第二百六十二話:雷光と黒き嵐


「ふっ!!」


 疾走する。

 大地を、あるいは空を。


 ≪無窮≫によるブースト推進、≪白魔≫によって生成された結晶化したアンカーワイヤー、そして五感や身体の強化を行う≪龍氣≫……それらを操っての機動にも随分と慣れた。

 六つの内、五つのコアが稼働し生産される≪龍≫属性エネルギー量も跳ね上がり、発動式の特異スキルのリキャストタイムも短くなっているのも影響しているのだろう。


 有り余るエネルギーは俺に変幻自在、自由自在の動きを与えてくれる。


「――っと!!」


 対する≪アン・シャバール≫も負けてはいない。

 荒れ狂う黒き風が纏わりつくように絡みつかせ、俺の動きを拘束しようとする。

 更にその隙を突くように剣角が輝いたと思ったら天より強力な雷が狙いすましたかのような正確さで降り注いだ。


 俺は強引に出力を上げて黒い風の拘束を抜け間一髪で落雷を回避する。

 標的を外して大地に突き刺さった雷は有り余るエネルギーで大地を爆発させた。

 まともに食らってしまっては一溜りもないだろう。


「……流石に強いな」


 大きく回避して難を逃れた俺に対し、≪アン・シャバール≫は追撃をかける。

 巨大な翼をはためかせたと思ったら羽根を飛ばしてきたのだ。


 まるで弾丸のように迫る無数の羽根。

 ≪アン・シャバール≫の硬質な羽根は並の鉱石よりも丈夫で勢いよく飛ばすだけでまるで弾丸のような威力を持つ。

 それだけでなく、≪アン・シャバール≫が体内で自己生産している電撃も付随している≪属性≫攻撃でもあるのだ。


 それ故に雷撃を纏った羽根を広範囲に放つ技――≪ライオット=フェザー≫は≪アン・シャバール≫の代名詞のクソ技として認知されている。


 何故かと言えばまずに攻撃範囲が広く、プレイヤースキルだけで回避しようとすると恐ろしく難易度が高い。

 これだけなら特に問題はない。

 設定的に岩を簡単に壊す威力があるが防具さえ上位ならダメージは抑えられるので羽根の一枚や二枚食らったところでダメージ的には無いのだが……問題があるとしたら≪雷≫属性固有の追加効果だ。


 ≪雷≫属性の攻撃を食らい過ぎると特殊な≪感電麻痺≫状態になってしまう。

 所謂、感電みたいな感じで一定時間拘束されてしまうのだ。


 通常の≪麻痺≫状態とも違う括りになっているので通常≪麻痺≫対策では意味がなく、基本的に自身の≪雷≫属性への耐性をガッツリ上げておくぐらいしか対策がない強力な特殊異常状態だ。


 ゲーム内において属性モンスターは多様に出るが≪雷≫属性のモンスターが一番厄介と呼ばれる所以がここにある。


 基本的にモンスターの攻撃をまともに受けてしまえばプレイヤーがやられてしまうゲームで、対策手段の少ない拘束状態にして来る攻撃をしてくる時点で厄介極まりないのは間違いない。

 ≪雷≫耐性の高い防具で固めるという手段も、そもそもそれを作るのに≪雷≫属性のモンスターの素材が必要という問題だってある。


 なので基本的に≪雷≫属性のモンスターは基本的に強モンス――というのがプレイヤーたちの共通能認識だ。


 とはいえ、だ。

 いくら≪雷≫属性という属性が強いとはいえ、流石にポンポンとプレイヤーを≪感電麻痺≫させられるほどではない。

 ≪雷≫攻撃を食らい過ぎると――という感じで一定の許容量を超えると≪感電麻痺≫状態は発生するシステムになっている。

 そのため、大技でもない限り攻撃を一度や二度食らったところで≪感電麻痺≫は発生しないようになっている。



 だが、≪アン・シャバール≫は違う。

 どうにも攻撃を与えた際に相手に与える≪感電麻痺≫発生の為の数値が高いのか、それとも≪アン・シャバール≫相手だとプレイヤー側の許容量ラインが下がっているのか――とにかく、結論から言えば通常の≪雷≫属性モンスターよりも、≪アン・シャバール≫の攻撃は≪感電麻痺≫を誘発させやすいのだ。



