第三十五話:合流



 第二班の残した痕跡をたどり進んでいくとドラゴが反応を示した。

 彼の嗅覚が目的の匂いを捉えたのだろう、奥へ奥へと進んでいくその足取りは確かだ。


「よし、見つけたようだ。帰ったらご馳走だ」


「本当に優秀だな。第二班を探していると言うこともきちんと理解しているようだし」


「皇子様もどうだい? 彼らは優秀なパートナーだ」


「うん、考えておこうかな」


「それがいい」


 そんな言葉を交わしながら進んでいくと二人と一匹はある洞窟の入り口へとたどり着いた。

 ちょっとした崖になっているところをくだり、進まないとたどり着けない場所だ。



「こんなところがあるなんて……」


「知らなかったのか?」


「やりこんでいたとはいえ、全てのマップを細かく記憶しているわけじゃないからね」


「それもそうか」



 フィオの言葉に頷きながら俺はドラゴの様子をうかがった。


「この中か?」


「そうみたいだね。たしかに入り口の広さ的に大型モンスターが入ってこれるようなサイズじゃない」


「逃げ込むにはちょうどいい場所というわけか…。よし、ドラゴ……先導を頼む。無事でいてくれるといいんだが」


 そんな言葉を呟きながら俺は一歩を踏み出し、そして――



                  ◆



「た、助かりましたアルマン様。それにフィオ皇子……なんとお礼を言えばいいか」


「そんなこと気にする必要はない。三人とも無事でよかった」



 結論から言えば、第二班の残りの三名。

 班長のリンクスを含めた男女三人の狩人たちは無事だった。



「班長である俺が足を引っ張ってしまって……」


「リンクスさんは悪くありません。私がモンスターの襲撃にとっさに対応できなくてそれをとっさに庇って」


「それで負傷を?」


「はい……」


「あそこでは地上での下位相当のモンスターしか発見例がなかったから油断していたんです。見たことのないモンスターで……でも、大丈夫だろうって」


「油断だな」


「申し訳ありません」


 しょぼんとしているのは班の中で一番年若い女の子の狩人だ。

 若いとはいっても先遣隊に選ばれるほどの実績をもつ若手の狩人だったが、ここぞというときに経験の差があらわになったようだ。


 見たこともないモンスターの襲撃。

 それでも下位モンスター相当ならば問題はないはずと果敢に反撃に出ようとしたし、その油断を狙われた。


 とっさに相手の危険度を察したリンクスが庇わなければ彼女の命は危なかっただろうというのが彼らの見解だった。


「やつの攻撃は鋭く、そして強力でした。どうにも防具を弱める力があるようで」


「防具を弱める?」


「えっとなんといいますか、酸を受けたときと似たような感覚を受けたというか」


「……防具の防御力の一定期間の低下か?」


「そう! そんな感じです。……他三人が採取用装備で不測の事態に備えての戦闘用の装備をしていた俺がそれを食らったのがまずかったんです。そのせいで積極的に攻撃に出ることもできず、負傷もありましたから。それでも連携でなんとか抑え込もうとしたんですが」


「あのモンスター強すぎ……動きが全然つかめないし」


「相手の大技を食らってしまいましてね……。立て直すことはできなかった。逃げるしかできなかった。本来なら≪ロッソ・グラン≫の方へ逃げるべきだったんでしょうけど戦っている最中にどっちがどっちかわからなくなってしまって」


「それでここにたどり着いたと」


「逃げる途中で≪回復薬ポーション≫を入れていた袋を落としてしまったのが運の尽きでした。特に俺は足をやられてしまって動けないし、二人もそれなりに負傷していて……≪薬草≫くらいなら見つかる可能性があるから、明日の朝になったら周囲を探索して見つけようって話をしていて」


