第36話 禁じ手としよう

 危うく美佳に体育祭実行委員の手伝いをさせられる所だったが今日は逃げれた。心の中で舞にすまん! と謝っておこう。


「謝るぐらいなら舞と一緒に手伝ってやればよかったのに」


「おわっ!?」


 いつの間にか背後に莉子がいた。しかもまた心を読まれている。


「……何でいつもそんなに俺の考えている事が分かるんだ?」


「ん? 顔にすまん! って書いてるから」


 そんなに顔に出てたのか? ……ってか何で背後にいて分かったんだ? まぁいい。


「ところで莉子は手伝い誘われてないのか?」


「一応、誘われてはいるけど?」


「よく逃げれてるな? 舞は逃げれなかったみたいなのに」


「まぁ私は、その話になったら気配を消して立ち去ってるからね」


 莉子、お前そんなスキル持ってんのか? だから今、背後にいても気づかなかったのか……いや、マジでお前何者だ? 俺もそのスキル欲しいんだが?


「どうやって気配消してるんだ? 修行でもしたのか?」


「まぁ焦るな、涼太よ。 美佳と一緒にいたら自然と身に付いているもんだ」


 ……なるほど! なんだろう? 凄く説得力があるというか納得せざるを得ない。


「しかし涼太が気配を消せるようになったら覗き放題だね」


 いや、勝手に決めつけるな! もし仮に気配を消せてもやらねぇーよ? 見つかったら人生終わりだ。


「逃げる為にしか使わねぇーよ!」


「ふっ、ムキになるところが怪しいぞ?」


 これは完全に莉子に遊ばれてるな。ならお返しだ。


「そんな事言っていいのか? 美佳に『莉子が毎朝ランニングしたいらしいぞ?』と連絡してしまいそうだ」


「いやだぁぁぁ……ごめんなさいぃぃ」


 莉子はすぐさま謝ってきた。効果は抜群だ。


「……でもそれは反則だと思う」


 ……確かに。これは悪魔に魂を売るようなもんだ。そんな事をしたら本当に美佳は毎日朝早くにランニングする為に家まで迎えに来るだろう。莉子は今にも泣き出してしまいそうだ。


「悪かった……これはお互い禁じ手としよう」


「うん、じゃあお詫びに甘い物、奢って」


 えっ? 先に揶揄われてたのは俺の方なのだが? なんかズルくないか?


「ほらっ! 早く行こう」


 莉子の小さな手に俺の手を掴まれそのまま引っ張られている。他の人から見たら仲良く手を繋いでいるかのように見えるだろう。

 実際は嫌がる俺を莉子が無理矢理に引っ張っているだけだ。まぁ莉子は身体も小さいし力もあるわけではないので本気で嫌がれば引っ張られる事はないのだが……もしかしたら莉子なりのデートのお誘いなのでは? と心の何処かで少し期待している。莉子の顔が少し赤い気もするし。


 しかし最近は舞や沙耶香とデート(おそらく)をしてみたが友達と遊びに行くのと何が違うのだろうか? ここは女子高だから友達はみんな女の子になる。男女で出掛けるだけでデートになるのか? 手を繋いだらデートなのか?


 う〜ん、まぁ考えたところで前に住んでた所では女の子と遊ぶ事すら出来てなかったから違い等分かるはずがない。まぁデートって事でいいだろ。

 俺がいろいろ考えている間、莉子は黙って俺の手を引っ張っている。


「それでデートは何処に行くんだ?」


 莉子はビクッとして驚いた。


「デッ、デートじゃないし、ただ甘い物奢ってもらうだけだし……」


 莉子は強がってはいるが顔が真っ赤になり下を向いている。しかし俺の手は離さない。いざデートってなると恥ずかしくなったんだな。莉子はこの感情に無縁だと思ってたわ。すまない。


「じゃあその甘い物は何が食べたい? あまり高いのは勘弁してくれよ?」


「さっ、最近この辺りに出来たクレープ屋さんがいい。舞や美佳は今忙しそうだから暇そうな涼太に奢って貰うように誘っただけ」


 とは言うが身体は緊張からか少し震えている。まぁこれ以上揶揄うとトッピングが増えそうだから何も言わない事にして莉子に引っ張られてクレープ屋のもとへ向かっている。

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