第2話 幼なじみの元アイドルと付き合うことになる?

「朋香、結婚しようって話だけどさ……」


「早くも婚姻届け出しに行く気になったの!?それとも子供が欲しいの!?圭ちゃんがセックスしたいならいつでもウェルカムだよ☆」


「あほ。婚姻届けを出しにも行かないし、セックスもしない」


「子供は三人は欲しいかな、女の子が二人と男の子一人。一戸建てで何不自由なく幸せに生活するのが私の夢なの」


「おい、俺の話を聞け。俺は結婚もしないし、子供を作る気はない」


「どうして!圭ちゃんは私と結婚して子供欲しくないの!?」


「自分の年齢考えろ!俺もお前もまだ十五歳だろうが!」


 リビングに着いた俺達は向かい合う形でソファに座って談議を進めようとしていたが、朋香のせいで話が一時停止した状態だ。


「歳なんて関係ないよ!圭ちゃんと私のコンビネーションさえあれば『』なんてあっという間に出来ちゃうよ!」


「お前なんて言葉使ってんだ!仮にも元アイドルだろ!芸能界で何を学んで来たんだよ!」


「えーとね、正しい言葉遣いと礼儀作法と歌い方くらいかな?」


「正しい言葉遣いでそれか!?昔よりも悪化してんじゃねぇかよ!」


 朋香はアイドルになる前はくそみたいに言葉遣いが悪かった。

 悪いというか、口から出る言葉の大半が下ネタだったと言った方が正しいか。

 デビュー後はステージやテレビ、ラジオに出演した際はしっかりと敬語を使っていたので俺は一安心していたのが、引退した結果がこれだ。ファンがこれを間違いなく見たら泣くだろうな。


「あー、でも大丈夫だよ。ちゃんと処女は圭ちゃんにあげるって決めてたからさ。ヤらせてくれって言ってきたクソ野郎共は片っ端からぶっ飛ばしたから♡」


「大丈夫要素どこだよ!ぶっ飛ばしたってなに!」


「普通にグーで殴打して二度と私の前に立てなくしてやっただけだよ?」


「よくそれでアイドル続けられたな……」


「だってほら、私ってやっぱり次世代のカリスマ高校生アイドルだし?守ってくれるバックは沢山いたんだよ。殴ったことは全部もみ消して貰ったよ♡」


「芸能界こわ……」


 俺は知ってはいけない裏事情を聞いてしまった。

 聞いたからって消されたりはしないよな、大丈夫なんだよね。


「てかさ、処女守ったんだから褒めてくれても良いんじゃないの?結構大変だったんだよ?」


「そ、そうなのか?よく頑張ったな」


「え~?それだけなの?圭ちゃん冷たーい」


 朋香は拗ねた表情でそう言うと俺の前に頭を突き出した。


「……俺に何をしろと?」


「ご褒美に頭なでなでしてよ」


「撫でるくらいなら……まあ、いいけど」


 俺は朋香の頭に手を置いて優しく撫でる。

 

「なんか懐かしいな。私が泣いた時とか圭ちゃんよく頭撫でてくれたよね」


「そ、そうだったか?昔のことなんかもう忘れたわ……」


「またそうやって照れて。圭ちゃんは本当に可愛いんだから」


「て、照れてねぇし!可愛くもねぇし!」


「あ~~~~~~~!もう早く結婚したい~~~~~~~!」


 頬を赤くして照れる俺を見て朋香は目をハートにして絶叫した。


「結婚は絶対しないからな!?まず俺達付き合ってすらいないだろ?」


「じゃあ、付き合ってよ?早く結婚したいから」


「……お前さ、いくら何でも軽すぎない?」


「なにが~?もしかして私の体重?」


 俺は一度深呼吸をして息を整えてから答える。

 朋香のペースで話していたらこっちの精神面が持たない。


「体重なんか興味ない。とりあえず良く考えてみろって。昨日アイドルを引退したばかりで俺のところに来て、付き合ってよって言うのはおかしいだろ?」


「そうかな?引退したら好きな人のところに来るのは当然のことだと思うんだけど」


「……好きな人?」


「好きな人だよ?」


「誰が?」


「誰って圭ちゃんに決まってるじゃん。話の流れ的に他に誰がいるのさ」

 

