第二百八十七話:我が身は龍を穿つ刃なり
駆ける、翔る、欠ける。
限界まで圧縮されたエネルギーを後方から解き放ち、俺はただ一陣の流星となって茜色の染まる空を翔け抜ける。
E・リンカーによる狩人としての鋭敏な感覚すらも一瞬で引きちぎるような加速、それを≪龍氣≫による感覚の強化で無理やりに繋ぎ止める。
身体がバラバラになりそうな衝撃。
それを絡みつく闇色の羽衣が無理やりに抑え込む。
長くは持たない。
が、長く持たせる必要性もない。
数秒にも満たぬ時間、≪アー・ガイン≫へこの≪
一度割れた≪
それはまるで爆発的なエネルギーを抑えて込んでいるかのように明滅し、恐ろしい雰囲気を放っていた。
その刃の先端を≪アー・ガイン≫の方へと向け、ただひたすらに、愚直なまでに突進する。
大気を切り裂きながら、その身をただ一つの矢の如く。
天が嘶いた。
耳に聞こえたわけではない。
だが、わかる。
白く染まりかける世界の中で黒々とした何かがこちらに迫ってきた。
≪アー・ガイン≫の攻撃――なのだろう、たぶん。
あまりの加速に意識を繋ぎ止めるのが精一杯で、視界も明瞭ではないので自信はない。
ただ、状況を考えればそう推察するしかない――ただ、それだけ。
こちらに対して警戒を示していた≪アー・ガイン≫からの咄嗟の迎撃、ということなのだろう。
どこか他人事に考えてしまうの俺にはどうすることも出来ないからだ。
この速度では回避なんて不可能、それ故に――
「っ、ぅううう!」
俺は更に加速した。
歪んだ世界の中、押しつぶすように迫る黒い壁。
それを貫くようにもっと早く、鋭く。
己の身をまとう闇色の炎の羽衣とルキの≪龍喰らい≫の強度を信じ、自身のこれまでの生存本能の直感を信じた。
――多少、欠けても問題はない……っ! ただ、この勢いを維持して届かせる……それだけを……っ!
思考すらも疎らになっていきよく纏まらない。
だとしても俺は駆け抜ける。
衝撃が走る。
ヘルムが砕け、視界が少しだけクリアになった。
脳が痛みを感知し、伝えようとしているが――関係はない、突き進む。
≪アー・ガイン≫の迎撃はそれが精一杯だったのだろう。
黒い壁を突破した先には何もない、黄金の龍の巨体で回避しようにも間に合いはしない。
「――――」
俺は深く≪
「――ァァァアアァアアっ!!」
加速の勢いを一切殺さずに≪アー・ガイン≫の弱点である額の七色に輝く輝石へとその刃を突き立てた。
硬質な感覚。
弾丸にも等しい速度で衝突した力を以てしても容易に砕けぬ硬さが伝わった。
長大な≪大剣≫としての刃が半ばまで突き刺さったものの、それ以上は進まなかった。
破滅的なエネルギーを放ちながら突き立てられた刃、それをそれだけで抑え込むなどというのは尋常なことではない。
超大型のモンスター、だからこその驚異的なタフネスとでも言うべきか。
苦悶するように身体を戦慄かせはしたものの≪アー・ガイン≫は俺の一撃を耐えきって見せた。
手応えはあった、ダメージは確実に与えた。
だが、受け止められてしまった。
「――……っれ、でぇ!!」
問題はない。
半ばまで刀身が埋まればそれで十分なのだから。
俺は意を決して≪
――「いいですか、説明するととても単純な必殺の技なのです。仕様上、一度しか使えませんけどそこはそれ、威力に関してはその分保証しますので大目に見ていただくということで」
そもそもとしてルキ・アンダーマンという少女はロマン派火力厨科に属する生き物だ。
≪
だが、彼女の性質という点を考えるとやや大人しい性能をしているのも事実ではあった。
いや、実際にそれを使って戦うことになる身からすればあまりピーキーな性能されても困るので、癖はあるものの強力な装備だったことに関して特に文句があるわけではない。
ただ少し疑問に思っていたわけではなかったのだ、勝手に≪マルドゥーク≫に≪三重螺旋巨大撃龍槍≫なんてものを搭載した少女にしては大人しいな――と。
その答えは簡単であった。
――「……という機構です。アルマン様なら使えますよね?」
――「お前は本当に馬鹿だな。確かにそれなら威力は確かだろうが……」
――「結局この手法が最も効率がいいんですよ、アルマン様!」
最初からそう言うのを仕込んでいたから……それに尽きる。
まあ、使わなくても勝てるのであれば特に言うことはなかったのだろうが――
「これで終わりだ」
巨大な≪アー・ガイン≫の額の輝石に突き刺さった≪
一度起動したときと同じく、刀身が埋まった状態でありながら爆発的なエネルギーの開放によって強引に開かれると――その内部にあった虹の色合いをした鋭利な先端をした杭のような形状をした物体を露出させた。
先ほどとは違い、明滅するように輝くその杭――≪天鉾≫には莫大なエネルギーが圧縮されていた。
ルキが回収したデータによって作られた≪龍種≫の素材から作られたただの杭状の物体。
≪龍≫属性のエネルギーをより高密度に留めることだけに特化した物質。
そんな≪天鉾≫には≪雷吠≫によってもはや崩壊寸前なほどにエネルギーが蓄積されていた。
少し均衡が崩れれば行き場を失った膨大なエネルギーは周囲に拡散するであろう……それは言わば今にも爆発しそうな爆弾といっても過言ではない。
俺はそれをただ射出する。
より深く、より確実に、より致命的に。
ただ打ち込む。
≪
「――一撃だ」
もはや逃れる術はない。
俺にしても、≪アー・ガイン≫にしても。
≪
茜色に染まる空に黒き雷鳴が切り裂いた。
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