第二百三十九話:其れなるは龍の刃
――「≪龍≫属性のエネルギーとは一体なんだ?」
と一度スピネルに問いかけたことがある。
≪龍殺し≫の最たる特徴とも言える≪龍種≫特攻の属性エネルギー、その正体についてふと気になったからだ。
作ったルキに聞けばいいじゃないかと言われたが、彼女の説明は専門用語と独特の感性交じりで非常に解読するが難しい。
それに彼女の視点はあくまで外側から見た推論でしかない。
「楽園」のシステムの一部でもあるエルフィアンとして、内側からの視点でなら見えるものもまた違うのではないかと思って尋ねたのだ。
『Hunters Story』の中において属性と言われる要素は主に≪火≫、≪水≫、≪氷≫、≪雷≫の四属性。
稀に特殊な固有属性を持っているモンスターも居るが、基礎となるのはその四属性だ。
≪龍≫の属性――というのは存在はしない。
少なくともゲーム上では、天月翔吾の記憶の中では……だが。
――「そうだな、確かに≪龍≫属性なるものは設定上は存在しない。あの白黒女が勝手に作った「楽園」固有の属性である……ということだな。……言葉にすると大概、おかしなことをしているな」
スピネル曰く、天月翔吾が死んで以降の続編にもそんな属性設定はなかったという。
正直、続編について一度詳しく聞いてみたい気もするがそれは色々なことが終わってからでいいだろう。
『Hunters Story』について一度質問を始めたら止まれない自信が俺にはあるからだ。
まあ、それはともかくとして。
では、≪龍殺し≫の放つ≪龍≫属性エネルギーとは何なのかという話。
――「考えられるとしたら恐らくは――≪龍種≫固有の原動力だな。他の大型モンスターとは違い、事象規模での能力を使うことが出来る≪龍種≫には特別な生体コアを作る必要があった」
確かに他の大型モンスターである≪リンドヴァーン≫を例に挙げても巨体であり、空を飛び、そして炎のブレスを放つなど通常の生物では考えられない生き物――つまりはモンスターという風に相応しい力を持っているが、それでもまだ生物という枠組みを逸脱しているわけではない。
だが、≪龍種≫は違う。
天候を操り、モンスターを操り、山に大穴を開けるほどの力を平然と放つ。
その膨大な力の源は何なのかという話。
――「その中心が≪龍種≫の≪宝玉≫といわれるアイテム、部位にある。他の大型モンスターにもあるにはあるが、≪龍種≫にとっては本当にあれは心臓部――いや、それ以上の核と言ってもいい部分なんだ。≪龍種≫の力を再現するための莫大なエネルギーを生産するため生体コア、ナノマシン干渉によって環境すら書き換えるだけの無尽蔵の炉心……」
――「お前もおおよそわかっているかもしれないが、あえて教えておこう。≪龍種≫はつまり彼らの叡智の結晶である無限のエネルギー象徴――核融合炉心で動いている」
「馬鹿じゃないの」というのがまず頭を過った感想。
ついで「馬鹿だったな」と思い至る。
どう考えても≪龍種≫をどうやって再現しているのか。
細かい技術はさておいて、主にエネルギーという問題に置いて疑問に思っていたのだがまさか本当にしているとは……。
天月翔吾の時代においてエネルギー不足を改善した革命的な技術の一つに数えられていた核融合エネルギー技術。
とはいえ、それでも相応に大規模な施設が必要だったはずだが、天月翔吾が死んだ後にかなりの技術的発展を遂げたらしい。
何と素晴らしいことだろう。
遥か過去の歴史において人はエネルギー問題で何度となく歴史において悲惨な戦いを刻んだという、天月翔吾の未来の人間はただの遊興施設のモンスターにそれを使用したのだ。
技術というのは案外、人間を馬鹿にするものらしい。
それはともかく。
≪龍種≫の≪宝玉≫とはつまり膨大なナノマシン集積体であり、そして活動エネルギーを生産するコアでもある。
