第二百三十四話:砲火
≪閃光管≫、特殊な溶液と鉱石の粉を混ぜ合わせた液体を詰めた管で、これが割れて空気に触れることにより強力な閃光を発生させるアイテム。
これは『Hunters Story』の中ではそこそこ重要なアイテムだ。
店で買うと割と高いし、作ろうとするとやや面倒で作りやすくもないので便利ではあるもの初心者とかだとあまり使わないことも多いアイテム。
ただ、中級者以上になる頃合いにはその有用性に気付いて効果的に運用し始める頃だろう。
このアイテムの一番便利な所は、大抵のモンスターなら使用することで怯ませることが出来るところだ。
一応、ダメージでもモンスターを怯ませることはできるが基本的に体力の多い大型モンスターを怯ませるのは手間がかかり、それもこちらの都合がいいタイミングで都合よく……など、出来るのは一部の廃人と呼ばれる人外どもだけなので考慮の外に置くとして。
こちらのタイミングで相手を怯ませることができる≪閃光管≫はとても便利で、相手から一時的に距離を取りたい時、仕切り直ししたい時など等。
更には適切なタイミング、相手が跳躍して空中に居る時や勢い良く突っ込んできている時に合わせることが出来れば、単に怯ませるだけよりも多くの効果が得られるかもしれない。
そして、何より≪閃光管≫の一番の有用性は飛行能力を持つモンスターへの使用時に発揮される。
飛行能力を持つモンスターは滞空したり、空を飛んで地上の狩人目掛けて攻撃する……という攻撃方法を取る時がある。
その際に、≪閃光管≫を使用して怯ませるとそのまま地上に落ちてしばらく動きが鈍くなるというギミックがあるのだ。
これが狩猟の際に有用で一気にダメージを与えるチャンスになる、というわけだ。
そして、このギミックは通常の大型モンスターだけでなく≪龍種≫にも通用したりする。
やはり≪龍種≫もモンスターというくくりにおいては同じということのなのか、そこら辺はわからないがともかく重要なのは≪閃光管≫は≪龍種≫にも効果があるということだ。
本来なら上空をずっと飛んでいた≪シャ・ウリシュ≫とて、やろうと思えば落とすことは出来たのだ。
だが、
「――効果を確認!! ≪シャ・ウリシュ≫に≪ザー・ニュロウ≫、予測通りに落下中」
「ああ、肉眼で確認できる。あれだけ目立つんだからな」
放った≪閃光砲弾≫の閃光がおさまったタイミングで、双眼鏡を使って状況を確認していたルキの言葉に私は答えた。
≪龍種≫というのはどちらも大きく、≪シャ・ウリシュ≫は燃えているし≪ザー・ニュロウ≫は白い煙のようなものを発しており、遠目から見ても何というか見分けがつけやすい。
上手いことまとめて≪閃光砲弾≫の炸裂によってまとめて叩き落せたようだ。
≪閃光管≫をぎっしりと詰めた特性の砲弾だ、たぶん身近でまともに見たら目が焼ける程度の光量があっただろう。
一瞬、空が昼になったかのように明るくなったことからもその威力が伺える。
対≪龍種≫用の切り札の一つとも言っていい。
「第一段階は上手く推移、と言ったところか。だが、油断はするなよ?」
「耐性ですよね? わかっていますよ」
そう緊急時だけでなく、飛行能力を持つモンスター相手なら随分と有用なこのアイテム、一件弱点など無いように思えるが仕様上の弱点を抱えており、それはモンスターは何度も≪閃光管≫による怯みを受けると効果が弱くなってしまうということだ。
何度も使える手段でなく、またあまり使い過ぎると戦っているモンスター以外の周囲のモンスターを刺激しかねないという「楽園」だからこその注意点も存在する。
だからこそ、この有用な≪閃光管≫を如何に使うか。
その使い方次第で狩人の腕のほどがわかるといわれている。
「――確実に削ります。アルマン様が引き付けてくれたお陰で、こちらへの影響は最小限で済みました。立て直す時間、そして準備も問題ありません」
「方位、距離、共に問題なし」
「熱気と冷気がぶつかり合って乱気流が起こって照準が……」
「そこは数で補います。敵は地に落ちた。ならば、今こそ≪マルドゥーク≫の火力をお見舞いする時! 左舷砲門、全門開けぇ!」
「うわっ、こいつ……ウキウキしてる」
「目が輝いているな」
