第33話 お揃いにするか?

「沙耶香、本当に大丈夫か?」


 沙耶香の方からまた手を繋いでほしいと言われ、俺はまた沙耶香と手を繋いでいるわけだがその手から緊張しているのが凄く伝わってくる。


「だっ、だだだ……大丈夫だ」


 まぁ大丈夫ではないみたいだがもう少し様子をみるとしよう。

 そして次の水槽の展示へと着いた。どうやらクラゲの展示みたいだ。


「おー、クラゲか。こうして見ると可愛いもんだが海とかにいると邪魔で嫌だよな」


「そっ、そうだな。こっちの小さいのなんか特に可愛いぞ」


 沙耶香は少し慣れてきたのかクラゲの可愛いさに目を奪われているのか、どうやら少し落ちついてきたみたいだ。ちゃんと楽しめてるみたいでよかった。


 次々と水槽を見て回り、半分くらいまで回った頃にはいつもの沙耶香に戻っていた。タコやカニなんか見た時は『美味しそうだな』と言っていた。

 水族館でその感想はどうかと思うのだが、まぁ沙耶香らしくていい。おそらく舞達もその感想は出てくるだろう。なんか俺も大分こいつ等に慣れてきてしまったな。


 もうそろそろ終わりかな? と思いながら進んで行くと急に明るい場所へと出た。

 急に現れた空間に俺は完全に目を奪われた。それは大型のトンネル水槽だった。テレビやSNSでは見た事があったが実際に生で見ると迫力が全然違う。本当に海の中にいるみたいだ。


「涼太はトンネル水槽を見るの初めてなのか?」


 あまりの感動に動けないでいると沙耶香が聞いてきた。


「あぁ、実際に見たのは初めてだ。しかしこれは凄いな。ずっと見てられそうだ」


「そうか。気に入ったみたいでよかったよ」


「もう少しだけ見ててもいいか?」


「あぁ、好きに見てていいぞ」


 沙耶香もそう言ってくれたので暫くの間この空間を楽しんでから先に進んだ。すると丁度今からイルカショーがあるみたいなので折角だし見ていく事にした。


「あっ! 涼太、あんまり前にいくとイルカに水飛ばされるぞ?」


 おっと! 危ない。

 俺は少しでも近くにと思い、前の方に行こうとしたのだが沙耶香が止めてくれた。他の人を見てみると確かに前の方に行ってる人達はいなかった。


 イルカショーも終わり水族館の中を見て回れる所は終わってしまった。

 最後にお土産コーナーを見てみる事にした。いろいろと見ていると沙耶香が立ち止まり何かをじっと見つめている。

 何だろう? と思い、俺は沙耶香の視線の先を見てみた。可愛らしいタコのキーホルダーがあった。


「これが欲しいのか? なんなら買ってやろうか?」


「えっ? いやっ、可愛いなと思ってな。というか涼太に買ってもらったらお礼の意味がなくなるだろう」


「そうか? じゃあお互いに買ってお揃いにするか?」


「おっ、お揃い……」


 沙耶香はまた顔が真っ赤になっていく。やはり沙耶香はこの方がいい。

 結局、沙耶香は自分でタコのキーホルダーを買ってしまった。お揃いは恥ずかしいからダメみたいだ。


 そして水族館を出て帰る為にまた駅へと向かって歩いていく。流石に外では手を繋いでいない。水族館の中なら薄暗いし周りもみんな手を繋いでいたのでセーフだったのだが外だとまた固まってしまったので手を離した。まぁ十分デートを堪能できたし良しとしよう。


「しかしこの水族館は凄かったな。久々だったし楽しめたよ。ありがとうな」


「楽しめたみたいでなによりだ。その……また来たい時は付き合ってやるぞ?」


 どうやら俺はまた沙耶香をデートに誘っていいみたいだ。


「あぁ、その時はまた来ような」


「しかしこんな事ぐらいでお礼になったのだろうか?」


「十分だろ? そもそもお礼なんてされるぐらい力になれたか分かんないし」


「いや、私は涼太には本当に感謝しているんだ。勿論、舞達にもだが。今までずっと友達も出来ず学校なんてつまらない所だった。あの時、涼太に出会ってなかったら今も私は1人でいただろう」


「それは分からないだろう?」


「いや、前の私はもう1人でいる事に慣れていて諦めてしまっていたんだ。それが涼太や舞達が友達だと言ってくれて私を変えてくれた。だから感謝してもしきれないぐらいなんだ」


「そうか。でもまぁそれが『友達』ってもんだろ? だからあまり気にせずこれからも遊びに行こうぜ?」


「そう……だな! やはり友達とはいいもんだな」


 沙耶香はとびきり良い笑顔をした。夕焼けをバックに見た沙耶香の笑顔は絵になるような美しいものだった。

 その笑顔を見て少し照れながら駅へと向かった。

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