第三幕:New World
第二百八十一話:壊天
所謂魅せ技というものがある。
要するに絵面を重視した技というやつであり、≪アー・ガイン≫にもそれがあった。
その存在の強大さをアピールするための技。
重力操作によって星を落とすという非常識ではあれど、「楽園」における一種の神に相応しき大技。
最高傑作になるはずだった≪アー・ガイン≫にはそれがあった。
恐るべき能力と言っても過言ではなく、こんな力を持った人工生物を作る辺り、今では古代人と呼ばれる人類たちの倫理観について、それはもうイカれているとしか形容できないのだがそれは置いておくとして。
当然のことながらこれほどの技、連発できるわけではない……というか連発で来てはいけない。
いくら安全対策をしていても大質量と運動エネルギーで引きつぶされれば如何なE・リンカーと言えども限界というものがある。
そもそもがプレイヤーに放つ用の技ではないのだ。
では、何故こんな技があるかと言えばそれは――最小に言った魅せ技の話に戻る。
本来であればそれは対プレイヤーの技ではなかったのだ。
使うにししても影響力を考慮して限られたエリアで、≪アー・ガイン≫という存在の強大さを示すだけの――要するにゲームで言うところのイベントムービーのようにカッコつけるためだけのプログラム。
だが、度重なる「楽園」全体で行われていた不法行為によるシステムの負荷、 「新生プロトコル」という大規模な上方修正処理、そして「楽園」にとっての重要施設の占拠への対策……。
それは「楽園」のシステムに溜まっていくエラーとなり、エラーは新たなるエラーを発生させ連続していく。
その結果なのだろうかこれまで≪龍種≫もどこかに異変を抱え、そして――それは≪アー・ガイン≫とて同じだった。
それだけの話だ。
◆
――ああ、終わった。
一瞬、俺はそう諦めた。
だってそうだろう、空一面を覆いつくすほどの流星の雨――絶望して諦めたとしても恥ずかしくはないはずだ。
だが、それも一瞬のことだった。
――……っ! 確かに驚きはしたがアレは落ちているだけ……軌道自体はわかりやすい。
空を覆いつくほど、と言えば少し誤解されるかもしれない。
無数の流星が降り注いでくるという光景には確かに圧倒されるものがあったが、それでも全体的な密度自体は大したことはない。
――あれなら掻い潜ることは出来る。出来るが……。
それでは意味がない。
「……のぉっ!」
逡巡は一瞬、俺は≪無窮≫を最大で展開し上空へと加速して飛びあがった。
――出来るか!? いや、やるしかない……っ!
≪アー・ガイン≫のその流星群の攻撃に問題があったとすれば――それは予想される被害範囲。
そこにはエヴァンジェルたちの居る遺跡の施設も含まれていた。
巻き込まないようにできる限り離れて迎撃に出たつもりではあったが≪アー・ガイン≫は簡単に止められるようなモンスターではなかったため、いつの間にか近づいていたらしい。
それでもあの生産施設は「楽園」にとっても重要な施設であるというのを知っていたため、俺は心のどこかでそこを巻き込むような攻撃はしないのではないか――と考えていた。
≪アー・ガイン≫もまた「楽園」のシステムの中の存在であり、それを破綻させかねない「施設などの破壊行為」は規制されているはず……そんな甘い見通しはあっさりと崩壊した。
「最大出力――」
ルキとエヴァンジェルたちが居るのは施設でも地下の場所だ、あんなものが一帯に落ちてしまえばどうなってしまうか……とにかく、何とかするしかない。
その時の俺にそれを見過ごすという考えは頭になかった。
≪アー・ガイン≫は大技であるこの流星群を解き放ったせいなのか、無防備な隙を晒しているというのにそれを無視してただひたすらに飛び――
「――っ!? ≪大煌刃≫ッ!!」
≪龍喰らい≫の五つの宝珠を最大共振させ莫大なエネルギーを瞬時に生成させる。
気を抜けばコントロールを誤ってしまいそうなほどに荒れ狂う力、それを≪
通常時に使う規模を遥かに超えるエネルギーの放出、それによって生み出されたのは巨大な闇色に輝く剣。
バキリっと嫌な音がした。
咄嗟に≪
五つの宝珠を共振させることによって発生させたエネルギーの強大さに耐えきれていないのだ。
――持ってくれよ……っ!
それは予想が出来ていたことだった。
ルキ曰く、元より≪龍喰らい≫が生成可能なエネルギーの量は宝珠の数に応じて指数関数的に増加する。
それによって全てのスキルを同時に十全に機能させることが可能となるのわけだが、そのエネルギーを全て≪
現在は五つの宝珠しか機能していないとはいえ、それでも生成されるエネルギーは膨大、更には本来なら分けて使うエネルギー量を一つのスキルの発動に回したのだガタが来てもおかしくはないだろう。
そもそもがそういう運用を想定していない。
更に言えば≪アン・シャバール≫との連戦によって≪
いや、それは≪龍喰らい≫の方も同じだった。
莫大に生成され全てを燃やし尽くしそうな勢いで駆け巡るエネルギーの奔流に、≪龍喰らい≫の左腕部からは光が零れるに漏れ、そして俺の左腕には熱するような痛みが走る。
明らかな過剰駆動。
だとしても――
「――これでぇ!!」
守らなくてはならない。
ただ、その一心で俺は≪
一閃では足りない。
二閃、三閃、四閃……地上へ与える被害を軽減するためには出来るだけ破壊するしか手段はない。
莫大なエネルギーが出力され続けている≪
どうあがいても破壊した流星の一部は一帯へと降り注ぎ、そして落下の運動エネルギーで以て被害を出す。
その被害にエヴァンジェルたちが巻き込まれない保証はない。
だからこそ、俺は≪龍喰らい≫の中で荒れ狂う力を限界まで振り絞り、刃を振るって――
「ぉおおおおぉぉオオっ!!」
恐らく一番近くに落下するであろう流星群の一部、それらの破壊に成功した瞬間確かに気を抜いてしまった。
――大きなのはこれで……でも、もっと細かくしないと。
その隙をつくかのように飛んできた黒々としたブレスの一撃。
意識から外れていたその攻撃を受けたの必然であった。
「……ぁ」
ギリギリで直撃こそ避けられたのはこれまでの狩人としての経験が成せる技だったのか、それでも攻撃を受けたことには変わりに無く突如として襲う重力場の嵐によって猛烈な痛みが遅い、更には意識が攪拌されるように揺らされ意識が遠くなっていく。
――まず……≪無窮≫を……意識を保たない……と……。
そんな思いとは裏腹に俺の意識はぷつりと途絶えた。
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