第二百八十九話:エピローグ②


「≪龍狩り≫……実はこの爆発娘が!」


「よし、ぶん殴っておけ」


「ちょっと?? アルマン様、事情を聴かずに私が悪い判定するの酷くないですか??」


 フィオとしばらく雑談を交え別れた後、俺の邸宅に訪れたのはスピネルとルドウィーク、そしてルキの三人だ。

 家から出られないので色々と話を聞くために呼んだのが……ルドウィークの開口一番の言葉につい条件反射で答えてしまった。


「どうせお前が悪い。勝手にまた変なものを作ろうとしたんだろう」


「変なものではありません! とても役に立つかもしれない発明をですね」


「一先ず「ノア」の様子を見ながら対応していくから控えておけと言っただろーが! この鳥頭!」


「天才的な頭脳なんですけど!?」


 まあ、反省は特にしなかったが。

 詳しい事情を聴かなくても大体ルキが悪いのは推察できた。

 再起動した「ノア」がどういった挙動を行うのか未知数であったので変な刺激をしないように、ルキには発明や研究を控える様に言っておいたのだが当然のように破ったらしい。


 どうせそんなことだろうとは思っていたが。

 そもそも自身の湧き上がる知的欲求の本能に野生モンスター並みに素直に従う少女だ、ちょっと我慢できただけマシではあるのかもしれない。


「あいだだだっ!? 潰れる! 私の天才的な頭脳が詰まったかわいらしい頭部が握り潰されちゃう! 左腕も結構治ってきたんですね! 良かったです!」


「こんな形で確かめたくはなかったよ。全く……今の「ノア」が不正行為に対してどういった反応を返すかわからないというのに」


「わかってますよ! だから前のように当然アウトレベルじゃなく、ギリギリセーフラインを狙ったですよね」


「そういったことじゃなくてだな……まあ、いい。ちゃんと報告するように。勝手にやるな」


「はーい」


 あらかたの折檻をし終えると俺はルキを開放した。

 一先ず「ノア」は休止状態に入り、≪神龍教≫の者たちの協力もあっても何かしらの変化が起これば察知しやすい監視体制自体は取れている。

 すぐに差し迫った事態になるとは考えにくい。


 ……無論、とはいえ楽観的に考え過ぎるのも良くはないのだが。


「お前、ルキに対して甘くないか?」


「……自覚はある。まあ、ルキの知見、発想、技術はリスク考慮しても価値のあるものであるのは確かだからな」


 そう言いながら割れんばかりに掴んでいた手を何となく撫でるように動かすと、ルキは甘えるようにグリグリと押し付けてきた。


 ――優秀ではあるけどそれと同じくらい厄介なやつなのは変わらないんだけど……。


 手のかかる子ほど可愛いというやつだろうか。

 なんだかんだと出会ってからは色々と一緒に戦場に出て乗り越えてきた経験も多い。

 何というか俺にとっては妹のような感覚なのだ、途轍もなく手間をかけてくるがとびっきりに可愛い妹。


 彼女が俺に対してどう思っているかは知らないが……勝手にそう思っている。



「……まあ、いい。それで? 何が聞きたい?」


「街の復興については順調で大きなトラブルは今のところは特にない。シェイラが仕事の最中だというのに急に糸が切れたように寝込んでしまったぐらいだが……もう四度目だからな」


