次世代のカリスマ高校生アイドルは幼なじみの俺と交際するために引退したらしい。
倉之輔
第1話 幼なじみのアイドルが引退をしました
その日、一人のアイドルが宣言した一言に日本中が驚愕することになった。
『私、
鳴海朋香は次世代のカリスマ高校生アイドルだ。中学生の頃に某音楽オーディションで合格して初の中学生アイドルとしてデビューを果たす。その美しいルックスと歌声で音楽界に革命を起こして新人賞を受賞した。勢いそのままに高校生になるとアリーナツアー、ドームツアーなど数々のライブを行い最年少記録を塗り変えてきた。
そんな彼女がこれからどんな成長を見せてくれるのかと思っていた矢先の出来事だった。
「……こいつは一体何考えてんだ。やっとの思いで掴んだ夢をあっさり捨てやがって」
「朋香ちゃん、アイドル辞めちゃうのね。こんなに人気あるのに勿体ないわね」
「朋香の考えていることは昔からよく分からん。これから一体どうするつもりなんだか」
「圭太は朋香ちゃんの連絡先とか知らないのか?」
「知るわけないだろ。あいつがアイドルになって以降はずっと疎遠だよ」
俺、高校一年生の
「じゃあ会うことは難しいのかしらね。でも朋香ちゃんは家を知っているわけだし、そのうち会挨拶に来るんじゃないかしら?」
「あいつがここに来る理由なんかないだろ」
「そうとも限らないだろ?お前達は幼なじみなんだからさ」
そう、大人気高校生アイドルの鳴海朋香と俺は幼稚園からの幼なじみ。
小学生までは同じ学校に通い、親公認で互いの家で遊ぶほどの仲だった。
「昔の話だろ。あいつは俺のことなんかきっと覚えていないよ」
「そんな冷たいこと言うなよ。まだ朋香ちゃんのこと大好きなくせに」
「そうよ。二人ともあんなにラブラブだったんだから」
「だから昔の話だろ!今は好きでも何でもねぇから!」
「あっ!圭太!まだ朋香ちゃんのインタビュー終わってな――」
俺は母さんの話に耳を傾けることなく、立ち上がって二階にある自分の部屋へと逃げる形で向かった。
部屋に着いた俺は電気を付けてベッドに横になる。そして一番最初に目に飛び込んできたのは一枚のポスターだ。
「……どうしてあんなに応援していたのに辞めちまうんだよ……どうしてなんだよ、朋香」
俺の部屋にはCD、ブロマイド、ポスター、缶バッチと朋香のあらゆるグッズがずらりと並んでいる。俺はアイドルとして歌ってる朋香が一番好きで幼なじみとして何よりも誇りだった。
そんな朋香がアイドルを辞めてしまうことは俺にとって一番ショックな出来事だ。今すぐにでも世界が滅んでくれてもいい。巨大な隕石あたりが吹っ飛んで来ないだろうか。
受け止められない現実に俺は目を背けることしか出来なかった。
『朋香さんはどうしてアイドルを辞めることを決めたんですか?』
『そうですね。理由は一つだけなんですけど……』
『その理由とはズバリ?』
『昔の約束を果たす時が来た。ただそれだけです』
『昔の約束?それはなんですか?』
『すみません、これ以上は教えられません』
一方、テレビではまだ朋香の引退インタビューが続いていた。
「昔の約束だってさ~。朋香ちゃん誰とどんな約束したんだろうね~。お父さんはどう思う?」
「さあな~。朋香ちゃん可愛いし、男なんじゃねぇか~?」
「それが圭太だったら凄い話じゃなーい?」
「そんな上手い話があるわけないだろ?でも、あの二人の関係ならあり得るかもな」
母さんと父さんはテレビ見ながらくだらない妄想話をして盛り上がる。
『それでは最後に一言お願いします』
『はい……今そっちに戻るから。待っててね、圭ちゃん』
こうして朋香のインタビューは終了する。
しかし、最後の一言は誰に向けて言ったものなのか明かされることはなかった。
謎に包まれたままの状態で朋香は芸能界から姿を消すこととなった。
* *
翌朝もテレビは朋香の引退のニュースで持ち切りだ。
どのチャンネルにしても朋香ばかり。朋香の人気の高さを改めて思い知った。
「……テレビ消さね?」
