第三十七話:惨刃獣
「フィオ! ≪ゼノベロス≫はおまえに任せた!」
「わかっている!」
俺の言葉にフィオはそう答えた。
彼女も同じ結論に達していたのだろう、≪帝国剣ガランティーン≫を構え≪ゼノベロス≫へと突撃した。
――≪ゼノベロス≫の攻略法はやはり近距離で張り付いて倒すことだ。距離をとられて中距離戦に持ち込まれるのが最悪だ。
≪ゼノベロス≫の特徴はなんといっても厄介な尾剣と闇夜に紛れる特性だ。
中距離になると主攻撃として襲いかかってくる強力な尾剣の攻撃、それをかいくぎり闇に紛れて見逃しやすい本体を捉えて攻撃を加えないといけないなんてはっきりいって面倒なんてものじゃない。
その一方で近距離で張り付いて攻撃する分には尾剣の攻撃も飛んでこないし、闇夜に紛れる特性も別に実際に消えるわけではないのなら張り付いている分には問題ない。
距離をとらずに接近した状態で攻撃をし続けるということは相手からの反撃も行われやすいということだが、尾剣の攻撃をのぞくと≪ゼノベロス≫はオーソドックスな爪や牙による攻撃しかしてこないため比較的に対処はしやすい。
あくまで経験豊富なプレイヤーなら、という話だが。
「左、右、振り下ろしの次は……下がるっ!」
小回りのきく≪片手剣≫をいかし、≪ゼノベロス≫の攻撃をかわしながら攻めたてるフィオ。
彼女のいったとおり、慣れた相手だというのは事実らしく≪ゼノベロス≫が後ろに飛んで距離をとろうとするもそれに合わせて距離をつめて斬撃を放った。
鋭い剣閃が≪ゼノベロス≫の肉体に傷を刻み込んでいく。
煩わしそうに唸り声を上げ、≪ゼノベロス≫は無理矢理に尾剣をフィオにめがけて振るおうとするも――
「それはさせない」
そのタイミングを狙っていた俺はすぐさまに槍で盾を叩いた。
甲高い金属音が響き渡り、≪ゼノベロス≫の視線がこちらに向いた。
ギロリっとこちらに意識を向けた≪ゼノベロス≫は、フィオにめがけて放とうとしていた尾剣を俺の方にめがけてきて飛ばしてきた。
≪デコイ≫による誘導のせいだ。
攻撃対象が俺に移ったのだ。
「っ!? 受け止めるのはきついな……」
二つの冷たい刃は闇の溶けるように襲いかかってくる。
狩人が使う≪大剣≫に匹敵するサイズの刃の一撃はまず受けるような攻撃ではなく、回避するべき攻撃の類いだ。
だが、≪重装槍≫という武具は基本的に回避に向いていないのもあり、俺は一閃を槍でさばきつつ、同時に飛んできたもう一閃を盾で受け止めるしかなかった。
――やはり、さっきよりも重いな。盾を貫いてダメージが腕に響いた……。間を置かずに攻撃を受けるのは盾でもやめた方が良さそうだ。でも、一定期間の低下の一定期間がわからないからなぁ。
少なくとも今の程度の時間ではダメらしいとメモをとりつつも、俺は冷静に戦局を分析する。
――今のところ……順調。作戦を立てられたわけじゃないけど、いい具合にかみ合えた。フィオがアタッカー、俺がいざという時のサポートと≪デコイ≫を含めた敵意のコントロールで≪ゼノベロス≫の行動の誘導……。
≪ゼノベロス≫との戦いの経験に自信がありそうだっただけはあり、フィオは相手の攻撃パターン熟知して優位に戦いを進めている。
爪や牙による攻撃はかなり余裕をもって反応しているあたり、完全に読み切っているのだろう。
問題があるとすれば尾剣による攻撃。
基本的に近距離にいる相手に対しては爪や牙で攻撃しようとする≪ゼノベロス≫だが、尾剣を全く使わない――というわけではない。
唯一見せた攻撃パターンが死角となる真上から強襲させるという攻撃。
張り付いて調子よく攻撃をするプレイヤーを仕留めるための攻撃なのだろうか、やたらと殺意が高い攻撃方法だ。
なにせ、すぐ目の前の≪ゼノベロス≫との戦いに集中していると頭上から尾剣が迫ってくるのだから。
――タイマンでやっていたら随分と厄介な相手になっていただろうな。でも、ソロじゃなければわりと対策は難しくない。予備動作自体はわかりやすいから≪ゼノベロス≫の懐に飛び込んで攻撃を加える相手には見えなくても、端から見ていればわかりやすい。
