第11話「LIVE, ALIVE」
ライブ当日、あたしたちはホームグラウンドであるライブハウス「
普通なら演奏を始める前にMCの一つでも入れるのだろうが、
いきなり一発目の曲をぶちかますのがALTAIR流だ。
それでも盛り上がるのがこのバンドのすごいところで、お客さんだって絶対100人は超えている。
あたしの路上ライブと比べたら雲泥の差だ。
羨ましいな、なんて思いながらあたしはギターを奏でていく。
観客席の後ろの方で、咲良ちゃんがあたしに手を振っているのが見えた。
あたしのファンを公言するだけあって、ALTAIRのライブにもちょくちょく顔を出してくれる。
それほど、あたしに期待しているんだろうな。
1曲目が終わり、理恵がMCを務める。
「どうもありがとう。みんなの熱に負けないくらい、最高の音楽を届けるから、ちゃんとついて来て! アタシたちがALTAIRです。さあ行こう!」
理恵のMCは、どこか控えめだけど熱が伝わってくる。
なんでも彼女自身が目標にしているバンドのMCに寄せているらしく、実際理恵に勧められてそのライブのDVDを見たけれど、本当にそっくりだった。
MCの後、2曲目を披露する。
ライブでは毎回定番となっているナンバーで、客席の様子も今日一番の盛り上がりを見せていた。
その後、カバー曲や新曲などを交え、つつがなくライブは終わった。
大盛況だ。
「お疲れ様」
楽屋に戻ると、理恵があたしの背中を叩く。
それは杏奈さんや真由美さんに対しても同じだった。
ライブ後の理恵は、少し面倒臭い。
「この後の打ち上げどうする?」
「もちろん行きたいです!」
杏奈さんが嬉々として目を輝かせ、真由美さんも無言でコクリと小さく頷く。
「佳音さんももちろん行きますよねー?」
ガバッと杏奈さんがあたしの腕を掴む。
助けてくれ、と真由美さんにアイコンタクトを送ったが、通じていないのか、ただじっと無言の圧力を加え続けられた。
この人たちはお酒のことになると途端に面倒臭くなる。
それは理恵だって例外ではない。
「どうする?」
「あー……どうしよっかな」
明日香へのお見舞いは午前中に済ませてある。
だから彼女たちの誘いを断る道理なんて何一つとしてない。
しかし、あたしとALTAIRのメンバーには確実な壁が構築されている。
それはあたしが勝手に築き上げたものなのだけれど、まだまだ壊れそうな気配もない。
「……行く」
とはいえ飲み会の雰囲気は嫌いではない。
杏奈さんみたいにダル絡みされるのが苦手なだけだ。
それに、ここ最近の溜まりに溜まったストレスをアルコールで分解してしまいたかった。
各々楽器を手に楽屋を後にする。
エントランスまで戻ると、咲良ちゃんがアタシたちを出迎えてくれた。
「佳音さん! お疲れ様です!」
まるで柴犬のようにこちらに駆け寄ってくる。
杏奈さんといいワンコ勝負ができるかもしれない。
彼女の出待ち行為は今に始まったことではなく、最初は戸惑ったけれど次第に名物のようなものとなっていった。
もちろんこれは咲良ちゃんがあたしのバイト先の知り合いということもあって優遇されているところもあるだろうけれど。
それに、この出待ちが名物になったもう一つの理由がある。
「ああ……ごめん、咲良ちゃん送ってくよ」
「しゃーないね。ちゃんと送り届けてやれよ」
「わかってる」
こうしてあたしは3人と別れた。
おそらく近くの焼鳥屋に向かっただろう。
あたしはと言うと、咲良ちゃんをちゃんと自宅まで送り届けなければならないという仕事が課されている。
ライブハウスというのはそこそこ治安が悪い。
良くない輩の巣窟になっていることもしばしばある。
ATOMICで何か事件があったかと言われればそうではないけれど、こんな場所に高校生一人で乗り込むのは少々リスクが高い。
この場所で何もなくても、ここを出てから襲われる可能性だって十分にある。
だからあたした責任もって彼女を家まで送り届けなければならないのだ。
「大丈夫だったんですか? 打ち上げ、参加しなくて」
「ああ、あたしは正規メンバーじゃないから」
夜の街を歩く。
人通りはそれなりにあるし、街灯だってちゃんとあるけれど、それでも危険な環境であることに変わりはない。
まあ、あたしも女ではあるからWで襲われてしまったら大変だけれど。
「咲良ちゃんはさ、あたし、ALTAIRのメンバーになってほしいって思う?」
「そりゃもちろん。ソロでもバンドでも、私はどんな佳音さんでも応援しますよ」
「ははは、そりゃありがたい」
だけど正直ソロで売れたい、という欲が強い。
そのための路上ライブなのだけれど……結果は言いたくもない。
その後も他愛もない話をしながら、咲良ちゃんの住むマンションの近くまでやってきた。
明日香のところほどではないけれど、それなりにしっかりしている建物だ。
少なくともあたしのボロアパートよりは遥かにいい物件である。
「じゃあ、またね。今度の路上ライブ、見に来てね」
「もちろんです! おやすみなさい」
そう言って彼女は別れていった。
「若いっていいなあ」
ポツリと呟いて、咲良ちゃんのマンションを背にした。
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