第二百三十七話:死の砂漠を征く
「突っ込む!? 正気……じゃないのは何時もの事か」
「どういう意味です??」
「そのまんまの意味だ。だが、本当に使う気か――あれ」
「というかなんで使う気ないのに作ったと思うんですか」
「いや、カッコいいからとかそういう理由だけでも作るだろ貴様」
「ルドウィークさん……」
そう言ってルキは私の肩に手を置くと口を開いた。
「私のこと――わかってくれるようになって嬉しいです。流石は私のパシr――じゃなくて自慢の助手ですね!」
「助手になったつもりはない。勝手に手伝わされているだけだし、今なんて言おうと……」
「それよりも! 今こそ、≪三重螺旋巨大撃龍槍≫を使う時! これ以上のタイミングがあるでしょうか? いや、ない!!」
興奮のままに頬を紅潮させ吼えるルキの姿。
その後ろでは≪マルドゥーク≫の船員が右へ左へと急いで動きまわっている。
≪マルドゥーク≫の船首に搭載されている≪三重螺旋巨大撃龍槍≫、そのセーフティを外すことで起動準備を行っていた。
そう今、この船はルキが考案した≪三重螺旋巨大撃龍槍≫というとんでも平気を使うために奔走してるのだ。
正直なところ、私から言わせれば正気とは思えない。
何せこれ、船首に搭載されているのである。
当然、これを使うには敵を正面に捉えなくてはならないわけで……そして、船という都合上≪マルドゥーク≫は前にしか進めない。
要するに突っ込むこと前提の兵器である。
その点に関してはアルマンにも突っ込まれていた。
≪龍種≫相手に真正面から突っ込むなんて正気の沙汰ではない。
あのブレスの威力を忘れたのだろうか、装甲の厚い横からの攻撃であったとはいえあの被害だ、いくら対モンスターを想定して頑丈に作られているとはいえ真正面から突っ込むというのは……。
「しかし、ですね。≪三重螺旋巨大撃龍槍≫を確実に当てるには近づかないと、早々に使えるものじゃないわけですし」
「それはまあ、わかるが」
「更には≪シャ・ウリシュ≫も≪ザー・ニュロウ≫も地上に降りている今しか当てる機会がありません! 飛ばれたらどうしようもないですし」
「それもわかるが……単に貴様が使いたいだけではないのか?」
「それはそう!」
「おい」
「でも、それだけではありません」
あっさりと自身の欲望に関して認めたルキに私は思わずジト目になるが、すぐに表情を引き締めた彼女の様子に話を聞く体勢に入った。
「相手が≪激昂状態≫に入ったということは、ダメージが相当に蓄積しているということを示しています。そこに≪三重螺旋巨大撃龍槍≫を叩き込めば一気に致命にまで持っていくことが出来るはず……」
「まあ、否定はしない」
ルキの言葉に頷いた。
「楽園」のルールの外に存在している兵器である≪三重螺旋巨大撃龍槍≫は確かに効果的なダメージを与えることが出来るだろう。
作った奴は間違いなくバカであると一目見ればわかるだろう、極めて原始的で物理的で火薬的な破壊兵器。
柱と言っても過言ではないほどに巨大な槍でぶち抜き、抉り貫き、炸裂すればさしもの古代科学の粋を集めて作られた≪龍種≫と言えど無事では済まないのは想像に難くはない。
「今を置いて機会はありません。≪激昂状態≫になったお陰でただでさえ強かった二体が強化された。いくらアルマン様と言えど、抑え続けるのは無理でしょう。だからこそ……幸い、二体は互いとアルマン様にヘイトを向けているので接近すること自体は難しくないと思います」
「とはいえ、それは距離を置いているからだ。攻撃が出来なくなったから捨て置かれているだけで、明らかに近づいてくれば対応してくるぞ?」
突っ込みながらあちらからの攻撃を器用に回避することなんて≪マルドゥーク≫には出来ないわけで……。
「そこら辺はアルマン様を信じて……なんか、こう上手くやってくるはずです!」
「結局は≪龍狩り≫任せか」
私は溜息を吐いた。
アルマン曰く、浪漫の塊。
逆に言えば浪漫しかないこの兵器、≪シャ・ウリシュ≫と≪ザー・ニュロウ≫を討つための計画には組み込まれてはいなかった。
そりゃ、相手は空を飛ぶし特攻染みた軌道をしないと使えない兵器など基本的に組み込むわけがない。
つまりはルキたちの行動は即興だ。
元より計画していた行動ではない以上、アルマンが上手く合わせて立ち回ってくれることを祈るしかないという。
「分の悪い賭けだな」
「その程度のことで怖気ずくほど、ロルツィング辺境伯領の狩人は軟弱じゃないです」
ルキはそう答えた。
その言葉にふと私は思い出した。
下手をうてば死体が残るかも怪しい死地。
二体の≪龍種≫が荒れ狂い、その力がぶつかり合う炎と氷の地獄。
そこに向かうというのにルキの眼に怯えはなかった。
何時ものように自身の欲に染まった眼でもなく、その瞳の奥には意志があった。
いや、ルキだけではなく準備を進めている≪マルドゥーク≫に乗っている者たちの目にもだ。
恐怖がないわけではなく、敵の強大さがわかってないわけでも、危険を理解していないわけでもない。
「そういえば貴様も狩人だったな」
「知らなかったんですか? 私も立派な狩人なんですよ」
それは戦う者の眼だ。
数多くのモンスターと戦い、殺し合い、そして生き抜いてきた――狩人としての瞳。
「今回はアルマン様を一人だけ戦わせるために来たわけじゃない。私たちで≪龍種≫を討つために来たんですから」
「……なるほどな。やれやれ」
◆
砂原の大地を船は征く。
膨大な熱の炎、あるいは極限の凍気に晒された影響で地面はもはや無茶苦茶な状態だ。
マグマのように煮え立つ大地になっているかと思えば、一方で美しきも恐ろしい氷に覆われていたりと無秩序といってもいい。
だが、そんなことなど知るかとばかりに全てを踏み潰して≪マルドゥーク≫はその死の砂漠を超えることが出来る。
故に全く速力を落とすこともなく、≪マルドゥーク≫はこちらに突っ込んでこれるのだ。
「あいつら……っ! ええい、合図位……っ!」
いや、そっちを確認する余裕は無かったか。
内心で反省しつつ、俺はすぐ様に動き出した。
≪マルドゥーク≫の特攻。
それは事前に示し合わせていた行動ではないが、おおよそやりたいことはわかるし判断自体は間違ってはいないとは俺としても思う。
この戦いの趨勢を決めかねない行動。
問題はそれをフォローする必要があるということで……。
「――っちィ!」
迫り来る≪マルドゥーク≫の存在に気付いたのだろう、≪ザー・ニュロウ≫と相対していた≪シャ・ウリシュ≫が動き始める。
「そのまま気づかなければよかったものを……っ!」
――≪無窮≫
――≪無窮≫
空中に大きく跳び上がり、次いですぐさまに連続発動を行い空中機動を行って俺は≪シャ・ウリシュ≫の頭部へと駆け上がった。
ただ佇んでいるだけで放たれる熱量、近づくごとに灼熱の炎が己の身を焼くが強引にそれを突破し、≪
今にも≪マルドゥーク≫へとブレスを放とうとした≪シャ・ウリシュ≫の眼に、深々と突き刺さる≪
苦悶の咆哮が上がり、それを好機と見たのか俺ごと≪シャ・ウリシュ≫を攻撃しようと迫って来る≪ザー・ニュロウ≫。
「――来い!!」
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