第35話 恐ろしい奴

 次の日の金曜日の朝、学校に行くと約束通りに沙耶香がカレーパンを持って来てくれた。まだ出来たてなのだろう。カレーパンは温かい。折角なので今、1つ食べてみよう。舞達も1つ食べるみたいだ。


「こっ、これは!?」


「どうだろうか?」


 沙耶香は少し不安そうに聞いてきた。勧めた側だからだろう。


「めっちゃ美味いな。 人気なわけだ」


 舞達も満足そうにカレーパンを食べている。

 中のカレーを丁寧に作っているのだろう。それがまたパンによく合う。


「そうか。口に合ってよかったよ」


「もう1つは昼にでもいただくよ。またカレーパン食べたい時は頼んでもいいか?」


「あぁ、その時はいつでも言ってくれ。親も喜ぶよ」


「それは助かる。あぁ、それとうちの親も沙耶香んちのパンを気に入ってな。今日、早速買いに行くって言ってたぞ」


「おぉ、そうか。なら親に割引してもらえるよう連絡しとくよ」


「いや、割引は俺達だけでいいよ。沙耶香んとこも商売なんだし、俺達はただファンになっただけだ」


「そうか。ありがとう! そう言ってもらえるとうちがパン屋でよかったと思えてくるよ」


「今まで思わなかったのか?」


「まぁ……な。いつも忙しそうだったから家族で出掛ける事もほとんどなかったから……まぁ子供のわがままみたいなもんだ。今なら凄いと尊敬できるよ」


「それ、親に言ったら喜ぶと思うぞ?」


「恥ずかしいから言わないよ」


 沙耶香は少しテレながら言った。今度買いに行った時こっそり教えてやろうかな? 



「おや? いい匂いがすると思ったらそれはカレーパンかな?」


 カレーパンの匂いに釣られて校長が現れた。

 あんたは犬か? どこから匂いを辿ってきたんだ? ってかいつ戻ってきた?

 この校長はいつもツッコミどころが多すぎる。


「そうです。こちらの先輩の家のパン屋で作られてるやつです。というか校長先生あのイベントどうなったんです?」


「はっはっは、昨日ようやくクリア出来てね。やっと学校に来れたわけだよ」


 ……いや、さっさと諦めて学校に来いよ。


「それでお店の方はどちらにあるんだい? 私も食べたくなってきた」


 沙耶香が校長に丁寧に実家の店の場所を教えた。


「ありがとう。早速今から行ってみるとしよう」


 校長はそう言うと廊下を走って行ってしまった。


 校長が廊下を走るんじゃない……しかし、マジで自由だよな。よく校長が務まるもんだ。


 走って行った校長を見て、沙耶香は教えなかった方がよかったのか? と心配したのだが、好きにさせとけばいいんじゃないか? と答えてあげると安心して自分の教室へと戻っていった。



「いや〜ほんと、沙耶香さんとこのカレーパン美味しかったな。だから涼太、マネージャーやらないか?」


 美佳がまた俺にバスケ部のマネージャーの勧誘をして来た。しかも全く意味が分からない。何故、パンが美味いからと関係ないマネージャーに勧誘出来る? なんて恐ろしい奴だ。

 俺は丁重にお断りをした。だがおそらく勧誘はまだ続くだろう……



 そして放課後になった。今日は金曜日だ。これでまた土日休みがやって来た。今週こそはのんびりしたいもんだ。


「舞、帰ろうぜ?」


「あっ! お兄ちゃん先に帰ってていいよ。私、体育祭の実行委員の手伝いする事になって今から会議するって……」


「そうなのか? 終わるまで待っててやろうか?」


「最初は断ってたんだけど、どうしても人が足りないって言われて結局断れなかったんだよ〜。どれだけ時間かかるか分からないから先に帰ってて大丈夫だよ」


「そうか、まぁ大変だろうが頑張ってくれ」


 舞は手伝いにあまり乗り気ではないようだ。


「おや? 涼太君、暇そうだね? 可愛い妹と一緒に手伝いどうだい?」


 なるほど、美佳の仕業だったのか。舞が逃げきれなかったわけだ。


「俺はお断りさせてもらうよ」


「なんだよ〜! じゃあバスケ部のマネージャーやってくれよ」


 どっちもやりたくねぇーよ。流石は美佳だ。遠慮という言葉は美佳の辞書には載ってないのだろう。


「そっちもお断りだ」


「ちぇ〜! 全く頭が固い奴だな。カタイのは息子だけで十分だろ?」


 おい、オッサンみたいな事言うな。全然意味が変わってくるぞ? しかし、これは長居するとヤバイな。


「じゃあ先に帰るからな」


 俺はさっと教室を出て逃げた。



「あっ、ちくしょー逃げられた」


「美佳から逃げれるなんてお兄ちゃん凄いよ」


 そうして美佳から逃げれなかった舞は会議へと向かったみたいだ。

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