第二百四十五話:龍を以って、龍を殺すということ


 思うところは多々ある。


 特にエヴァンジェルやアンネリーゼらを巻き込むことに対しては、その必要性と安全性について十分に聞き出した上で許諾を出した。

 心配がないわけではないが、そもそも今のこのロルツィング辺境伯領に完全に安全な場所など存在しない以上は仕方のない部分がある。


「それで……どうなんだ?」


 俺は自身をそう納得させた上でルキに尋ねることにした。

 スピネルたちはすぐに行動する為に既に離れており、今は彼女と二人きりだ。


「まあ、大枠は出来たとは思いますよ」


「ほー」


「そもそも防具としての鋳型自体は既にできていましたから。まあ、ちょっと手直しはしましたけど」


 研究所の奥にある工房、そこで見せられた≪龍喰らい≫は見た目自体にはそこまでの大きな変化はないようにぱっと見は思えた。

 多少の手直しはされて左腕部が変化しているのは気づいていたがそれは置いておくとして、奇妙な変化が起こっていることに気付いた。


「あれ、膝の部分に……」


「おおっ、気付きましたか! 流石はアルマン様です!」


 俺が気付いたことに嬉しかったのかぴょこぴょこと跳ねてルキは喜んだ。


 ≪龍喰らい≫のデザインには両手の甲の部分と両膝、そして両肩の部分に大きさで言えば直径十一センチほどの球体上の物体が付いていた。

 それぞれ同じ大きさだが両手の甲の球体だけ色が付いており、残りの両膝と両肩の球体は無色透明だった。


 それなのに今の≪龍喰らい≫は両膝の球体にも色がついていた。

 しかもそれぞれが別の色をしている。


「これはもしかして……」


 二色だけならばそういう配色なのだと気にもしなかったが、烈日龍≪シャ・ウリュシュ≫と銀征龍≪ザー・ニュロウ≫との戦いの前と後で増えた色、その色に俺は見覚えがあった。


「はい、その通りです。アルマン様はそのも見ていますし、発想を繋げるのは難しくなかったですかね」


「やはりこれは≪烈日龍の閃玉≫と≪銀征龍の凍玉≫……いや、しかし小さいな?」


「正確にはそれをもとに加工した出力コアとして特化させたものだと思ってくれれば」


「となるとこの両手の部分は……色からして≪溶獄龍の赫玉≫と≪冥霧龍の闇玉≫か?」


「大正解です! さっすがー!」


 ルキは嬉々として喋り始めた。

 ≪龍殺し≫として創り上げていた≪屠龍大剣・天翔シャウラ・グラム≫の製作途中で判明した特殊なエネルギー、それを最大限生かせるようにとアンダーマンの残した資料によって≪龍喰らい≫を完成させようとした彼女だがそのエネルギーは想定を上回るものであった。

 現状で完成させられる≪龍殺し≫でも十二分のスペックを発揮できるが、もっと上を目指せるのではないか……と。



「事実として想定以上の性能を発揮していましたからね、≪龍喰らい≫。まあ、アルマン様のセンスがおかしかった部分もありますが。それでもまだ先があるならとりあえず目指すのが私という天才」


「だが、皇帝陛下から貰った六色宝玉へそくりは解析と≪龍喰らい≫そのものを造るのに全部使ってしまった。そんじょそこらの素材では交ぜるだけ性能を劣化させかねない。ではどうするべきか……と悩んでいると気付いてしまいました」


「――あれ? 冷静に考えると六色宝玉って二つ存在しない? 皇帝陛下からの贈り物と現地産で……」


「膨大なエネルギーである≪龍≫属性エネルギーを十全に扱うにはそれを素材に鎧を作った方がいい。だけど、鎧を作ってしまうと炉心の分が無くなってしまう……でも、ここには二つ分あるから! 二つあるなら鋳型である鎧と炉心も両方作れる!」


「龍の素材で刃を振るい、龍の素材で鎧を纏い、龍の心から迸る龍の力を以て龍を討つ。龍を殺すために龍の力を使うのではなく、もう龍になってしまえと! それこそが私の行きついた――結論なのです!!」



