第二百二十九話:銀征龍≪ザー・ニュロウ≫
≪アナトゥム雪山≫、それは大陸の北に位置する凍土の霊山。
夏でも雪が降り積もる一帯は冬に入り始めた今の時期ならば尚更に――
「攻撃が……来ます!!」
「全員、気張りなさいな!」
そして何よりも相対する相手が相手ならば……もはや、真っ当な環境でいられない。
「くぅ……!?」
押し潰すように迫る巨大な氷塊、そして刺し殺してくるような氷柱が雨のように降り注ぐ。
一つ一つが大ダメージ必須の攻撃、領主からの命で≪氷≫属性への耐性が積んでいるから最小限に抑えられるとはいえ、一度捕まってしまえばどうなるかは想像に難くはない。
「くそっ、逃げ場が……うわぁあああ!?」
「ぬぅん!」
放たれた氷柱の直撃こそ避けたものの、大地を穿った氷柱によって創られた壁によって逃げ場を失った羽根飾りを付けた狩人。
トドメと言わんばかりに放たれた強力な氷の嵐、まともに受けてしまえば如何に防具を身に纏った狩人と言えど――だからこそ、私は踏み込み裂帛の気合と共に自慢の≪大斧≫を叩きつけ破壊する。
「っ、早く!?」
「ふ、伏せろっ!?」
脱出路を無理矢理作り、そう声を上げた瞬間――羽根飾りの狩人はこちらに飛びかかり、
轟音。
「っ……無事かしら?」
「――ああっ、全く悪運の良いことにね」
「それは良かった」
よろよろと立ち上がるとそこは一面の銀世界。
至る所には美しく恐ろしい凍れる氷槍が至る所に突き刺さり、部隊の三分の一に匹敵する狩人が倒れ伏している光景があった。
何れも経験豊富な狩人ばかり、だがそれでも……。
「やれやれ、アルマン様も無茶な≪
嘆息するも、よくよく考えればアルマンはこれに匹敵する戦いをサンド乗り越えてきたのだ。
一度は関わったとはいえ、その他の二体についてはほぼ独力で倒したという。
ならば、それよりもマシな状況で……この≪白薔薇≫のレメディオスが弱音を吐けるはずもなし。
「……状況は?」
「酷いものだ。第二、第四部隊との連絡は途絶……まあ、相手がアレじゃあな」
疲れたように零した羽根飾りの狩人の言葉、私はそれに表には出さずとも同意した。
視線の先では天を舞う巨大な大蛇のようなモンスターが舞っている。
その山一つを二巻きするような巨体をくねらせ、いかなる条理をもってか宙を泳いでいるのだ。
その姿は美しく、舞い散りる雪の夜空に浮かぶ姿は目を奪われるかのよう。
だが、その幻想的なまでな美しさに目を奪われてしまえば、待つの冷たい氷よりも恐ろしい残酷なまでの――終わりのみ。
今、ここに居る狩人たちは誰よりも正しく理解していた。
アレは死を運ぶモンスターであるということを。
――こんなのを三体も……いや、予定通りなら四体、かしら。
内心でそんなことを私はただ思った。
実際に相対して戦ってみてわかる――≪龍種≫という存在の強さ。
――考えて見れば≪ジグ・ラウド≫の時も、最終決戦の時に命を張ったのはアルマン様だけでしたね……。
ただアルマンが目的の位置に誘い出すのを待ち、そして一斉攻撃の号をかけるだけの存在だった。
「≪龍狩り≫である彼の存在を除き、≪龍種≫と戦った狩人」、などと称される存在ではないことなど――重々承知なのだ。
「これが≪龍種≫……相手にとって不足なし」
戦えばわかる、相手は今まで戦ってきた大型モンスターとの戦闘が児戯に思える存在だと。
「勝ち目はない、それでもやるのか?」
「勝ち目があるかどうかで戦うことを決めるなら……狩人なんて成らなかったわ」
羽根飾りの狩人にそう返しながら私は立ち上がった。
≪
≪
酷い≪
「特にあの頑張り屋さんの領主様に春が来たんじゃ……ね」
「……≪
「アルマン様の言っていた≪死氷領域≫ってやつね。回復アイテムの一部が使用不可になるかもとは聞いてはいけど……」
「まさか、物理的に凍結して使いものにならなくなるとはな。……予想外だった」
「全部じゃないならまだマシよ、凍った≪
「出来ればいいがな。それにこの凍気……」
「ええ、身体の芯から凍り付くような冷気。普段の防具で来ていたらどうなっていたことか」
やれやれと首を振りながら私は立ち上がった。
出来れば隠れてやり過ごしたい気持ちがないわけではないが――役目があるのだ。
それは私の――レメディオスとしての拘りだけれども。
「さて、気張っていくわよぉ!!」
咆哮と共に、スキルを発動させる。
黒き甲冑のような防具に刻まれた蛇の這った跡のような文様が確かに浮かんだ。
――≪黒蛇克服≫
慣れ親しんだスキル発動の感覚。
けれども訪れるのは未だかつてないほどの無双の力。
「やってやろうじゃない」
≪災疫災禍≫を身に纏いながら私は吼え――そして、八時間の時間が過ぎた。
そして。
「遅れたか?」
「良いところですよ、アルマン様……。お客様を連れてきたようで」
「どっちもまとめて――ここで終わらせてやるさ」
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