第二百二十四話:戦艦≪マルドゥーク≫


 ≪三重螺旋巨大撃龍槍≫。


 原理としては≪龍槍砲≫と変わらない。

 巨大な合金で来た槍――というか柱を特殊な火薬の力で発射した叩き込む。


 それが三発連発で叩き込まれ、ついでにドリルのように溝も掘られ旋回しながら叩き込まれる。

 

 何という馬鹿な兵器。

 ある意味清々しいほど、その瞬間の火力に全てのリソースを注いでいたのだ。


 浪漫と言えば浪漫なのだが……それは間違いないのだが。



「勝手につけるな」


「あうー、また拳骨……私の頭は至宝なのに。無理に搭載したわけじゃないよ? ちゃんと≪マルドゥーク≫の船体設計図に確認した上で、航行力とかに問題が出ないように作ったからね! 船としての機能が当初より下がっている――なんてことはこのルキ様に掛かればないのである!」


「やかましい」


「おぐっ!?」



 反省が足りないのでもう一度拳骨を与えた後、船首に出るその真下にある巨大な柱にすら見える槍を見た。


 アレが凄まじい勢いでは発射され、全てを抉り飛ばして貫通する。

 大火力というに相応しい威力にワクワクする気持ちがないわけではない。



 これが動いて敵モンスターを討伐したら、どれほど気持ちよくなれるか……。



「まあ、それはそれとして。こいつをぶっ放せる敵なんていないだろうけど」


「ええ、そんなこと言わないでくださいよー。アルマン様ー! ほら、≪シャ・ウリシュ≫とか居るじゃないですか!」


「いや、確かに他の大型モンスターより一回りは大きいとはいえ当てるのは至難の業だろうコレ。≪ジグ・ラウド≫くらいの大きさなら……まあ? って感じだけど」


「諦めないで」


「というか船首の部分に搭載しているから、使うとなると突っ込む感じか真正面から向かってくるところをカウンターか……浪漫は認めるけども」


 実際には使い辛いというレベルではない。

 流石に戦艦として作ったとはいえ、そこまでアグレッシブな戦い方をさせる想定ではない。

 砲火力を活かした砲艦としての役目が強い運用だ。


 なので≪三重螺旋巨大撃龍槍≫などというとんでも兵器、合ってないと言えば合ってないのだが……。


「――まあ、カッコいいし浪漫は認めるから外さなくていいか」


「さっすが、アルマン様! 話が分かるぅ!」


「それでいいのか≪龍狩り≫」


「なんというか本当に仲がいいなコイツら」


 ルドウィークらが何か言っているがスルーだ。

 大火力兵装、この単語に心を躍らせない男の子など居ないのだ。



「それでこの≪マルドゥーク≫に乗って≪アジル砂漠≫に赴いて≪シャ・ウリシュ≫を倒す、と?」



 気を取り直して話かけてきたスピネル。


「ああ、今回の事件……重要なのは機動力だ。出来るだけ早く片方を討伐し、もう片方を――というのが理想だ。だが、それをするには≪アジル砂漠≫から≪アナトゥム雪山≫までの道のりは遠すぎる」


「……なるほどでは、確かにな」


「その通り。≪アジル砂漠≫を北に上るルートなら話は別だ」


 ≪アジル砂漠≫とは帝都のある西とロルツィング辺境伯領のある東を分断するように、北から南までを河のように貫いている砂漠地帯のことだ。

 主線の交易航路として使われ、頻繁に人の大来が多い≪中央砂漠≫とそれ以外に≪南部砂漠≫、≪北部砂漠≫というエリア区分もゲームの設定ではあったぐらいには広いフィールドだった。