「標的はそんじょそこらのモンスターではなく、あの≪龍種≫ですよ! 相手にとって不足なし!」
ルキは目を爛々と輝かせながら叫んだ。
「≪大砲≫ならびに≪爆槍矢≫装填!! 一斉発射……です!!」
その号令と共に地鳴りような爆音が轟いた。
唯一の戦艦としての≪マルドゥーク≫の力を示すように、数えるのも馬鹿らしいほどの搭載された兵器の一斉射が地に落ちた二体の≪龍種≫に目掛けて放たれた。
それはまるで降り注ぐ雨のように一帯を薙ぎ払うが如く放たれた攻撃、逃れようもなく≪シャ・ウリシュ≫も≪ザー・ニュロウ≫も――そして、
「勢い良く撃つのはいいが、あそこに≪龍狩り≫も居るのを忘れていないか?」
「……あっ」
近くに居たアルマンも捉え、襲い掛かったのだった。
◆
「ルキの奴……絶対に後でとっちめる」
耳が壊れそうなほどの爆音。
硝煙の匂いが一帯を覆っている。
無数の砲弾や爆発する矢である≪爆槍矢≫の嵐が降り注ぎ、それを≪シャ・ウリシュ≫や≪ザー・ニュロウ≫の巨体を盾にして凌ぎつつ俺は静かに心の中でそう誓った。
「……とりあえず、計画通りには進んでいる――か?」
圧倒的な火力、二体の≪龍種≫の戦いの蚊帳の外に置かれていた≪マルドゥーク≫の一斉攻撃に晒され、のたうち回る≪シャ・ウリシュ≫と≪ザー・ニュロウ≫の姿を見ながら俺はただそう冷静に分析を行った。
今のところ、想定していた通りに物事は進んでいるように見える。
二体の強大なモンスターである≪シャ・ウリシュ≫と≪ザー・ニュロウ≫を上手く食い合わせつつ、タイミングを計って墜落させてそこに≪マルドゥーク≫の火器による一斉攻撃で一気にダメージを与えるという第一段階。
『Hunters Story』において普通に殴るより効率的にダメージを与えられる≪大砲≫の砲撃、それは設定通りに大ダメージを二体に与えているのがわかる。
多少改良したとはいえ、そこまで逸脱したものではなく、精々射撃距離と精度の改善程度、威力自体は変わってないがとにかく数が違う。
絶え間なく一帯ごと吹き飛ばす勢いで降り注ぐ砲弾の嵐に、俺は「たぶん≪マルドゥーク≫ではルキの奴がはしゃいでいるんだろうな」と思った。
降り注ぐ側でなければ俺も多分、興奮して乱射するように指示を飛ばしていただろうことは想像に難くないからだ。
そして、降り注ぐ砲弾の雨に中に紛れる槍のような棒状の矢も見逃せない。
それは≪シャ・ウリシュ≫や≪ザー・ニュロウ≫の身体に突き刺さると、柄の部分から火が出てさらに奥まで潜り込んだかと思うと芯に詰められていた爆薬に火が付き――そして、破裂。
≪ジグ・ラウド≫戦でも使われた特別製の矢でもある≪爆槍矢≫である。
えげつないにもほどがある兵器であり、そのせいで二体の≪龍種≫には深い傷が刻まていく。
「もしかしてこのまま……」
「いけるのか?」と思わずつい零れそうになって慌てて俺は口を噤んだ。
狩猟において楽観的な考え方に流されると碌なことにならないと言っているからだ。
だとしても、だ。
――この数の砲撃、それに≪爆槍矢≫を受ければ……無事ではいられない、はず。
本来のゲームではありえないほどの密度の一斉攻撃だ、それを巨体故にもろに受けてしまい十分なほどにダメージを受け、弱まっている様子を身近で観察していた俺はそう考えた。
≪爆槍矢≫がどれほどのダメージを与えているかは未知数ではあるが、≪大砲≫一発のダメージ感覚は覚えている、直撃した分の量を考えれば大幅に削っているのは間違いないはず。
「これでこのまま片付けば一番楽なんだけど――」
降り注ぐ砲弾と爆裂する槍のような矢に、動くことが出来ずにいた俺の思いも虚しく、堕とされてことによる≪
「っ!? マズい!!」
咄嗟に反応して妨害しようとするも、一帯を丸ごと吹き飛ばすが如き≪マルドゥーク≫からの攻撃。
ゲームでやっていた際はこれらの兵器での攻撃には、フレンドリーファイアは発生しないようにされていたが、この「楽園」ではそういうわけにもいかず。
出遅れた俺を尻目に、
≪マルドゥーク≫目掛け――≪ザー・ニュロウ≫は特大のブレスを解き放った。
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