第二百五十六話:戦線突破
冷静に考えて凄いことをしているという自覚はあった。
考えたことが無かったかと言われれば嘘になるが、やはり『Hunters Story』というゲームにおいてモンスターという存在は敵なのだ。
アップデートによって≪ノルド≫という存在がプレイヤーの相棒的な立ち位置になったらしいが基本的なことは変わらない。
モンスターは敵だ。
それがこの世界の大原則。
「それを堂々と無視している辺り……消されそうになっているのは自分で言うのもなんだが自業自得感が凄いな」
「んー、何か言ったアリー? 風の音で聞こえないー」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「ひゃっほー!!」
「ルキ煩い」
俺たちはその大原則に対して真正面から喧嘩を売る行為をしていた。
つまりは現状の――『Hunters Story』の看板モンスターである≪リンドヴァーン≫の背に乗って空を飛んでいるという行為である。
「ふわー、空を飛んでいますよアルマン様ー!」
「覗き込んで落ちるなよ」
相手の大侵攻を迎え撃ち、数を減らしたところで≪霊廟≫に逆侵攻をかけるという作戦。
この作戦の最も重要なポイントはどうやってモンスターの群れを突破するかということだ。
いくら後方の勢力も前線に釣り出したとはいえ、≪グレイシア≫から≪霊廟≫に向かう間にはモンスターの群れという障害物がある。
それを何とか突破する手段を用意出来なければこの作戦は机上の空論となる。
そこで思いついたのが空を飛んで突破する手段ということだ。
地上は物理的に大型モンスターがひしめき合っている状態で通り抜けるのは難しいが空を飛んで一気に飛び越えてしまえば関係はない。
とはいえ、この『Hunters Story』に空を渡る乗り物なんてのは気球ぐらいしかない。
そして、気球で突破しようというのは些か無理がある。
何せ地上に跋扈しているモンスターの数ほどではないが、飛行できる大型モンスターも大勢侵攻に参加している。
気球の速力では標的にされしまえば一環のお終い、だからその案は没となった。
では、他にどんな方法なら前線のモンスターの群れを速やかに飛んで突破できるのか。
考えた末に思いついたのかがこれだったのだ。
エヴァンジェルの≪龍の乙女≫によるハッキング能力。
それによって飛行できる大型モンスターを支配下において利用する。
大侵攻が始まって籠城戦に持ち込んだのは単に相手の軍勢の数を減らすのだけが目的ではなかった。
飛行可能な大型モンスターを生け捕りにし、エヴァンジェルが干渉して支配下に置くための時間が必要だったのだ。
≪ノルド≫の時は案外簡単に上手くいってしまったが、それは解放されていなかった設定が大きく影響していたのだろう。
本来、プレイヤーに従うようなプログラムなど持っていない大型モンスター相手に一から従順になるようにプログラムを構築する……正直、俺には難しさが想像もつかない事柄ではあったがエヴァンジェルは丸一日を費やして成功して見せた。
「それにしても白い≪リンドヴァーン≫とは……」
「ああ、普通の≪リンドヴァーン≫も居たんだけどこっちの方がカッコいいだろう?」
「まあ、ただの色違いの≪亜種≫だからな。攻撃パターンが原種とは違うところがあるぐらいで能力的にもそこまでは変わらないし……」
それならばエヴァンジェルが好きなので良いだろう。
というか個人的には≪リンドヴァーン≫に乗れただけで満足なのだ。
――まさか、≪リンドヴァーン≫に乗れるとはな。別に空を飛べるモンスターだったら何でも良かったんだけど……。
こうして『Hunters Story』の顔とも言える≪リンドヴァーン≫の背にとって空を翔けるというのは胸が熱くなる感動を覚えた。
飛行能力も十分で言うことはない。
下を見ると無数の大型モンスターの群れが一心に≪グレイシア≫へ向かっている様子が見えた。
俺たちはその上を悠々と一気に駆け抜けていく。
「いいぞー、シロ! お前は良い子だなー」
「シロという名前は……いや、うん」
エヴァンジェルが嬉しそうに首筋に手を伸ばして撫でている。
シロ、というのはこの≪リンドヴァーン亜種≫のことだ。
彼女のつけた名前だが色々直球過ぎるし、厳つい飛竜に対して可愛すぎる名前だなと思わなくもなかったが彼女が満足そうな以上、何かを言うのは野暮というものだろう。
「とにかく、これで順調に行けそうですねアルマン様!」
「いや……そうでもないみたいだ。まっ、わかってたことだけど」
ルキの言葉に俺はある方向の空を見ながら言った。
そこにはこちらを捕捉したのか向かってくる≪飛竜種≫のモンスターが数匹向かって来ているのが見えた。
確かに空を飛んで地上のモンスターを無視するという方法はとてもシンプルかつ効果的ではあったが、当然空には空の邪魔物が居るということだ。
「それでも前も後ろも左右も囲まれる下よりはましだけど……エヴァ、振り切れそうか?」
「んー、いや、無理っぽいかなー。こっちは僕たちを乗せてるから」
「なら、やることは一つだな」
俺はそう言っていざ時の為に落ちないよう、括りつけてあった紐を外して立ち上がった。
「よし、進路はそのまま真っ直ぐに。邪魔な奴は叩き落す」
そう言って≪
「うわー、もう普通に空中戦する気ですよこの人……」
「おい、その引いた顔をするのやめろ。よりにもよってお前が」
「いや、確かに私は造りましたけど別に空中戦を想定して作ってたわけじゃ。それを頭の悪い運用しているのはアルマン様というか」
「なにか?」
「何でもないでーす。それよりも私も迎撃なら私もお手伝いしますよ」
「ん? まあ、確かにお前の武具なら遠距離攻撃も出来るだろうけどここは俺に任せて――ってなんだそれ?」
ゴトリっとルキが取り出したそれに俺は思わず尋ねてしまった。
それはあまりに黒く、冷たく、長く、無機質で、だがどこか剣呑とした雰囲気を放った機能美を追求した筒状の部位と指をかけて引く部分を持った――
「銃じゃねーか!?」
「作っちゃいました! 名付けて
ガッチガチの銃だった。
世界観ぶち壊しというレベルじゃない、火縄銃とかそんな感じのギリギリを攻めたデザインではなく、途轍もなく近代的……いや、この場合は古代的なフォルムをした大型なライフル銃であった。
――いや、確かにやろうと思えば作れはしたんだろうけどさぁ?
万能の天才っぽいムーヴが多かったので忘れがちだったが、ルキはそもそも火薬至上主義の火力厨である。
それを考えればある意味正統進化とも言える武具であった。
昔チラッと見た昔の映画に出て来る対物ライフルに似たデザインで銃口も大きく、よほどの特殊弾頭を使用するのであろうことが伺える。
只管に破壊力のみを追求した形、それが
とりあえず、ゲームの世界観大事にしている「ノア」相手に真正面から喧嘩を売っている武具だった。
「ふふふっ、いつまでも停滞しているルキちゃんではないのです。この日の為に夜なべして専用の弾頭もたくさん!」
「くぅーん」
「フェイルが邪魔そうに背負ってるのそれかぁ……なんか増えてるなとは思ってたけど」
「私の活躍、見ててくださいね」
「はあ、とりあえず全部終わったら説教で。それよりも今は――」
俺は向かってくる飛竜たちを眺めながら言った。
「ちょっと手を貸してくれるか?」
「……っ!! はい、喜んで!」
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