第二百四十七話:≪グレイシア≫の地下にて
「≪グレイシア≫の地下にこんな所があるだなんて……」
「ここは物語の中心地だ。ある意味では「楽園」において最も重要な地とも言える。あってもおかしくはないだろう?」
「そう言われるとそうかもしれないけど……」
エヴァンジェルとアルマンの距離が雰囲気的に近づいたことを察し、なんだろうどこか癖になるような刺激を脳に刻みつつ、発散するかのようにフィギュアづくりに勤しんでいたところ、
――「一体だけでも凄いのに二体も同時に倒してしまうなんて……流石はアルマン。この功績をキチンと世に残せるように私が形にしないとっ!」
――「おい、アンネリーゼ・ヴォルツ話が――」
――「アルマンが来ていた防具や武具のデザイン画は既にルキちゃんに貰っているし、早速政策の為の用意を……けど、カッコいいな≪龍喰らい≫」
――「……ねえ、聞こえてる? 聞こえてるよね??」
――「一番カッコいいアルマンが着てしまうともう無敵ね。無敵すぎる。完璧。さすアル。そんなアルマンの魅力を余すところなく表現を……」
――「無視をするな。話があってだな」
――「しかし、ここまでガチガチの重武装な見た目になるとただのフィギュアではどうしても表現力に限界が……」
――「……チャレンジしてみますか、ルキちゃんの考案した――超合金フィギュアを!!」「いいから聞けぇ!!」「ひゃいっ!?? スピネルちゃん?!」
回想終了。
製作中に話をかけてこないで欲しい、集中しているのだから。
まあ、それはともかくとして急にやってきたスピネルにアンネリーゼは連れ出された。
最初は何事かと思ったがアルマンに許可は取ったらしいことを説明されて大人しくついていくことにした。
アルマンが必要だと認識して許可を出したのなら、アンネリーゼとしても否はない。
それは彼の……息子の為にもなるということ。
ならばアンネリーゼが拒絶することなどあり得ないのだ。
むしろ、役に立てることを与えて来るならありがとうと言いたいぐらい。
「≪御神木≫の根元に入口が……ねぇ。全く知らなかったわ」
「そうなんですか、アンネリーゼ様」
「結構長い間こっちには住んでいるんだけどまるで知らなかったわ。そもそも、この≪御神木≫は≪長老≫が管理していたから……」
「この入り口を守るのも彼の役割だ。まあ、普段は知らないがな。限られた人間に出入り口のことを尋ねられることをトリガーに、ここの道を開放するようになっている」
「なっている、か。あまり好きになれない言い方ね」
「気を悪くしたか?」
「多少はね。≪長老≫は――気のいいお爺様よ」
「……ネームドキャラクターは他の人間より、少しばかりシステムからの干渉が行われやすいだけの人間だ。少なくとも人格、性格などの大部分は当人由来の経験によるものはず……だから――」
「冗談よ、気にしないで。何となく消化できない部分があるだけだから。それよりもここで一体何をやらせるつもりなのかしら? アルマンの為になる事なら喜んで手伝うつもりだけど、エヴァンジェルちゃんも一緒だし……」
「えっと、私も詳しくは」
≪グレイシア≫の中央には≪御神木≫という特別な大きな木がある。
途轍もなく雄大で城壁からしっかりと見えるほどに巨大な樹木。
この都市の象徴とも言えるものだ。
とはいえ、最初はその巨大さに圧倒されるものの暮らしている内に見慣れた光景と成り果て、私自身もあまり気にすることも無くなった≪御神木≫であったが、何とその根元には隠された扉があったのだ。
管理を任されている≪長老≫にスピネルが話しかけると、開けてくれて私たちは先導されるがままに地下を折りてこの地下の空間に辿り着いた。
正直に言えば意味が解らない。
あといい加減に説明をして欲しいという気持ちを込めて尋ねるとスピネルは口を開き始めた。
「ここは≪グレイシア≫にある都市の調整ユニット施設だ」
「調整ユニット施設?」