「どうして?朋香ちゃんをテレビで見れるのはこれが最後かもしれないのよ?」
「ライブのBlu-rayもあるし、好きな時にいつでも見れるわ」
こんなこと言っている俺はオタクみたいだな。
いや、そもそもグッズ大量に持っている時点でオタクは確定事項か。
「今日は父さんと母さん出掛けるがお前はどうする?」
「俺は家にいるよ」
「そうか。じゃあ留守番頼むよ」
昼過ぎに父さんと母さんが出掛けて、俺はリビングで朋香のライブを見ることにした。
見るのは1stライブ、これはまだ朋香が中学二年の頃で幼さが若干残っている。
「……この歌声をもう生で聴くことは出来ないのか」
ライブのBlu-rayは全部持っているが、ライブ自体も当然のように全通している。
ライブに関しては両親も行きたいということで全国各地を周ることが出来た。
俺が余韻に浸っていると、インターホンが鳴る。モニターには一人の女性が映っていた。
俺は玄関に行き、「どちら様ですか」と言いながらドアを開けた。
「……何年ぶりだろうね、圭ちゃん」
その声は先程まで聴いていた鳴海朋香の声にそっくりだった。
いや、待て。そっくりというか、まさかと思った俺は女性に対して、
「その帽子早く取ってくれないか?」
「外さなくちゃ分からないの?」
「いいから、早く取って顔を見せろって。だいたい予想はついてるよ」
「しょうがないな。相変わらず荒っぽいんだから」
女性はため息をつき、深く被っていたスポーツキャップを取って顔を上げた。
「……お前、昨日引退したばっかりだろ。いきなり何しに来たんだ?なあ、朋香?」
「そんなつれないこと言わないでよ。せっかく会いに来てあげたんだからさ」
「誰も会いに来て欲しいなんて頼んでない」
「うっそだぁ~!本当は会えてうれしいくせに!ツンデレだ!ツンデレ!」
俺の目の前に現れたのは昨日アイドルを引退したばかりの鳴海朋香だった。
あまりにも急な出来事過ぎて正直俺も驚いている。
「うるせぇな!いいから早く要件言えよ!俺だって暇じゃないんだよ!」
「昼間から私のライブ見てる引きこもりにそんなこと言われたくないな~」
「な、なんで知ってんだよ」
「中庭から覗いてた」
「不法侵入じゃねぇか!」
とても今までアイドルをやっていたとは思えないくらいに朋香は昔の朋香に戻っていた。
アイドルをやっていた時は清楚で大人びたイメージが根付いていたが、俺の知る本当の朋香は自由奔放、唯我独尊といった手の付けられない暴君だった。
「まあ~、茶番はこれくらいにしてさ。そろそろ本題に入ろっか」
「ようやく本題かよ」
「私は昔の約束を果たしに来たんだよ、圭ちゃん?」
「約束?一体いつの話だよ」
真剣な眼差しで俺を見つめる朋香に対して俺は呆れた感じで訊ねる。
「忘れたの?私達、結婚しようって約束したじゃん」
「……は?」
俺は朋香の一言に耳を疑う。一体いつそんな約束をしたんだ。俺は知らないぞ。
「幼稚園の時に圭ちゃん言ったよね?私と結婚するって」
「幼稚園!?お前どんだけ昔の話しているんだよ!?」
「んーと、今十五歳だからちょうど十年前?」
「そういうことを聞いているんじゃねぇよ!」
「じゃあ、どういうこと?」
不思議に首を傾げる朋香を見た俺は何から説明すればいいのか頭を抱える。
「……お前さ、今来たってことは暇なの?」
「めちゃくちゃ暇だよ?」
「……じゃあ、とりあえず家入れ。話はそれからだ」
「はーい!お邪魔しまーす!」
聞きたいことは山ほどあるし、いつまでも玄関で話していても状況は変わらないと思った俺は朋香を数年ぶりに家の中に入れることにした。
誰も昨日引退したアイドルが俺の家を訪れているとは考えもしないだろう。
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初めまして、倉之輔です。
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