ルキはその概念を解析し、そして剣と鎧につぎ込んだわけだ。
そして生産されるのが決して尽きることのない無制限のエネルギー、≪龍≫属性のエネルギー。
――「恐らく、あの紫黒色のエネルギーは純化された核エネルギだー。本来はそのまま使っているわけではなく、≪龍種≫の個性に輪せて調整を加えたものを綯交ぜにして極めて純化したエネルギー。本来、個体に応じた調整をされたエネルギーであったならば、むしろ元気になっても良かったのだろうが……」
純化したエネルギーはその≪龍種≫の体内を駆け巡るエネルギーとは干渉し合い、防御機構が作用しないのではないか――それがスピネルと討論して出した結論だ。
これが真実なのかは今のところ不明だ。
あくまでも納得できそうな答えが欲しかっただけだ。
≪龍狩り≫のアルマンとしては
――「それで? そんなことを急に聞いてきてどうしたんだ?」
――「いや、興味本位……というわけでもないか。ルキの奴が作っている≪龍殺し≫、あいつ自身にも未知のところがあるのは知っているか?」
――「ああ。というか、未知の地平を切り開いているようなものだからな、恐らく仕様の三割も理解できてないんじゃないか? ……よくそんなもので戦おうと思うな」
――「実際、対≪龍種≫を考えるとこれ以上の武具もないのも事実だからね。だから、最大の特徴である≪龍≫属性のエネルギーってのの理解も深めておこうと思ってね」
そんなことを話したのは何時だったか。
荒れ狂う力が、脈動するような力が、自らの身体を――いや、≪龍喰らい≫、そして≪
戦闘を始めてから感じていた感覚ではあったが徐々に鮮明になってきた。
この感覚の原因については凡その見当は付いている。
ルキの施した実験、≪龍喰らい≫を作成する過程において行ったナノマシンを介して俺との繋がりを深くする技術。
それによってよりスムーズに動くことが出来るのようになったのは確かだが、繋がりが強くなったからこそ逆流してくるものもあった。
それは全てを灼き尽くさんとする雷の如く、煮えた滾る炎の如く、凍てつく氷の如く、だがどこか水のような無色でなにものにも染まっていない――力そのもの。
この感覚こそが≪龍≫属性のエネルギー、そのものであると俺は何故だか察することが出来た。
捉えることが出来たのだ。
理論的なことはわからない。
それらを行使する≪龍喰らい≫を纏っているからか、あるいは≪
ともかく、俺は感覚的にだがこの≪龍≫属性のエネルギーを扱う感覚というのを捉え、
――掴んだ。
そして、それを操る術を手に入れた。
自らの意思通りに動く≪龍喰らい≫、だが≪龍喰らい≫は未だに未完成で製作者であるルキですらまだ未知の部分も多いと聞く。
だからこそ、俺はやってみたのだ
≪龍喰らい≫を自在に操り、流れる≪龍≫属性のエネルギーを俺の意思で誘導――そして、操る。
理屈ではない、感覚の思うがままに。
ただ、紡ぐ。
フルダイブ式のVRにおいて、重要なのは並列思考、脳内の情報処理の高速化であるとされている。
ゲームそのものの知識、経験も大切ではあるがそれらはプレイヤースキルに直結する。
故にすればするほど次第に慣れていくものなのだ。
その時の感覚に近いのかもしれない。
それを利用して自らの身体を動かしつつ、一方で別のモノに意識を集中する。
俺の意思に反応するように≪龍喰らい≫は稼働し、その内に胎動するエネルギーが一つの流れとなって収束する。
腕から手へ、そして≪
「もう……一度ぉっ!!」
≪マルドゥーク≫を守った時と同じく、放たれるエネルギーは闇色に光る刃へと変わり――
「これで――終わりだァ!!」
俺はただ振り抜いた。
放たれた一閃はその巨躯に大穴を空けた二体の≪龍種≫を貫き、そして――
荒れ狂っていた天は静寂を取り戻した。
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