第二百五十話:最後の戦い②
根本的な問題、システムの根幹に根差す問題は再起動プログラムを起動出来たところで改善できることはない。
エヴァンジェルが上手く起動させられたとして、彼女はやはりシステムの最上位管理者ではないからだ。
恐らく、システム内部から完全に破壊されてしまったモンスターのセーフティーなどのプログラムは新たに再構築する必要があり、再起動したところで改善できるというものでは無いだろう。
それがスピネルの推測だ。
要するにこれ単体では根本的な解決にならないので、破棄された草案の一つだったが彼女は現状を踏まえてこれに活路を見出したのだ。
では、なぜ再起動プログラムを発動させるのかという理由、それはは一時的に「ノア」のシステムを空白化させ、その間に情報を整理、バグなどのデータによる不全を解消させることにある。
つまりは「ノア」の中に保存されている今周回で不正と判断されたデータを一度リセットさせること。
――「今回の「新生プロトコル」の起動の主な理由はイベントの進行不可状態ではなく、度重なる不正行為の蓄積によるものだ。それを一旦リセットしてしまえば「新生プロトコル」を続行する理由は無くなる」
――「とはいえ、≪龍の乙女≫や≪龍狩り≫の装備などがある以上は改めて不正判定を受けるだけで意味は無くなる。だが、仮に……仮にだぞ? 再起動プログラムを発動させ、一時停止から再起動を終えるまでの間にイベントを……つまりは全ての≪龍種≫の討伐を達成できればどうなる?」
――「一時的な機能停止と言えど、「楽園」の全てのシステムがダウンするわけじゃない。あくまで「ノア」の基幹部分のシステムが一時的にダウンするだけで他はそのまま持続する。「ノア」はこの「楽園」に欠かせないものだが、「ノア」に何らかの異常が発生したからと言って全てが停まるわけではない。モンスターは基本的にスタンドアローンだからな」
――「そうなると停止期間中にイベントをクリアし再起動を果たした「ノア」は、今までの不正判定をリセットされているから正常な状態でイベントはクリアされた……と誤認させることが出来るかもしれない。あくまで希望的観測ではあるけどな」
希望的観測とスピネルは言うが気になっていた部分をクリアできそうな素敵な案に俺には思えた。
一番の問題だった、システム的にチート行為を遠慮なく使ってクリアしても「ノア」は認めてくれるのかという点。
そこを上手く掻い潜るための策。
無論、問題点は軽く考えても幾つも思いついた。
例えばそもそも論としてまだ二体も≪龍種≫を倒さないといけないという点、特に創世龍≪アー・ガイン≫に関してはまるで情報が無いため初見で倒さないといけない。
それに加えてこの案だと上手く倒すタイミングさえ気を付けないといけない。
ただ、倒すだけではなく倒し方にさえ気を使うとなると……何とも厄介な話だ。
だが、しなければならないというのならやるしかないだろう。
――「それ以外にも色々と問題がある。まず第一に≪神龍教≫で作られた「ノア」へのアンチプログラムだが現状では一つしかない。一度破棄された案だったからな。チャンスは一度きりだ。そして、予想される「ノア」が停止から再起動までにかかる時間はおよそ五分から十分前後と思われる」
猶予はそれほどないということか。
――「そして、最も重要な問題はどうやってプログラムを「ノア」へ送り込むかということだ。「総合統括AIノア」に本質的な意味で本体というのは存在しない。この「楽園」を構成する数多のナノマシンネットワークの中に存在している……言うなれば「楽園」自体が「ノア」だと言っても過言ではない」
「楽園」自体が「ノア」なのならば別につなげるのは難しくないのではないか、ある意味でどこからでもナノマシンの相互間ネットワークを介して干渉できるのか……とふと思ったがどうにもそういうものでもないらしい。
――「実体としてはそれこそそこらの木や大地にすらナノマシンは含まれ、「楽園」内はバイオコンピューターとして繋がっているとはいえだ。流石に「ノア」の基幹的な部分へとアクセスできるのは限られた施設しか不可能だ」
限られた施設、この「楽園」にとって重要度の高い施設なら「総合統括AIノア」の管理下に基本的には入っている。
逆説的に言えばそこからなら「ノア」のAIとしての基幹部分にアクションをかけることが出来る……ということだ。
俺がその時に思いついたのは≪深海の遺跡≫についてだ。
確かあそこ「楽園」における重要施設の一つだと話に聞いた、ならば条件に合うのではないかと尋ねてみたがスピネルの答えはノーだった。
――「確かにあそこは管理下の一つではあるが、所詮は保管庫だからな。基本的な維持については別のAIが担当してだろう? あそこからは無理だ。そもそも私たちの侵入のせいで完全な閉鎖状態に入っていて外から入るのは難しいだろうしな」
そう言えばそうだったなと思いつつ、では何処か別の施設か、あるいは方法でもあるのかと問うとスピネルは難しい顔をした。
――「確かに≪深海の遺跡≫の他にも隠された重要な施設はある。そこからならプログラムを送り込むことはできるとは思うが、何処も離れていてな。このロルツィング辺境伯領周辺にあるものは一つしかない」
――「そして、だ。最も重要な問題点というのは場所もそうだが、どうやって送り込むのかということだ。こればっかりは≪龍狩り≫に現地でやって貰うという手法は取れない。なにせ≪龍の乙女≫の力が必要不可欠だからな、遠隔で行う……というのは難しいだろう」
それはつまり、エヴァンジェルを直接向かわせないといけないという話であり、
「……ロルツィング辺境伯領周辺で、その再構築プログラムを起動できる施設というのは?」
「東の森の奥に眠る古代文明の残滓の残るエリア――≪霊廟≫。正確に言えば|モンスターの生産を担う施設という「楽園」にとって重要な拠点。だからこそ、そこからならプログラムを流し込むことは可能と推測する」
要するに、
「≪龍狩り≫、お前は≪龍の乙女≫を伴って――≪霊廟≫へと辿り着け」
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