第二百六十三話:疾風と迅雷


 災疫龍≪ドグラ・マゴラ≫

 溶獄龍≪ジグ・ラウド≫

 冥霧龍≪イシ・ユクル≫

 烈日龍≪シャ・ウリシュ≫

 銀征龍≪ザー・ニュロウ≫


 そして、嵐霆龍≪アン・シャバール≫……。


 これらをまとめて六龍といい、全てを倒すのが『Hunters Story』におけるストーリーイベントだ。


 世界における六つの災厄、生態系の頂点にして伝説の怪物。

 それらをプレイヤー操る狩人になったばかりの主人公が倒して最後には英雄的な狩人になる――そんな物語。


 ……あくまで天月翔吾が知っている分では――という話だが。


 こんな「楽園」なんて所を創れるほどに人気が続いて≪ノルド≫を含めたアップデート要素の事とかも考えると、シレッと別の≪龍種≫とかもっとヤバいモンスターが追加されていそうな気しかない……まあ、そこら辺は置いておこう。


 兎にも角にも生態系の頂点たる、モンスターの中のモンスターを全部倒すのがプレイヤーに与えられた目的なのだが、実のところ最終的に全部倒せればいいのであって順番が決まっているわけではない。

 強制イベントで順番的に一番最初になる≪ドグラ・マゴラ≫を除けば、≪龍種≫の≪討伐依頼クエスト≫はどれからやってもいいのだ。

 基本的にプレイヤーの階級が≪金級狩人≫になった時点で受注条件は満たしているので、後はお好みで……というやつだ。


 ≪ドグラ・マゴラ≫の次に≪イシ・ユクル≫と戦ったり、≪シャ・ウリシュ≫と戦ったりと……まあ、人それぞれだ。

 どの≪龍種≫も一筋縄にはいかない強さを持っており、対策のために防具や武具を揃える必要なり手間もかかる。


 そうなると本当に倒していく順番はプレイヤーの好み次第で千差万別……なはずなのだが、ある攻略サイトで≪龍種≫をどんな順番で倒したかというアンケートが実施された際、ある傾向が現れた結果となった。



 それはプレイヤーの多くが一番最後に倒すことになった≪龍種≫は――嵐霆龍≪アン・シャバール≫であったということ。



 その理由は何故か。

 至極単純なことだ。



 



「――っ!!」


 凄まじい勢いで迫る≪アン・シャバール≫の雷光を帯びた爪の一閃、それを≪屠龍大剣・天翔シャウラ・グラム≫の刀身で受け流す。


 ――ギリギリ……っ!


 ≪無窮≫を発動し推進力で距離を取ろうとするも身体ごと突進してきた≪アン・シャバール≫は、


 翼による飛行で軌道を変えたわけではない。

 軌跡を線で表すなら直角の軌道を描くような動きで、それはまるで何かに弾かれたかのように。


 動きの種は周囲に荒れ狂う黒き風だ。

 砂鉄のように磁力を帯びたソレを≪アン・シャバール≫は自在に操ることで自らの機動力に変換することが出来る。


 磁力の反発と引き寄せを利用することで加速したり、今のように空中での急激な方向転換すら可能とする。



 ≪龍種≫において最速と称とされる動き。



 それに加え、


「くっ、≪ライオット=フェザー≫を……っ!?」


 当然のように放たれる雷撃を帯びた羽根を広範囲に飛ばす≪ライオット=フェザー≫――だが、それは先程までのものとは一味違った。

 何と放たれた羽根はただ直進するだけではなく、その軌道を磁力によって途中で変化させたのだ。


「本気を出してきたな……」


 呟きながら俺もそれらに対応する。

 先ほどと同じく≪白魔≫で結晶の壁を作り、正面から迫って来た≪アン・シャバール≫の爪撃と≪ライオット=フェザー≫の一部を受け止める。


 だが、いくつかの羽根は障害物である結晶の壁を回り込むように越え襲い掛かって来る。


 ――≪煌刃≫


 対して俺は光刃の一薙ぎで迎え撃つ。

 迸るエネルギーで纏っていた雷撃ごと羽根を消し飛ばす、


「……っ?!」


 と同時に前方へと転がるようにして飛んだ。

 次の瞬間、俺が居た場所が≪アン・シャバール≫の巨体が突っ込んで来た。


「っ、飛び越えたのか」


 攻撃を≪白魔≫の壁で防がれてすぐに飛び上がり、そして空中からの磁力を活かした加速突撃……っと言ったところだろうか。


 ――俺が回り込んで来た≪ライオット=フェザー≫に対応する為に足を止めて対処するの予測していた……? だから、見当をつけてのすぐに跳躍してからの突撃――それとも先程の攻防を学習されたか?


 迅雷と呼ぶに相応しい息をもつかせぬ連続攻撃。

 それを凌ぎながら俺は冷静に思考を働かせ≪アン・シャバール≫という存在をはかっていく。



                  ◆




 嵐霆龍≪アン・シャバール≫にはこんな話があった。



 『Hunters Story』を制作する際の話だ。

 元々、≪龍種≫というのはゲームの物語にとって特別な存在で、色々と特別扱いをされていた。

 専用のステージがあったり、どのモンスターも能力増し増し、エフェクトや技を使う時のド派手さとか……まあ、とにかく特別扱いをしていたわけだ。


 そして、それは戦闘に関するものだって例外ではない。

 モンスターの能力が他の通常のモンスターと違っててんこ盛りなのもあって、基本的に他のモンスターは動きのパターンとかも他のから流用したりと抜ける手は抜いていたりするのだが、≪龍種≫の場合は一つ一つ固有の戦闘用ルーチンパターンを新規で作ったらしい。


 ただ、ここからはあくまで噂でしかないのだが何かしらの事情があって嵐霆龍≪アン・シャバール≫の戦闘用ルーチンパターンは、他の≪龍種≫の戦闘用ルーチンパターンを作ったチームとは別のチームがやったとか。


 公式的に認めている話ではない。

 だが、事実として明らかに≪アン・シャバール≫は戦闘に強かったのだ。


 強力な≪雷≫属性の技、変幻自在な能力、最速の機動力。

 確かにそれらも≪アン・シャバール≫の厄介な所ではあったが、真に注目するべきところはそこではない。


 それらを十全に使いこなす、戦闘AIの高さこそが――≪龍種≫の中において最強と称される所以なのだ。




「そろそろ温まって来た……ウォーミングアップも済んだし、ギアを上げていくぞ!」



 ≪アン・シャバール≫の雷光を発する爪と≪屠龍大剣・天翔シャウラ・グラム≫の光刃がぶつかり――そして、強力な閃光が渓谷の底にて瞬いた。



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