 怒涛の勢いで喋り続け、最終的にどや顔で締めたルキは満足そうであった。


 ――というかコイツ、俺の防具に六つも炉心つける気だったの? ≪シャ・ウリュシュ≫たちと戦った時が二つで今が四つなら単純計算で二倍……二倍かー。


 身に纏って使ったからこそわかる。

 莫大な力の奔流、それが駆け巡る感覚。

 最終的にあれの三倍を目指すとか俺を殺したいのだろうか。


「アルマン様に死んで欲しいなんてあるわけないじゃないですか! これはアルマン様が死なないための手段! 力なんです……!」


「いや、まあ、力なんてあった方がいいに決まってるんだからそれはいいとして……ルキ」


「はい」


 俺は根本的な問題に気付いていた。


 ルキは≪龍喰らい≫の完成を龍討伐の為に作っていたはずだ。

 その性能に関しては疑う余地もなく、更には≪龍種≫の≪宝玉≫を修得できればそれを使って強化し、性能をアップデートも出来るとか。


 なるほど、実に素晴らしい。

 事実として≪龍喰らい≫は≪シャ・ウリュシュ≫と≪ザー・ニュロウ≫の倒し、その≪宝玉≫を得ることで更なる力を手にし完成に近づいた……実に結構だ。


 この調子で六龍全ての≪宝玉≫を改めて手に入れて、組み込んだ時≪龍喰らい≫は――完成するのだ。


「いや、遅いだろ。六龍全部倒して≪宝玉≫奪ったら完成するって……もう≪龍種≫全部倒してるじゃん」


「作ってる最中に気付きましたよね、実際」


「おい」


「でも、相手の力をぶんどって強くなっていくってまんま狩人っぽくて浪漫があるなって……ありません、浪漫?」


「いや、言いたいことはわかるけども」


「良かったー、流石はアルマン様です。私のことわかってるー! まあ、というわけで地味に感謝しましたよね創世龍≪アー・ガイン≫については」


「戦う俺の身にもなれ」


「はい♪ だから、最強の≪龍殺し≫を完成させてみます♪」


「うーん、この……」


 相も変わらずなルキの様子に毒気が抜けた。

 まあ、≪シャ・ウリュシュ≫らとの戦いよりも性能が上がっているらしいので、とりあえずは今のところはそれでいいとするとして……問題がある。


「まずこれって根本的にバグの塊過ぎないか?」


 元からそもそも倒しても居ない≪龍種≫の素材を利用して作られた≪屠龍大剣・天翔シャウラ・グラム≫や≪龍喰らい≫ではあるが、更に希少素材である≪宝玉≫を二重に使うあたり色々とダメな気がする。

 楽園のシステム的に見れば、存在しない装備をまだ修得できていない素材や増殖させた素材で作った形になるわけで不正に不正を重ねている感じだ。


「まあ、今更ですよ、今更。もうやっちゃってる以上、重ねても誤差ですよ誤差」


 俺の疑問に対してルキは平気そうな顔であった。

 実際のところこっちがバグやチートに類する行為を使い過ぎて、運営管理システム的に負荷がかかって挙動がおかしくなっているのではないか……という話をやったはずなのにこれである。


 ――現実問題として、かと言って控える……なんて選択肢もない以上、考えても仕方ないことではあるけど。


 それはそれとしてもうやっちゃった以上、何回やろうが大して変わらないは大概犯罪者思考だなと俺は思った。

 緊急事態だから色々と許してはいるけど、やっぱり目を離しちゃいけない人種だなと再確認しつつ続ける。



「じゃあ、それはいいとしてだ。最大の問題点があるな?」


「はい」


「嵐霆龍≪アン・シャバール≫の≪嵐霆龍の轟玉≫に関してはまだ倒してないからいいとして、だ」


「はい」



 俺は胡乱気な目で≪龍喰らい≫を見た。

 改めて見直しても何が変わるわけでもないが確認のためにだ。


 ≪龍喰らい≫に装着された炉心コアは色付いている。


 六つの内の四つ。

 つまりは二つ無色のコアがあるわけだ。


 ≪アン・シャバール≫の分は入手する予定として、それでも一つ足りないということになる。


「どういうことだよ」


「アルマン様が≪災疫龍の宵玉≫を帝都に持っていったからでしょー!」


 つまりはまあ……そういうことなのである。

 ルキとしてはこの強化案を思いついた時、てっきり≪グレイシア≫にあると思ってそのまま続行してたらしいのだが、蓋を開けてみるとそういえば俺は持て余してギュスターヴ三世に捧げたのだった。

 その後、六色の≪宝玉≫に関しては渡されたが多分それは保管してあった分を丸ごと渡しただけだったのだろう。

 俺が渡したのはそのまま向こうに置かれたまま……ということだ。



「いや、どうするんだよ。これ完成しないのでは……? 今から連絡取って送ってもらう?か」


「どれだけ時間がかかるんですかそれ。折角、完全体になったら真の名前にしようとウキウキで考えていたのに……こんなところで躓くとは」


「完成版になってネームチェンジか……わかってるな。まあ、それはそれとして。打つ手が無くなったか?」


「いえ、まだです。それについては方法がないわけではありません。ルドウィークさんに相談して一つ――案があります」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る