第26話 なかなかやるな

「おーい、みんな朝だぞー」


 俺は美佳の声で目を覚ました。だがまだ眠い。


「おっ? 涼太起きたか?」


「……あぁ、美佳おはよ。しかし朝から元気だな?」


「身体、鍛えてるからな」


 ……関係なくない?

 そして、俺の両隣りで舞と沙耶香が俺の両腕にしがみついてまだ寝てる。起きる気配がない為俺はまだ動けない。


「早くチューして起こしてあげなよ」


「あ〜、そうか……じゃねぇーよ。出来るか!」


 俺は起きたてでまだ少し寝ぼけていたのか危うく騙される所だった。


「ちっ! おしい」


 おしいじゃねーよ。完全に寝ぼけてて本当にやってしまってたらどうする気だったんだ?


「んー……」×2


 今の俺と美佳のやりとりで舞と沙耶香が目を覚ました。


「2人共おはよ。」


「お兄ちゃんおはよ……もう少しだけ……」


「ん? 涼……太?」


 2人はまだ寝ぼけていてまた眠りそうだ。だが、まぁいいだろう。というかその方が助かる。なぜなら動けない理由がもう一つある。それは朝、男が健康である証拠の生理現象だ。早く心を落ち着かせよう。


「ところで莉子は?」


 俺は起き上がれないので起きている美佳に聞いてみた。


「あー、まだ寝てる。起こしていいのか分からなくてな」


「どういう事だ?」


「いつのまにか莉子、アイマスクと耳栓して寝てるんだよ」


 ……完全防備じゃねーか。それは確かに起こしていいか悩むな。


「それは起こしにくいな。しかし美佳は部活何時からなんだ? というか今何時だ?」


「あぁ、大丈夫。今日は午後練だけだから。だから泊まりにきたんだけどな。それに今は7時15分だ」


「なるほど。しかしそれならもう少し寝ててもよかったんじゃ?」


「いや〜目が覚めちゃってよ。涼太、これからランニングでもどうだ?」


「……ヤダよ」


「まぁその状態じゃ起き上がる事も出来ないし仕方ないか」


 よかった。幸いにも舞と沙耶香が両腕にしがみついて寝てる為動けないというのが役に立ち、美佳は簡単に諦めてくれた。


「じゃあみんな起きるまで筋トレでもしてるよ。起きたらランニング行こうぜ?」


 ……諦めてなかった。みんな頼むからランニングに行けなくなるギリギリまで起きないでくれ。……いや、もう1つ逃れる方法はある。


「今から1人で行ってきてもいいんだぞ?」


「みんなで走った方が楽しいだろ?」


 俺は楽しくないぞ? それに少なくとも莉子は嫌がると思うが? ……まさか莉子のやつ、こうなる事が分かってたから完全防備してるのか? なかなかやるな。



 そして3人は昼前まで起きなくてランニングは行かないで済んだ。その間俺は動けなかったが、まぁいいだろう。


 美佳はずっと筋トレしてた。午後からも部活なのによくそんなに動けるもんだ。


 とりあえず朝ご飯を食べてないしお昼ということもあり、お腹が空いたのでみんなでご飯を食べる事になった。美佳は食べてからそのまま部活に行くみたいだ。


 リビングに向かうと母親が、もうご飯を用意してくれていた。いつ起きてきてもいいようにおにぎりや卵焼きだった。ありがたい。……と思ったのだが


「このおにぎりには2つハズレがありま〜す」


「えっ? 何で?」


「何でって、ロシアンおにぎりよ?」


 母親よ、なんて事をしてくれる。しかし4人は大喜びしている。楽しそうなら何でもアリなんだな。


「ハズレって、ちゃんと食べれるやつなんだろうな?」


「勿論よ。あっ! お母さんも参加するからね」


 それで……か。おにぎりが6個置いてある皿が2つある。計12個だ。つまり2回戦やるつもりなんだろう。


 ちなみにお義父さんはロシアンおにぎりに参加したそうだったみたいなのだが用事があるみたいで出掛けたみたいだ。


 まぁ、しかしヘタをすると2回ともハズレを引く可能性もある。食べ物で遊ぶなと言いたいが、もうそんな空気ではない。みんなどれにしようか悩んでる。


 俺はとりあえず最後に残った1つを取った。そしてみんな同時におにぎりを食べた。

 俺のは鮭だ。よかった、セーフだ。

 誰がハズレなんだろ? と思って他のみんなを見てみたが誰もハズレを引いた感じはない。


「ハズレなんてなかったのか?」


「あら? おかしいわね?」


 母親に聞いてみたが母親も首を傾げている。その様子だとハズレはある。そして母親はハズレではないという事だ。だとしたら4人の誰かだ。自分がハズレだと気づいてないみたいなので聞いてみた。まずは沙耶香だ。


「私はツナマヨだな」


 違うようだ。次は美佳だ。


「私は明太子だ」


 これも違うだろう。次は莉子だ。


「私はおかか」


 これも違う。という事はハズレは舞か。


「あれ? 私は豚肉で美味しいけど?」


「ん? どういう事だ? ハズレは母さんだったのか?」


「あら、その豚肉を超激辛にしてみたんだけど舞ちゃんには当たりだったみたいね。ちなみに私は梅よ」


 ……なるほど。激辛好きにはハズレにはならないという事か。


「じゃあ次のもハズレはそれなのか?」


「安心して。ハズレだけ違う具材よ」


 安心できねぇーよ! だが4人は『やったー』と喜んでいる。俺も喜ぶべきだったのか?


 そしてみんな1つ目のおにぎりを食べ終わり2回戦が始まった。

 次は1番に選んで取ってみた。

 みんな取り終わると同時におにぎりを食べた。


「ぐっ! 甘っ」


 中を確認すると卵焼きだった。しかしかなり甘くされていた。これがハズレだ。まぁ他の変な物よりかはマシかもな。


 5人は笑っている。……なんか悔しい。


「しかし美佳、これで足りるのか? 昼から部活なんだろ?」


「あら? 足りなかったら、まだご飯あるからおにぎり作るわよ?」


 俺と母親がそう言うと美佳は母親にもう1個とお願いした。ついでだから俺も! ともう1個お願いした。3人はもう十分みたいだ。


 ご飯を食べ終わると美佳はもう部活の時間が近い為、先にうちを出て部活へと向かった。


「じゃあ俺達はどうする? このまま解散か?」


「せっかくだし、莉子と沙耶香さんに用事がなかったら遊ぼうよ」


 俺と舞が2人に聞くと2人共用事はないみたいなのでこれから4人で遊ぶ事になった。

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