第四十話:差異
「天狗って知ってる?」
「なにが?」
「言葉の意味だよ。古代の伝承に出てくる山に出没するモンスターらしいよ? 木々をこう……ぴょんぴょんって飛び移るらしい」
「なるほど、だから≪毒天狗≫か。天狗ってなんだと思っていたんだけど」
「たぶん、ああやって自在に木々を飛び移る動きからその異名になったんだろうけど天狗の異名に関しては君に渡した方が良さそうだね。なんだい、アレ」
夜の闇に染まっていた空が白み始めている――そんな頃合い。
≪ゼノベロス≫と≪ボボン・ロゴ≫を倒し終えた後、俺たちは他の隊の狩人と合流することに成功した。
「おい、ここ切ってくれ。どうにも毛皮も部位によって違いがあるようでな。確保しておきたい」
「この尻尾は絶対に持ち帰ろう。これはすごいぞ」
「牙と爪は基本だな……。やれやれ、もうちょっと浅いところならよかったんだが」
「丸ごと運ぶにはちょっとな。運搬用の荷車をここまで持ってこれるか?」
「わからん。だから、こうして希少そうな部分は先に解体して持って帰るんだろうが」
「あとで回収しにきたときにも残っているかはわからないからな……。そっちはどうだ?」
「おう、こっちも毛皮と爪、牙に尾、あとは内臓も確保したぞ。毒のブレスを使うという話だからな」
「おい、臭いぞ」
「しょうがないだろ、内臓を処理したんだから……。というかこっち酷いんだって、潰れててさ」
「文句ならアルマン様にいうことだな」
「言えるか」
今は一夜を明かしは二体の大型モンスターを皆で解体しつつ、拠点へと帰ろうと準備を進めているところ。
暇になったフィオと解体現場から少し離れたところで会話をしていた。
「言われているよ? まあ、あの殺し方はどうかと思うけどね」
「うまくいったと思ったんだけどなぁ」
「まあ、殺せてはいたよ。殺せてはね。それにしても無茶苦茶な戦い方だったようで」
「樹上で戦うことか? さすがに身一つでやるのは難しいけど、ドラゴの協力があればわりと……」
「いや、できないって。たしかに≪ノルド≫には木を登って、それから飛び移る力はある。フィールドをくまなく移動できるように。でも、これはあくまで移動用で木の上で戦おうなんて」
「できないのか?」
「……ゲームシステム上はできる。けど、普通にやらないよ足場も悪いところで大型モンスター相手になんて。普通に地上に引きずり下ろして戦った方がやりやすい」
「それはそうだ」
「それになによりも木々を飛び移る必要があるってこと。どうしたって空中って身動きができない状態になる必要がでてくるのが……まあ、一般的なプレイヤーでいない理由だね」
「一般的なプレイヤー以外でやってたやつはいるのか?」
「そういうスタイルを検証して動画を配信していたり、変なクランがあったことなら……まっ、廃人とか呼ばれる連中だよ」
「えっ、俺って廃人の仲間の一種なのか」
「記憶のキミについては知らないけど、今のキミは十分廃人という名の変態の一種でいいと思うよ。なんで最後わざわざ空中戦した?」
「いや、まあ、できるかなって。そしたら、思いのほかできたというか。案外、空中戦って難しくないなと」
「どう考えてもその経験のせいだと思うよ、≪龍狩り≫」
やれやれといわんばかりに首を振るフィオに対し、どこか納得できない気持ちになりながら俺は話を変えた。
「今回はうまくいった。なんとか被害を最小限にして……脱落者も防げた」
結果として第二班は全員を助けることに成功した。
つまり、被害はでなかったということだ。
それ自体は素晴らしいことだが、それだけで今回の一件は終わらせられる問題ではなかった。
「≪ゼノベロス≫――≪惨刃獣≫は本来はこのあたりに出没するようなモンスターではなかった」
「ああ」
「≪ボボン・ロゴ≫――≪毒天狗≫に関してはそもそも≪ニライ・カナイ≫に存在しなかったモンスターだ。しかも、ご丁寧に毒のブレスを使うために必要な毒の果実も実っていた」
「……こうなってくるとやはり」
「「ノア」がいろいろと弄っていると考えるのが自然だろうな」
想定自体はしていた。
だが、いざそんな事実が確定するとなるとやはりなんともいえない気分になる。
これまで俺たちはフィオやスピネルたちの持つ情報を頼りに進めていた。
無論、なにからなにまで全てを信じ切っていたわけではないが、頼りにしていたのは確かな事実だ。
だというのに今回の一件。
「今後はもっと慎重に進めるしかないな」
「私の記憶の知識もあまりあてにしないほうがいいのかな?」
「まあ、完全にそれ頼りになるのはまずいだろうな。それでもベースとしては≪ニライ・カナイ≫であることは間違いない。それにそういった差異を見つけられるのはありがたいことだからな」
「そう言ってくれると助かるよ。無理を言ってこっちに来たというのに役に立たない扱いをされるのはね。……それにしても、どうするか」
「「ノア」の動向次第だろうな。≪
「問題が先の見通しが立たないことだね。≪ゼノベロス≫だけならまだわかるんだけどね」
「ゲームでは≪ニライ・カナイ≫にはいなかったモンスターが存在している……となるとな。……はあ、いろいろと拠点に戻ったらルキのやつと話し合わないと」
「彼女はとても喜びそうだけどね」
「たしかに」
フィオの言ったとおり、諸手を挙げて喜ぶルキの姿を俺はありありと思い浮かべることができた。
「まあ、ともかくだ。≪ロッソ・グラン≫周辺は下位モンスターしかでないと思い込んで油断しすぎたな、ひとまずこれまでよりも警戒度をあけて調査を進めていくしかないだろう」
「そうだね」
「次の地上からの便が来れば人員も物資も一気に増す。本格的に足を伸ばしての調査はそれからでもいいかもしれない」
「順調に進んで気が緩んでいたかもしれないね、私たち」
「ああ、そうだな。一つの判断ミスが生死を分けることになる……死人が出ることがなくて本当によかった」
「そうだね、それはキミもだ。帰って安心させてあげないとね」
「うん?」
「レティシアのことだよ。険しい顔をして出て行ったから気にしているんじゃないか」
「そうか? ……そうだな」
拠点に帰ってからどうするべきか。
どんな指示を出すべきかと悩んでいたところ、フィオの言葉に虚を突かれて俺は目を丸くした。
――心配……させてしまったかもしれない。いや、案外……武勇伝を強請るかもしれないな。
どっちだろうと思い、まあどっちでもいいかと思い直した。
昨日は夜まで一緒という約束だったのだから、一番に謝りに行くべきかと心に決めて笑みを浮かべたのだった。
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