第32話 気にするな

 水族館へ行く事になったのだが近くにあるとはいえ電車に乗らなきゃならないみたいだ。


 まぁそれでも学校帰りに行けるだけマシだ。俺が前に住んでいた所は近くに水族館はなかったので電車を使っても1時間以上はかかっていた。なのでとても学校帰りに行こうとは思えなかった。


 とりあえず今は学校から最寄り駅に向かっている。その間に沙耶香に今日の出来事を聞いてみた。


「それで、クラスの人達とはうまくやっていけそうなのか?」


「あぁ、今日は休み時間になる度にみんな話しかけに来てくれてな。それに今まで誤解しててごめんねと謝られたりもしたな。私が怖がられる雰囲気出してるのが悪いから謝る必要ないのにな。しかし、なんか急に世界が変わったみたいだったよ」


 おぉ! 話が止まらねぇ。それだけ嬉しかったんだろうな。


「そうか、でもよかったな。これでもう臨時の男子更衣室にサボりに行かなくて良さそうだな」


「ははっ、そうだな。もうサボる理由もなくなったからな。しかしあの時は不審者だと思ったから本当にビックリしたんだぞ?」


「驚いたのはこっちだけどな。それにあの時の沙耶香はクールだったぞ? まぁ騒がれなくてよかったよ」


 そして最寄り駅へと到着した。

 会話も盛り上がっていた為か着くのが早く感じた。ここから電車に乗って3駅らしい。この前の商業施設より近いみたいだな。水族館なんて小学生の頃以来なのでかなり楽しみだ。


 目的の駅で電車を降りて駅から歩くこと10分ぐらいで水族館へと着いた。

 沙耶香は今日はお礼の為に来たからここは私が払うと言ってくれて折角なので甘える事にした。


 入場チケット売り場に行くとやはりというか学生が多い。その中の半分以上は多分恋人同士だろう。流石はデートの定番の場所だ。


 沙耶香は恋人同士達を見て急にデートと意識してしまったのか顔が真っ赤になっていった。


 ふむ、沙耶香のこういう所は素直に可愛いと思う。舞達3人には沙耶香のこの感情には無縁だろうな。


 俺達はチケットを購入し水族館の中に入っていった。

 中に入るといきなり大水槽が現れた。


「おぉ、すげぇ! 沙耶香もっと近くに行こうぜ?」


 俺は小学生に戻ったみたいに無邪気にはしゃいでしまった。沙耶香はそんな俺を見て少し冷静さを取り戻したみたいだ。


「ふふっ、涼太はそんなに水族館が好きだったのか?」


 俺は無邪気にはしゃいでしまった事を恥ずかしくなってきた。


「いや、忘れてくれ。水族館とか久々だったしこんなでかい水槽見たらつい……な」


「どうしてだ? 可愛くていいと思うぞ?」


「恥ずかしいからだ。舞達には言わないでくれよ?」


「ふふっ、どうしようかな?」


 沙耶香はここぞとばかりに揶揄ってきた。それならばこちらもお返しだ。

 俺は沙耶香の手を取りそのまま恋人繋ぎをした。


「まぁ、折角のデートだ。このまま見て回ろうか?」


「ふぇ!?」


 沙耶香はいきなりでビックリしたのだろう。言葉も出なかった。館内は薄暗いので分からないがおそらく顔も真っ赤になっているだろう。


「よし、じゃあ行こうか?」


「いや……その……恥ずかしくて死にそうだ」


「気にするな。周りもみんなやってるぞ?」


 俺が手を離す気がないのがわかり沙耶香も観念したようでそのまま大水槽の近くまで行った。


「おぉ、サメが近づいてくるぞ?」


「……えっ? あぁ、本当だな」


 俺達の前に大きなサメがやって来たのだが沙耶香はどうやらそれどころじゃないみたいだ。

 やはりやり過ぎただろうか? 折角来たんだし沙耶香も楽しんでもらわないと意味がない。

 俺は繋いだ手を離す事にした。


「あっ……」


 俺が手を離すと沙耶香は残念そうな声を出した。


「いや、ちょっと揶揄いすぎたかな? って思ってな。このままじゃ沙耶香は楽しめそうにないし」


「そっ、そんな事はないぞ? ただ恥ずかしかっただけで嫌ってわけではなかったし……って私は何を言っているんだ」


 沙耶香は恥ずかしさのあまり両手で顔を隠してしまった。


「というかこの前泊まりに来た時に隣で寝る時恥ずかしがってなかっただろ?」


「あれは、みんな居たし。今は……2人きりだし他の人に見られるから違うもんなんだよ」


 ふむ、そういうものなのか? 違いは分からんが、俺としてはあれでもう耐性付いてしまったからな。まぁ昔の俺なら今の沙耶香みたいになってるだろうな。


「まぁ折角来たんだし楽しめるようにしないとな」


「そう……だな。……でも、デートだと手を繋ぐのも当然だよな。なら、涼太が嫌じゃなければまた私と手を繋いでもらってもいいだろうか?」


 俺は驚いた。あの沙耶香がデートと認めて沙耶香の方から手を繋いでほしいと言ってきたのだ。もしかして俺、今モテ期? ……いやいや、それは考えすぎだろう。調子に乗るな、俺!


「俺は構わないが、沙耶香が楽しめてないと思ったら離すからな?」


「あぁ、それで大丈夫だ」


 そうして俺と沙耶香はまた恋人繋ぎをして水族館の次の水槽へと向かった。

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