 俺は朋香がなぜ引退して俺のところまで来たのか、今ようやく全てのピースが繋がった。


「朋香、お前まさかとは思うが俺と結婚するためにアイドル引退したのか?」


「え?それ以外に何があるのさ。もしかして圭ちゃん、昨日のインタビューの最後の一言聞いてなかった?」


「たぶん、聞いてないな」


「どうしてそんな良いシーンを見なかったのさ!圭ちゃんだけに送ったメッセージだったのに!ぴえんだよ、ぴえん」


「お前の引退がショックでずっと部屋にいたから」


「ショックだったの?圭ちゃん意外と女々しいところあるんだね、ぷぷぷ」


 必死に笑いを堪える朋香を見て俺は少しイラっとしてしまった。

 そして俺はある決心をする。


「朋香、ちょっと俺の部屋に来い。見せたいものがある」


「わかった~。あっ、その前に一つだけ聞いていい?」


「なんだよ?」


「圭ちゃんは勿論だけど童貞だよね?」


「今聞く質問じゃねぇだろ!このクソビッチが!」


 人が怒っているというのにこいつは本当に自由過ぎて困るよ。

 ちなみにですが俺はちゃんと童貞です。


       *      *


 二階に着いた俺達は奥へと進み、俺の部屋の前で一度立ち止まった。

 

「どうしたの?入らないの?」


「お前が先に入るんだよ」


「はーい。じゃあ失礼しまーす」


 部屋に入った朋香がは目をパチクリとさせながら唖然とした表情を見せる。

 それもそのはずだ。朋香は俺が応援していたことを知らないのだから。


「どうだ?これが俺の部屋だぞ?」


「圭ちゃんって――」


「ん?」


「朋香ガチ恋勢だったのね!こんなに私のグッズがいーっぱい!どれもこれも限定版でプレミアが付くやつばかり!よくこんなに集めてくれたね。ありがとーう!」


 朋香は綺麗な白い歯を見せながら笑顔でピースサインをする。

 数年ぶりにこんな至近距離で朋香の笑顔を見たが、相変わらず可愛くて尊死しそうだ。


「これを見て、俺の言いたいことは理解して貰えたか?」


「え?私のことが大好きってことじゃないの?」


「それは合ってるが……そうじゃないだろ?」


「じゃあ、分からないかな」


「それなら教えてやる。俺はな、アイドルとして歌っている朋香が大好きだった。お前がデビューしてからずっと応援してきた。イベントもライブも全通した、CDとBlu-rayだって全部揃えた。それなのにお前は引退した。俺はもっと歌っている姿を見たかった。それにせっかく掴んだ夢をお前は途中で諦めたんだぞ?俺はお前を許せないし悲しかった」


「もしかしてだけど……圭ちゃん怒ってる……?」


「これが怒っている以外に見えるのか?」


「見えない。圭ちゃん物凄く怒ってる」


 俺は自分でも気付かないうちに少しずつ声を荒らげて話をしていた。

 それほどまでに俺はアイドルとして活躍する朋香のことが好きだったんだ。


「だって別に今引退しなくても良かったんじゃないのか?結婚したいならまだ十分に売れてからだって遅くはないだろ?」


「そんなことない!私は圭ちゃんとの時間が欲しかったの!」

 

 俺の発言に対して不満そうな朋香が強く反論する。


「俺との時間?」


「うん。確かに私は圭ちゃんの言う通り、夢だったアイドルになれたよ。でも、私は圭ちゃんのことを忘れることが出来なかった。中学だって一緒に生活したかったんだよ。でも予想以上に売れてそんな暇はなかった。だから高校だけでも圭ちゃんと生活してみたいと思ったの。私だって普通のJKライフを送ってみたいと思っているんだよ?」


 朋香の意見を聞いた俺は少し頭を悩ませた後、朋香に訊ねた。


「……そんなに俺のことが好きなのか?」


「大好き!」


「そんなに俺と付き合いたいのか?」


「付き合いたい!」


 俺の質問を朋香は食い気味で即答する。

 そして色んな感情が交錯する中で考え抜いた俺は一つの答えを出した。


「引退したことに対して後悔はないんだな?」


「無いよ!圭ちゃんと楽しい高校生活送りたいんだもん!」


「……分かった。それなら付き合ってやるよ」


「なんでそんな上から目線なの?嬉しいけどなんか腹立つな〜」


「それはお前が引退したことに対してまだ納得していないからだ」


「それは私と付き合っていくうちに納得してね。でもさ、良かったじゃん」


「何がだよ?」


「これであの大好きな鳴海朋香を独り占め出来るんだよ?」


「……あっ、そうか。そう考えるとやべーな」

 

 彼女には元次世代のカリスマ高校生アイドルという謎のパワーワードが付属している。

 我に返った俺はその事の重大さにようやく気が付いた。


「でしょ?私が幼なじみだったことに感謝してね」


「ああ、そうだな。感謝だけはしといてやるよ」


 こうして俺は鳴海朋香と付き合うことになった。

 朋香にはもっと歌って欲しかったが、俺も朋香のことは大好きだ。

 今まだ朋香の気持ちを最優先にしていきたいと思う。

 






 

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