 それぞれのエリア区分で採れる≪採取アイテム≫に違いがあったり、出没するモンスターにも変化があったりとするのだが、一先ずその点はおいておくとして


 重要なのは北にまで≪アジル砂漠≫は伸びているということだ。

 無論、砂漠なのでまともな手段で渡ろうとすれば馬車も使えないので難儀なのだが、この世界には砂上船という砂漠を渡れる船の存在がある。


 馬車よりもずっと早く、砂漠という特性上から木々などの自然の障害物も少ない。

 大型モンスターも確かに出てくるし、襲ってくるかもしれないが――


「ただの砂上船ではなく戦艦である≪マルドゥーク≫なら蹴散らして強引に進むことが出来る」


「なるほど、現状では最速の手段ではあるな」


 俺の言葉に同意するようにルドウィークは頷いた。

 基本的に決まった航路でもない限り、どんなモンスターが襲ってくるかの見通しも立たないので普通の砂上船では土台無理な話でも≪マルドゥーク≫ならば可能性はある。


 そう思えるほどに彼らの目から見ても兵装は充実したのだろう。


 改良して飛距離と火力を改善した≪大砲≫や≪大型バリスタ≫のみならず、試験的に量産した≪破裂弾≫の運用も行っていた。

 ルキが考案した所謂、ホローポイント弾に近いアレだ。


 それの運用実験ために作られた銃座まで作られて置かれているのだ。

 技術者が興味深そうに話を聞いて作ったとのことだ。


 ルキが嬉しそうに制作秘話を語っていた。



「基本的なサイズが違い過ぎて、銃器というもの武器は自発的な発展はこの「楽園」の中では日の目を見なかったですけど、相応に効果があるとわかれば発展していくかもしれませんね!」


「やはり、≪龍狩り≫……お前よくも自分は不正行為をしていないみたいな顔を」


「生きていくこと考えると効率的な力を求めるとこうなるのは仕方ないことだろう」



 自分でもやり過ぎたかなとは思わなくもなかったが、命がかかって居るのだから俺は悪くない。

 それはそれとして、だ。


「一先ずはこの策で行くとして……後は運だな」


「≪シャ・ウリシュ≫のことか?」


「ああ、≪中央砂漠≫近郊で発見された報告こそあるものの行ってすぐに見つかるかどうか」


「確かに≪ザー・ニュロウ≫のことも気になる以上、時間をかけるのは良くないな」


「だが、相手も生き物だ。別に巣穴というわけでもないなら、基本的には徘徊しているはず。そうなると上手く会敵出来るかは――」


「運というわけですね」


 特に会いたくなかった時にはひょっこり出てくるというのに、さっさと会いたい時には会えるかが心配になるというのは、なんというか儘ならない気持ちになる。


「俺が災疫龍も溶獄龍も冥霧龍も倒したんだ。近くにまで出向けば出てくる……か?」


「どうだろうな。≪龍狩り≫がイベントを進めているプレイヤーである以上、優先的に狙っては来るだろうがプログラムではそれほど強力に個人を意識するものではない。そうであるなら既に一斉に≪グレイシア≫へと襲撃をかけているだろう」


「あくまでも個々に設定されたモンスターとしての生態、性格に沿った行動を取りつつもお前のことを意識している……程度と考えればいい」


「そうなるとやはり運の要素が強いか」


 スピネルとルドウィークの話を聞いて俺はそう結論を出した。

 想定内ではあったため驚きはない、仕方ないと切り替える。




「まあ、しょうがない。どのみち、出たとこ勝負な部分は否めないんだ。こうしていたって仕方ない、とにかく船を出す用意を。そして、烈日龍を見つけ出し討伐を――」


「はい!!」


「「「…………」」」




 言いかけたところでルキが元気に手を挙げた。

 目をキラキラと輝かせ、自信満々な笑みを浮かべている。



 俺たちは不安になった。



「はい、ルキくん。なんでしょうか」


「アルマン様! 私には≪シャ・ウリシュ≫と素早く会敵する素晴らしい案があります!」


 アイディアを思いついたらしい。

 ルキの言葉に俺とスピネルとルドウィークは咄嗟に視線を絡ませた。



 俺たちはとても不安になった。



「この私にお任せを!!」




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