頼むからさ、いい加減にその残念な脳みそどうにかしろよ!こっちまでバカになりそうだわ!」


「いいじゃん。一緒にバカになろうよ?」


「そんなの死んでもごめんだね!」


「じゃあ〇んで♡」


 こいつ、さすがに暴走し過ぎじゃないか。

 アイドルを引退して、今まで溜まりに溜まっていた本心が爆発している状態だ。


「朋香、お前もう少し口調とか直したらどうなんだ?見た目は完璧なのにそれだと全てが台無しになるぞ?」


 朋香は大きな瞳を持ち、小顔で顎が小さく、フラットな顔立ちをしている。そして肩にかかるくらいの長さのグレーアッシュの髪が特徴だ。

 この容姿で沢山のファンを作ってきたアイドルというのは事実だが、今のままではただのバカで変態のツートップである。


「そんなことしたら私が私じゃ無くなるよ。下ネタがあってこそ私は初めて活きる存在となるの。下ネタこそ正義、下ネタこそ理想、下ネタが日本の未来を救うんだよ!」


「あー、そうですか。じゃあ、俺はもう何も言わないです、はい」


 ガッツポーズをする朋香に対して俺は塩対応で応接した。

 どこかの国会議員の演説みたいな話し方で下ネタを語られても反応の仕方に困るんだよ。


「ということで、圭ちゃん。今すぐセックスをしよう」


「何がということでだよ。俺はお前のそのどうでもいい話に同意した覚えはないぞ」


「反論しないということは認めたということでしょ?」


「そこはイコールの関係にはならないだろ!」


「まあ、なんでもいいんだけどさ。私は圭ちゃんとセックスしたいの〜。セックス!セックス!」


「うるせぇな!しないって言ってんだろ!あ~〜〜〜~!まじでお前帰れよ!もうやることないだろ!」


 朋香は足をジタバタとさせて駄々をこねる。

 それを見た俺は頭を抱えて困り果てた。


「まあまあ落ち着いてよ。せっかく付き合うことになったんだしさ、もう少し居させてよ?」


「先に言っとくが、エロいことは何もしないからな?」


「え?エロいことしないで何するのさ?」


「……朋香、いい加減にしないと追い出すぞ?」


 堪忍袋の緒が切れる寸前になった俺は朋香を睨みつけた。


「……じゃあ真面目な話するけどさ。いつになったらセックスしてくれるの?」


「いや、全く真面目な話じゃないんだけど……」


「違うもん!私にとって、セックスは真面目な話だよ!」


 そんな真剣な眼差しでセックスと言われる俺は一体どうすればいいんだよ。

 俺は深いため息をつき、朋香の質問に答える。


「……まあ、普通に考えて二十歳だな」


「真面目に答えすぎ!今って言ってよ!」


「言うわけねぇだろ!」


「もーう!圭ちゃんのいけず!根性なし!」


 朋香はそういうと立ち上がりドアの方へと向かった。


「おい、朋香。どこ行くんだよ?」


「帰るんだよ!今日のところはこれくらいで勘弁しといてあげる!」


「ああ……そうなのね……」


 居たいって言ったり、帰るって言ったり、こっちのペースを乱されて気が変になりそうだ。

 玄関で俺達は軽く挨拶を済ませることにした。


「明日は圭ちゃんにサプライズがあるから楽しみに待っててね」


「サプライズ?なんだよそれ?」


「教えたらサプライズにならないじゃん。間違いなく圭ちゃんめっちゃ驚くと思うから心配しないでね。それじゃあまた明日ね〜」


「分かった、じゃあな」


 朋香は笑顔で手を振り、俺の家から帰って行った。

 明日って学校なんだけど一体何があるのだろうか。俺は少しだけ気に止めた程度でそれ以上は深く考えず、再び朋香のライブ映像を見ることにした。

 朋香のサプライズが今後の生活に大きな影響を及ぼすことになるのだが、この時の俺はそれを知る由もない。

 

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