 その性質を加味すれば≪ライオット=フェザー≫がどれほどのクソ技かわかるだろう。

 回避しづらく被弾すると≪感電麻痺≫状態をガンガン誘発してくる。



 そして、≪感電麻痺≫をするとこれでもかと大技を叩き込んでくるわけだ。



 ――何度もやられた恨み……っ!


 思い出すだけでも腹立たしい、動けなくなったところへのなぶり殺し。

 天月翔吾の怨嗟の記憶が蘇った。


「けど、その程度」


 当然の如く想定している。

 何度も脳内でシミュレーションした通りに≪白魔≫によって巨大な壁を創り上げ、それを盾に≪ライオット=フェザー≫をやり過ごす。


 回避できなければ防げばいい。

 盾のある武具種を装備するか、あるいはフィールドの障害物を使って回避するのが正統の対処法だが、俺には≪白魔≫という結晶を生み出す特異スキルがある。


 それを使えばこの通り、


 ――≪陽炎≫


 自身と≪アン・シャバール≫の間に発生した結晶の壁、それによって視界が遮断された隙を突いてすかさずスキルを発動し、自身の幻を創ると同時に解き放つ。

 壁の後ろから出て来た複数の俺たちの姿にヘイトが散らせ、制限時間が切れると同時に崩れ始めた結晶の壁を突っ切り、≪アン・シャバール≫へと一直線に迫った。


 ――≪無窮≫


 加速。


 ――≪龍氣≫


 僅かに遅れた反応。

 迎撃に放たれた鋭い爪の横薙ぎを薄皮一枚に避け、最高速度を維持したまま握る両手に力を籠める。


 ――≪煌刃≫


 光を帯びて一回り巨大化した刃。

 ただ渾身の力を込めて一閃を急所である首に目掛けて解き放ち――




 黒き風が舞う。




 僅かに逸れた軌道を描き、≪屠龍大剣・天翔シャウラ・グラム≫の刃は≪アン・シャバール≫の剣角によって受け止められた。


「――っ!! ……のォ!!」


 嵐霆龍≪アン・シャバール≫の象徴とも言えるのが特徴的な頭部に生えた巨大な剣のような角だ。

 狩人の持つ≪大剣≫よりも巨大で鋭利、頑丈にして勇壮な剣角は雷光を放ちながら見事に光刃の一撃を防いで見せた。


「このまま……っ!?」


 手心など一切なかった全力の一閃。

 それを防がれるもそのまま叩き折ってやろうと押し込もうとし、


 纏わりつくように身体に絡んできた黒い風……それに気付き、俺は大きく飛びのいて距離を取った。


「今ので決めるつもりだったわけじゃないけど……無傷で凌がれるのは少し堪えるな」


 舌打ちを一つして周囲を漂う黒い風を睨んだ。


 荒れ来る黒い風は≪アン・シャバール≫の力の一つ、正体は砂鉄に近い特殊な鉱石の粒子の塊だ。

 電磁的な力によって操っているとされており、この力によって嵐を発生させているというわけだ。


 ただの風とは違って厄介なのは質量があるが故に一撃の軌道を逸らされたり、纏わりつかれて動きを重くされてたりと地味に面倒な力だ。

 ≪雷≫属性の攻撃が派手な分、どうしても目が行きがちだがそれだけの≪龍種≫ではない。



 伊達に六龍の中で最も強いと称される龍ではないのだ、嵐霆龍≪アン・シャバール≫は……。



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