「なるほどな、三人とも負傷していて迂闊に動けなかったのか……」


 夜であるということもあったのだろう、ひとまず一晩を過ごした後でなんとかしようと話し合っていたところ、俺たちは彼らを見つけることに成功したようだ。



「ええ、本当に助かりましたお二方が持ってきてくれた≪回復薬ポーション≫のおかげで……ええ、足の方も随分と治りました。なっ!」


「はい、私の方も傷は治ったみたいで感謝してもしきれません」


「捜索隊、というか救助隊でもあるわけだから当然だ。というか≪回復薬ポーション≫を持ってきたのはドラゴだからな。背嚢の中に入れてこう……」


「そんなのを背負ってよくまあ動けるものだね」


「ドラゴだからな……。さて、要救助者を見つけられたわけだしどうするべきか」


「あっ、そうだ。ルードの様子は大丈夫なのでしょうか、そちらで保護されたという話ですけど」


「一命は取り留めているらしいから問題はないはずだ。≪ロッソ・グラン≫で元気な姿を見せてやれ」


「はい!」



 元気のいい声を上げるリンクスを見ながら、俺は内心でほっと息をついた。


 ――安否不明な三人を確保、これで第二班全員の無事を確認……よかった。物資的な被害こそ出たものの人的被害が免れた。それでよかったと思うことにしよう。


 そう結論を出すと俺は立ち上がり、洞窟の外へと向かった。


「どうしたんだい? これから≪ロッソ・グラン≫に? まあ、≪回復薬ポーション≫の効能もあって動けそうだし、できなくはないと思うが……」


「まさか。不必要なリスクを負わない主義だ。三人が見つかったのなら無理をせずに夜明けを待ってから移動した方が安全だ」


「なるほど、じゃあなんで洞窟の外に?」


「無事に三人の発見に成功したことを知らせるための狼煙を上げておこうと思ってね」


「ああ、そうか。まだ他の捜索隊も夜の危険な密林の中を彷徨っているだろうから」


 無理をする必要はない、というのを早めに伝えておくべきだ。

 俺はそう思い外に出ると入り口からある程度距離をとった場所まで歩いて向かった。


 そして、ついてくるフィオ。


「どうした?」


「いやー、それを使わせて欲しいなって」


「ああ、これか。使ったことはないのか?」


「うん。ゲームではなかったよね?」


「プレイヤーとして使うことはないな。ただ、設定としてはあったというか……まっ、そういうことなら」


 そう言って俺は懐から取り出した管を彼女へと手渡した。


「ここにダイヤルがあるだろう? それで狼煙の色が変わる仕組みになっている。小さい方のダイヤルは昼用と夜用の切り替えだな。夜用はほとんど使わないけど、さっき使ったように月明かりには反応して輝くようになる」


「ああ、綺麗な色合いだったね」


「昼用はまあ単なる色つきの狼煙だな。それで今回の場合は夜用にダイヤルを合わせて色合いは「三人を無事に発見」、「緊急性なし」だから青に設定してくれ」


「赤だと緊急性ありになるんだっけ」


「そうなる。だから間違えないように。そして、ダイヤルを合わせ終えたら上にあるひもを強く引っ張ってくれ、そうすれば――」


 指示通りにフィオがし終えると管の先に火がともり、大量の煙が発生していく。

 色合いは発光する青色……成功だ。



「おお、うまくできた。それにしても綺麗な色合いだ」


「管の中に詰め込まれた薬品がなくなるまで煙は出続ける。これでわかってくれるとは思うが……洞窟の中に戻るとするか」


「もうかい? もうちょっと見てても……」



 狼煙を上げることも済んだのでさっさ戻ろうと思ったのだがそんな俺に対してフィオはそんなことをいった。

 どことなくもったいなさそうな表情であがっている狼煙を見上げている。


 見たことがないのでもうちょっと見たいのかもしれない。

 とはいえ、


「いや、ダメだ。狼煙をあげた以上は離れないと」


「なんでだい?」


「さっきもいったが夜間で狼煙を使うことはあまりない。なぜかといえば目立つからだ。なんで夜の密林の中を行くのに松明の一つも持たないと思う」


「手がふさがるからじゃないの?」


「まあ、それもあるけど一番の理由は光源を持つと目立つからだ。狼煙に関しても一緒だ、夜でも見えるように発光する仕組みにしているがそれはつまりモンスターから見てもとても目立つということだ」


「つまり……モンスターが寄ってくる?」


「全部が全部というわけじゃないけどね。それでも近づきやすくなるのは確かだ。できれば視界の悪い夜の間に戦いなんてしたくはない」




 だからこそ、さっさと離れるべきだと俺は続けようとして――




 夜の静寂を切り裂くように飛んできた斬撃によって黙らされることになった。






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