「あー、うん。シェイラはな。負担をかけている。俺としてもすぐに復帰して負担を軽減してやりたいんだが」


「シェイラ自身が押しとどめているんだ。本当に無理になったら言うだろうから、それまでは好意に甘えておくといいさ」


「わかってる。あいつには頭が上がらない、落ち着てきたら嫁入り先でも探してやるか。それぐらいはやらないと流石にな……」


「……ん? いや、それは……まあ、いいか。それはそれとして、他に特段報告の必要性のある話は――」


「ああ、待ってくれ。今回はちょっと別の話がしたいと思ってな。実はさっきまでフィオ皇子が来ていて……」


 かいつまんで話したことを説明し、俺は今まで気になっていたことについて尋ねることにした。


「なるほど……確かに正式な形で「楽園」が運営されたとなるとそこら辺も考えておく必要があるか」


「やっぱり、俺が知っている以上の要素が「楽園」にはあるんだな?」


「当然だ。今まではβテストの範囲内でしか要素の開放はなかったが……≪ノルド≫とかのようにアップデートによって追加された要素も「楽園」には組み込まれている」


「というか『Hunters Story』だけの話なら≪グレイシア≫を中心とした辺境伯領を中心として作ればいいだけだからな。の要素があるからこうして「楽園」は広大なわけで――」


「続編……いや、薄々は気づいていたけど嫌なこと聞いちゃったな、おい」


 そもそも「楽園計画」自体が天月翔吾の生きていた時代よりももっと後で始まった計画であり、それに『Hunters Story』が選ばれたということはそれだけのロングランのヒット作品だったということだ。

 天月翔吾の記憶にあったゲームの内容に、多少色がついた程度でその人気を維持できたとは思えない。


 新しいモンスター、新しい装備、新しい要素、新しいストーリー。

 それらが続いていき人気を維持したからこそ「楽園」は創られたというのであれば――


「俺の知らないモンスターとかも出て来たりとか……」


「まあ、可能性はあるだろうな。βテスト時点では初代のモンスター縛りでしか出せないようになっていたが」


「システム的なアップデートが行われれば解放される予定となっていた。今後、「ノア」の判断によって増えていくだろうな」


「プラント施設壊さなかったっけ?」


「βテスト時点で動いていたのは≪霊廟≫の施設だけだった……あとはわかるな?」


「まあ、想定はしていたけどさ。……ところで最終的には何種類ぐらいモンスターは」


「安心しろ。大型モンスター、小型モンスターを含めて……かろうじて四桁はいっていない」


 俺は思わず天を仰いだ。

 続編では帝国全土がゲームのメインになるため、今までのように辺境伯領ばかりに負担があるわけではないらしいが――


「はあ、約束された波乱だな」


「「ノア」としても反応を確認しながら進めていくことになるだろうから、急激に問題が起こるということはないだろうがな」


 俺の様子を見て慰めるようにルドウィークは言った。


「新しいモンスター……っ! つまりは新しいモンスター素材! 新しい装備ということですね!」


「まあ、そうなるな」


「それにフェイルのことも考えるとゲームシステム自体も適宜更新されている模様。つまりは新たな機能とか解禁される要素だって増える――違いますか?!」


 そんなこちらとは反対に元気になるのがルキだった。

 彼女はその大きな目をキラキラさせて、いずれ出てくるであろうに期待をしていた。



「楽しみですね! アルマン様!」


「全く……お前ぐらい気楽な立場ならそうかもしれないがな」


「アルマン様だって新モンスターがどんなのか気になるでしょう? 新しい装備とかも!」


「むっ」


「だって笑ってますもんね!」



 ルキに言われて気づいた。

 話を聞いて面倒だな、と思う自分がいる一方で少しだけワクワクしてしまっている自分がいることに。


「やれやれ……全く」


 頭をガリガリとかき、俺は改めてスピネルたちに話しかけた。


 今日は時間がある。

 アンネリーゼが用意してくれた紅茶に茶請けの菓子だって十分に。



「話して貰おうか? 『Hunters Story』の続きの話。モンスターとかストーリーとか新たな装備とかスキルについても色々と知っている限り全てな」


「ふっ、やれやれどこから話すべきか」


「一先ず、ボス級モンスターについては教えておかないといけないだろう」


「それはそうだがそれはストーリーと絡めないとややこしくならないか? それに仮に新モンスターが出てくるとしたら一般枠の非イベントモンスターからだろうから、そっちからの方が――」


「時間はある。とにかく、片っ端からだ」



 言い合うスピネルとルドウィークに対し、そう言い放ち俺の――天月翔吾の知らない『Hunters Story』の話に耳傾けた。

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