第37話 十分なんだけど……

 莉子に手を引っ張られながら学校近くのクレープ屋にやって来た。


「莉子は何にするんだ?」


「どれにしようか悩んでる。涼太は決まったの?」


「俺はやっぱチョコバナナかな」


「定番だね。じゃあ私も定番でカスタードプリンにする。本当はいろいろのせたいけど今日は涼太の奢りだからそれで我慢する」


 ありがとよ……まぁ奢ってやるが奢る事になった理由には納得してないからな?


「しかし店の中は空いてる席ないな。外で食べるか?」


「すぐそこに公園あるからそこ行こう?」


 とりあえずクレープを買って公園へとやってきた。ベンチがあるのでそこに座って食べようとなったのだが……莉子は俺の横ではなく俺の膝の上に座ってきた。


「なんでそこに座る?」


「座りやすそうだったから」


 莉子は背も低いので膝に座られても邪魔になるわけではないが、気分は歳の離れた妹をあやしてる兄って感じだ。


 おっと! そんな事を考えてるとまた莉子に心を読まれてしまう。

 まぁ今、莉子はクレープを夢中になって食べいるので大丈夫だろう。俺も食べよう。

 すると莉子が俺のクレープをじーっと見てきた。


「何だ? こっちも食べたいのか?」


 莉子はこくっと頷いた。


「一口だけだぞ?」


 俺は自分のクレープを莉子の口元にやった。莉子はパクッと一口食べた。

 なんか小動物にエサをやってる気分だ。


 莉子はお返しと言って莉子のクレープを一口くれた。そっちも美味い。


「舞が羨ましいよ」


 莉子はクレープを食べながらぼそっと呟いた。


「何でだ?」


「私も涼太みたいな兄が欲しかった」


「莉子も兄妹いないのか?」


「妹がいるけど……やっぱ優しい兄が欲しかった」


「そうか。まぁ俺も一人っ子だったからよく分からんが、普通の兄妹とかだったらケンカばかりして邪魔に思うもんじゃないのか?」


「う〜ん……そうかもしれないけど、甘やかしてくれる兄だったらケンカはしないと思う」


 まぁ確かにそんな兄ならケンカする理由はないだろう。莉子もこう見えて姉らしいから妹に甘えるわけにはいかないのだろう。姉も大変なんだろな。


「だから私は、涼太に甘える事にした。光栄に思うがいい」


 えー? もう甘えん坊の義妹いるし十分なんだけど……


「よし、涼太の許可も出たしよかった」


 何も言ってないけど?

 しかし莉子はなにやら嬉しそうだ。足をパタパタと動かしている。そんな姿みたら断れないだろ……仕方ない、たまには甘やかしてやろう。



「あれ? なんか美佳の気配がする」


 莉子が突然そう言った直後に俺のスマホから着信音が鳴り出した。

 着信の相手は美佳だ。莉子……お前やっぱ超能力かなんか持ってるだろ?


 俺はとりあえず電話に出た。


「あっ! もしもし涼太?」


「美佳どうしたんだ?」


「いや〜今得た情報だと涼太と莉子がデートしてるみたいだから確認してみたんだよ」


「そうか。まぁデートというかクレープを一緒に食べてただけだ」


「それだけなの? 私の情報だと莉子が膝の上に座ってあーんってしてたって聞いたよ?」


 どこ情報だ? ばっちり見られてるじゃないか……なんか恥ずかしくなってきたぞ。


「あっ! やっぱそうなんだ? 流石は私の情報網だな。どうだ? 凄いだろ?」


 まぁ凄いと言えば凄いが……今は莉子の察知能力の方が凄すぎてその程度じゃ驚かないぞ?


「どこ情報か気になるがまぁいい。もう会議は終わったのか?」


「うん、さっき終わったから私は今から部活だよ。舞も終わったから帰ってると思うよ」


「そうか。まぁ部活頑張ってくれ。じゃあな」


「おいおい、冷たいなぁ。そんなんじゃマネージャ……」


 危ない単語が出てきたので俺はさっさと電話を切った。


「美佳なんだって?」


「どうやら俺達は誰かにばっちり見られててその情報が美佳に入ったみたいだ」


「そっか。いつも情報はどこから仕入れてるのか私にも分からないんだよね」


 莉子にも分からないだと? それはやはり美佳の情報網が凄いと言うことか? 

 その一言だけで急に美佳の情報網が侮れないものだと感じた。


「あっ! そうそう、今日また泊まりに行ってもいい?」


「今日? また急だな」


「うん、この前私は涼太と一緒に寝れなかったから今日一緒に寝ようと思って」


 莉子は、さっそく甘えにきた。これは思っていた以上に甘えにくるかもしれない。


「まぁ親に連絡して、良ければ断る理由はないな」


「じゃあ連絡してみて?」


 莉子がそう言うので母親に連絡したら即了承されまたご飯もうちで食べるように言われ莉子に伝えると嬉しそうだった。


 とりあえず莉子はうちに泊まる為の着替えなんかを取りに一回帰るみたいで俺も付いて行く事になった。

 なんて甘えっぷりだ! と思いつつも断りきれない俺であった。

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