「さっきも言ったがここはこの「楽園」の最も重要な場所とも言っていい。本来なら大量のプレイヤーが訪れ、イベントや特別なクエストなども頻繁に発生する始まりの中心地――とされていた都市だ。当然、人が増えたりイベントを行えばどうしたって不測の事態が起きる可能性もある。それらを「ノア」が全て管理するのは無理があるので、都市内部のことは出来るだけ都市内で処理できる方が都合がいい。それにイベントとは言っても全体を取り仕切る「ノア」が自ら興すようなものとは別に、小規模なものもあるからな……」
「それらを管理、調整するための施設ってこと?」
「まあ、もっと細々したこともやるがな。基本的には都市運営を補助的にサポートする為の施設――そういう理解でいい。とはいえ本格的に必要になる前……つまりは「楽園」の本格的な運用が始まる前にことが起きてこうなってしまったから殆ど稼働はしていなかった」
スピネルは言葉を切って見上げた。
彼女と同じく、その視線の先には広い空間が広がり天井には銀色に輝く木の根っこのようなものが天井にびっしりと張り付き淡く光っていた。
「――はずだったのだがな」
「何というか動いていないかい?」
「二人が何を言っているのかさっぱりわからないわ」
一応、この世界が作り物だとかアルマンの記憶の事とか聞いてはいるのだが、私はどうにも上手く呑み込めていない部分が多い。
息子が本当に息子だった。
アンネリーゼにとってはそれだけで十分過ぎることで、世界がどうとかはあまり興味の無い事柄だったからだ。
ただ、そんなアンネリーゼに比べエヴァンジェルはかなり理解しているようだ。
先程の来る途中の通路も「≪深海の遺跡≫の内部と雰囲気が似てるな……」などと呟いて居たり。
――未来の義理の娘がとても聡明では母は嬉しいです。……かふっ!
「どうかしましたかアンネリーゼ様?」
「いえ、ちょっと脳に痺れが……」
「の、脳ですか!? それはちょっとマズいんじゃ」
「大丈夫、慣れてきたから」
「慣れていいものでは無いのでは?」
閑話休題。
アンネリーゼはスピネルに再度尋ねた。
「それで結局ここに来て何をすればいいのかしら? ここが特殊な場所でなんか動いているっぽいのはわかったけど」
「そうだったな、お前たち二人を呼んだのは他でもない。少し手伝いをして欲しいんだ」
「手伝い?」
「ああ、何分ここは「楽園」の内部施設だからな基本的に一般人は入ることが出来ない、運営側の存在しか入ることが出来ないんだ。そのための≪長老≫という入り口の管理者が居たり、内部だってセキュリティがある。ここをパスして内部に入ることが出来るのは……」
「運営側の存在。つまりはエルフィアンの血?」
「まあ、そういうことになる。≪龍の乙女≫は存在自体がバグのようなものだから、入ることは出来るとして。アンネリーゼも呼んだのはそのエルフィアンとしての血の濃さだ。あるいは通れるかもと思って連れてきたが予想通りだった」
「バグって……」
エヴァンジェルは何とも言えない顔をしているが、抗議するほどの事でも無いかとそれを呑み込むと尋ねた。
「私とアンネリーゼ様を呼んだのは「入れる存在」だから、というのはわかった。要するに作業に人手が必要だから集めたと。ルドウィークが居ないのは……うん」
「まあ、そうね」
理由については予想がつくのでアンネリーゼとエヴァンジェルはその点に関してスルーして話を進める。
「結局のところ、何をやりたいの?」
「ここの施設が稼働しているということは、ある程度「楽園」内のシステムを使うことは可能だ。まあ、大部分は支配下に置かれているので出来ることはそう多くはないのだが……」
「それで?」
「……≪ノルド≫たちの変化、それにここの稼働。本来であれば≪
「いいけど、どこと通信を繋ぐつもりなんだい?」
「――私の古巣。≪神龍教≫の本部にだ。そこならば何かを掴んでいるかもしれない」
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