第二百八十六話:我が身は焔
≪龍喰らい≫の最後のコアが揃った時に初めて使える機構が≪
相変わらずロマンのわかってる女であるルキは。
でも、ちゃんとあらかじめ言っておいて欲しいという気持ちがある。
いや好きだけどね、とってもカッコいいと思うし……だけど、それはそれとしてというか。
ルキから説明を受ける際に思わずそんなことを思った。
気配を察したのだろう彼女は慌てて言い訳らしき話をまくし立てた。
曰く、構想としては出来ていたものの≪
だが、≪龍喰らい≫を作ることになって「あれ? いけるんじゃないか」と機構の封印を解いて使えるようにしていたのだとか……。
――いや、その時に言えよ。まあ、その時は色々と忙しかったけどさ。
ともかく、そんな経緯で先ほど知らされたばかりの≪
すると変化はすぐに現れた≪
中から現れたのは虹の色合いをした鋭利な先端をした杭のような形状をした物体。
その物体は≪龍喰らい≫から、あるいは≪
――≪雷吠≫
それが最後に発現したスキルだ。
大まかな力についてはこれまで通り感覚的に分かる。
このスキルの力は≪龍≫属性エネルギーの収束、ならびに圧縮。
ただでさえ扱いきれないほどに奔流となって荒れ狂う力を収束し、圧縮させる。
ねじの外れた行動だというのはわかっているが、どれだけ膨大な力であろうとただ浴びせるのと圧縮したエネルギーを叩き込むのでは話が違う。
必要なものは力だ。
破壊力だ。
火力だ。
ただ一撃で≪アー・ガイン≫の弱点を破壊するだけの――力。
「ぉぉおおおおおおっ!!」
荒れ狂う力を強引に手懐ける。
一瞬でも気を抜けばコントロールを失敗し全ては暴走する。
――あと少し……持てばいい。
≪龍喰らい≫の六つのコアがそれぞれの色で輝いた。
力を緩めるつもりはない、アクセルは踏みっぱなしだ。
全身が沸騰するかのように熱い。
脳が焼けそうだ。
――だけど、あと少し! もう、ほんの少し……っ!
狂乱するように踊る闇色の炎の羽衣。
うなり声をあげるか如くの≪龍殺し≫の武具。
そして、血のように紅い光が≪龍喰らい≫の鎧に筋のように浮かんでいく。
高めあげた力の大きさに、≪アー・ガイン≫は反応をした。
完全な敵対行動とみなしたのか。
この攻撃は超大型モンスターである≪アー・ガイン≫からしても危険だと、生物としての本能の部分が反応したのか。
それは誰にもわからないが。
「いっ、く―――ぞぉ!!」
俺には関係なかった。
ただ、突き進む。
今の俺にはそれしか出来ないのだから――
◆
同時刻、≪グレイシア≫にて。
「くそっ、なんだ急にモンスターたちの様子が……」
「大人しくなった? 何が起きた?」
「わからん。だが、チャンスだここから一気に反撃に出れば押し返せる」
「いや、ダメだ。確かに攻撃を積極的に仕掛けて来なくはなかったが、攻撃しようとすれば戻ったかのように反撃してくる」
「手を出さない間は大人しいってことか? なんだそりゃ」
≪グレイシア≫は今非常に苦しい立場に置かれていた。
突如として大地や建物が上空へと吸い込まれたかと思ったら、降り注いでくるという超常的な現象により、都市全域に大きな被害を受けた。
特に一番、問題だったのが城塞都市の名をほしいままにした≪グレイシア≫が誇る巨大城塞の囲いが崩壊したことだった。
「東門から結構内部になだれ込まれて浸食されている。そいつらをどうにかしないと」
「だから、下手に攻撃をするとまた反撃してくるんだって!」
「不気味な現象ではあるが今はありがたい……。いつまた先ほどまでのように動き出すか、注意は払い続ける必要はあるが今のうちに立て直しをはかるんだ」
「市街地の方にも応援を送ろう。さっきのやつのせいできっと怪我人やらなにやらはたくさん出ているはずだ。手は多い方がいい」
「とはいえ、ここの守りにも人手はいるぞ? 塞ぐことは出来ないがそれでも入り込んでくるのを減らすにはここで粘るしか」
「とにかく、街の方はどうなっている!? 誰か状況を――」
喧々諤々。
辺りでは怒鳴り声が飛び交っている。
いきなりの防衛戦線の崩壊、そしてなだれ込んできたモンスターたち。
あまりに突然な事態の急変に絶望しかけた≪グレイシア≫の狩人たちではあったが、モンスターたち全体に起こった奇妙な現象に窮地を脱することが出来た。
アンネリーゼもその一人だった。
「一体どういうことなの?」
「わかんねー……けど、助かった」
「お怪我はありませんか? アンネリーゼ様」
「ええ、大丈夫。ありがとう。二人は?」
「「なんとか……」」
アレクセイたちに助けられた後、彼女たちはそのまま連れられるように城壁へと向かった。
崩壊した東門からなだれ込んでくるモンスターたち相手に、市街地に残っているのはマズイという判断によるものだ。
城壁の一部は先ほどの現象によって崩壊したとはいえ、あくまで一部でしかない。
≪グレイシア≫へと侵攻してくるモンスターを相手にするために、城壁内にはたくさんの狩人たちが居たため、最も安全なのがこの場所だったのだ。
それでも城壁にたどり着くまでに何度かモンスターと出くわすことになったがアレクセイたちは上手くいなして、すり抜けるようにして辿りつくことに成功した。
そして、それからというものの現状がまるで理解できていないなりに城壁に配属されていた狩人たちと協力しつつ戦っていたのだが、そんなこんなしている間にこの奇妙な現象である。
「助かった……けど、不気味だ」
「本当にね、いきなり街が空に上がったと思ったら落ちてくるし」
「かと思えば今度は流れ星が……」
身体を休めるチャンスとばかりに携帯用の食料にかじりつきながらか会話をするアレクセイとラシェル。
その会話を耳にしながらアンネリーゼは東の果ての方向を見た。
「……あの流星群が落ちたのは≪霊廟≫の方だな」
「凄まじい轟音だった。地響きや衝撃波がこちらにも届いてきて……」
「何かが起こっている。この事態はもしかしたら……だが……」
「アルマン……」
無数の星が流れて森の奥へと落ちた。
現実を疑うような光景ではあったが、目の前のことに手一杯ななのだろうアレクセイたちや他の狩人たちはそちらに目を向けていない。
気にしているのはアンネリーゼとスピネル、そしてルドウィークぐらいなものだ。
暗雲が立ち込める東の空をただ眺めた。
そして――微かに、だが確かに黒き彗星の輝きが天を切り裂くのを見た。
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