あとはそのタイミングで≪デコイ≫を使えばいい、危険な尾剣の攻撃は俺の方に向かいフィオは安全にさらなる攻撃を加えることができる。
つまりは勝利のパターンがみえた、というやつだ。
――あとはこのまま削っていけば……。
勝てる、という確信が俺にはあった。
フィオが攻撃を仕掛け、こちらはその援護という戦い方のせいか≪ゼノベロス≫の動きをよく見ることができた。
あいかわらず、少し気を抜くと闇に紛れるように見失いかけるが、斬りかかっているフィオがいるのですぐにみつけられる。
その結果、十分に観察することができた。
≪ゼノベロス≫の癖、動きの前動作、脚の動かし方、視線の動き……。
自分の中での≪ゼノベロス≫が徐々に固まっていく。
たぶん、武具さえ変えてしまえばフィオの役割を代わって熟してみせることができるな――と。
それぐらいには≪ゼノベロス≫の行動パターンを解析することに成功していた。
「よし、このまま……っ!」
俺は≪ゼノベロス≫を倒してしまおうという気になっていた。
ある程度ダメージを与えれば逃げることもあるので、場合によってはそれもやむなしと考えていた。
なにせ、相手は知らない未知のモンスター。
下手に無理をしていたい目をみるよりも、一度逃がしても次は万全に勝てる準備を整えてから狩猟してしまった方がリスクは低いからだ。
とはいえ、ここまで上手い具合に戦いを進めることができると欲というものが出てくる。
「逃げられても面倒だ。ここでけりをつける!」
「同感だね! 決めよう!」
戦いは激化していく。
ダメージを一定以上負ったことで≪ゼノベロス≫は怒り狂い、その攻撃力は増加、そして行動パターンも一部変更される。
「この予備動作……くるよ! 広範囲! タイミングを合わせてしゃがんで!」
フィオの号令とともに従って俺はその攻撃を回避した。
≪ゼノベロス≫の大技なのだろう、二本の尾剣をダイナミックに一回転するように振ることで全方位を一気に切り裂くという攻撃。
恐らく、これが第二班が襲撃された現場で見た光景の原因だ。
大量の木々が放射状に切り倒されていたのは、その中心でこの大回転斬りとでもいうべき技を使ったからだろう。
まさしく死の旋風とでもいうべき、ダイナミックで強力な技だったが――それを知っている相手には効果は半減だ。
予備動作から攻撃のタイミングを見抜いた彼女の指示でその攻撃をかいくぐると、俺たちは一気に≪ゼノベロス≫を攻めたてた。
怒りの状態になっているということは、それだけ追い詰められているということだ。
つまりはあと少しで――
「うわっ!? なんだ、騒いでいるから何か外であったのかと思っていたら……」
「ねえ、あいつっ!」
「ああ、間違いない俺たちを襲ってきたモンスターの――」
そんな声が後ろから聞こえてきた。
三人と一匹、ドラゴが異変に気づき彼らはそれを察して洞窟の外からできたのだろう。
――やはり、≪ゼノベロス≫が第二班を……そして、ルードを襲ったモンスターだったか。
彼らの言葉を聞き、俺は確信するとトドメを刺そうと最後の一押しのために深く槍の柄を握り込んだ。
≪ゼノベロス≫が第二班を襲撃した敵だったのはいろいろと都合がいい、狩ってしまえば一つ頭を悩ませる問題が解決する。
「うちの隊員をやってくれた分、やり返させてもらう! これがルード――」
そこでふと気づいた。
戦いに集中していて気づかなかったある違和感が頭の中を過ったのだ。
「待て、フィオ! ≪ゼノベロス≫には≪毒≫の状態異常を与える攻撃を持っているのか!?」
「何を言って……あっ」
俺の言葉にフィオはどこか間の抜けた声を上げた。
「――一体! 俺たちはあいつらに……っ!」
「まずいぞ! あのときも確か戦っている最中に――くるぞ!」
リンクスの言葉と同時に闇の中からもう一体の大型モンスターが飛び出し、襲いかかってきたのだった。
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