第二百八十五話:我が身は狩人
「空まで頼んだ」
そうシロに言って俺はその身体に飛び乗った。
≪アー・ガイン≫のいる遥か上空、そこまで≪無窮≫を使って飛んでもよかったが出来るだけは負担は少ない方がいい。
そんな考えのもとだ。
あらかじめパートナーモンスターとして生み出されたフェイルとは違うため、大人しくても指示に従ってくれるかは不安だがったがエヴァンジェルが何らかの処置をしたのかシロは大人しく俺の指示に従って飛んでくれた。
「アルマン様ー!」
「エヴァを頼んだ、ルキ」
そう言い残すとぐんぐんと空へ向かって上昇していく。
ふと、そういえば俺は≪リンドヴァーン≫に乗っているのだなと改めて思い不思議な感覚に陥った。
乗るのは既に二回、いや気絶している間に助けられたのも居れれば三回目だというのに変な話ではあるが、こんな時だからこそだろうか。
思えば一番最初に天月翔吾が『Hunters Story』を始めた理由は初めてゲームに手を出そうと思い、紹介サイトでPVを見たのが切っ掛けだった。
強大なモンスターとして暴れまわる≪リンドヴァーン≫、そしてそれと戦う狩人の姿……それに強い憧れを抱いて始めたのだった。
だというのに今の俺はこうしてゲームの世界ではなく、現実の世界でシロに乗って最後になるであろう戦いに赴いているのがどこかおかしく感じてしまった。
「……こんなところにまで来てしまうとはな」
ある程度、上まで運んでもらうと俺はシロの頭を撫でて飛び上がった。
≪アー・ガイン≫との戦いには残念だけど邪魔になってしまう。
ルキとエヴァンジェルを頼んだぞ、という思いを込めて≪無窮≫を使い――空を翔けた。
――力が有り余っているみたいだ。
スキルを使ったことで確かに実感できる変化。
表現が適しているかはわからないが、あえて例えるなら軽くアクセルを踏んだつもりなのにいつものフルスロットルの勢い車のような……そんな感覚。
ピーキーというレベルではない。
駆け巡るエネルギーが鎧から溢れ、無秩序に光となって暴れ出す。
俺はそれを抑えるように≪白魔≫のスキルを使う。
本来はエネルギーを物質化させる力だが、それを利用することで一定の指向性を与え余剰エネルギーを制御する。
揺らめく炎のような見た目となったエネルギーの結晶を、防具や武具のひび割れた傷に絡みつかせて強度の保持へと回す。
気休めにしかならないがそれでもないよりはましだ。
「一撃持てば十分……」
黒き炎のように溢れ出たエネルギーを羽衣のように纏わせ、俺は≪
構える先は当然のように天を征するが如く、金色の威容を示す≪アー・ガイン≫へと向けて。
猛威を振るっていたはずの最後の龍にして最初の龍は、先ほどまでの暴れようなどなかったかのように静かだ。
寝ているというわけでもなく、意識があるというのにどこか気迫が無い。
エヴァンジェルがくれたチャンス。
構えただけではまだ反応は薄いが明らかに意識をこちらへと向けた気配を俺は感じた。
やはりルキの言った通り、このまま大人しく攻撃を受けてくれることはないようだ。
それでも反応が鈍いの確か、だからこそ俺はゆっくりと息を吐き気力を一気に練り上げた。
全てただの一撃へと込めるために。
制限時間はもう三分もないだろう。
それでもしっかりと息を吐き、そして吸って――整える。
「…………」
ズシリッとした≪大剣≫の重み。
この重さも随分と手に馴染んできたものだ。
≪
受け取り振るうようになってからさほど時間は立っていないはずだ、だというのにすっかりと愛剣となっていた巨大な両刃剣。
それもすっかりとボロボロで細かな罅が入り、刃も一部欠けていたりもしていたりする。
防具よりもさらに消耗というの激しいのが武具というものだ。
相手が強大なモンスターであるならば尚更に。
――お前にも色々と助けられた。もう少しだけ付き合ってくれ……。
正中に構えていた姿勢を変え、半身になって僅かに前傾になりつつ刃の先端を≪アー・ガイン≫の方へ。
≪
「―――――。」
一瞬、ふと今までの人生を振り返った。
どことも知れない人の企みで、何処とも知らない男の記憶が流し込まれ、自分が誰にかもわからず、本当の親である人を確かに愛せず、記憶で得た知識に振り回されながら怯えるように生きてきた。
戦うのは嫌いだ。
疲れるし、怖いし、痛いし。
責任のある立場なんての嫌いだ。
いつも背負ってやることをやらなきゃならない。
英雄という立場だって……。
でも、やっててよかったと思ったとたくさんあった。
俺がそうしなければ守れなかったものも、出会えなかったものもあると知っているから――まあ、いいかなって。
それに、それにだ。
最近、思い出したことだってある。
確かに戦うことなんて嫌いだけど、天月翔吾はモンスターと戦う狩人の姿に憧れた。
カッコいいと思ったんだ。
その記憶を見た俺もまた「カッコいい」と。
それは天月翔吾としての記憶の感情じゃなく、それを見た俺の中から出た感情。
間違いない。
俺は確かに
「生きるために狩れ」、それが『Hunters Story』のキャッチコピーだ。
それが正しい英雄としての在り方だというのであれば、俺はただ生きるために戦う。
「君のための英雄」として戦う。
そう誓った相手と共に生きるために戦わなければならないというのなら――
「――俺はお前を狩るよ」
時間にして一秒にも満たないものだった。
精神集中を終え、閉じていた瞳をゆっくりと俺は開けた。
「≪
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